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日向 京子と二人の男の子

挿絵はチャットGTPにて生成

日向ひむかい 京子きょうこは、静かに手紙を見つめていた。


 きれいに折りたたまれた紙。

 その角を、指先で何度もなぞる。

 しわひとつないように整え、もう一度ていねいに折り直す。


 ――大事なものは、きちんとあつかうべき。


 そんな当たり前の事を、当たり前に守る性格だった。

 手紙は、親友からのもの。

 転校することになったと伝えたとき、泣きながら書いてくれた手紙だった。

 京子はそれを胸の前で軽く押さえ、ゆっくりと息をはく。

 そして顔を上げる。


 そこは見たことのない場所だった。

 いや正確には教科書やマンガで見た事が有る。


 広い畳の部屋。

 天井は高く、柱は太い。

 まるで昔の貴族の大きな屋しきの中にいるような空間。

 けれど、どこか現実とはちがう空気がただよっている。


 ここは天磐船あまのいわふね

 京子きょうこは少し前までは家に居た。

 家の中で両親に笑顔でガンバレとはげまされ、いつも生意気な弟に見つめられて……

 そして気がついた時には、この場所にいた。


 京子は再度、荷物を入れたリュックを確認する。

 着がえや生活用品、矢文に書かれていた物が全て揃っている事を確認し、京子は小さくうなずいた。


 ――問題なし。


 次に、周りを見る。


 同じ年の子供たちが、あちこちにいる。

 楽しそうに話している子、きょろきょろと見回している子、不安そうにうつむいている子。


 京子はその様子を、じっと観察する。


 ――ここで友達を作るべきよね。


 そう考えたからだ。

 その時、目に入った一人うつむいている男の子。


 少し小さめの体。

 周りと話す様子もなく、ただじっとしている。

 京子はその子に興味を持ち、すっと近づく。


「……ねぇ」


 そして声をかけた。

 男の子はびくっとして顔を上げる。


「少し話さない?」


 京子の提案で、こくりと男の子は小さくうなずく。


「名前は?」

「樹…… 雲立くもだて いつき

「私は日向 京子よ。よろしくね」


 京子がそう笑顔で返事を返すと、樹は言う。


「ありがとう、京子ちゃん」


 そして話を続ける。


「ボク……あんまり、人に話しかけられなくて」


 どこかほっとしたような顔。

 しかしそんは樹の次の言葉に、京子はとまどう。


「カワイイ女の子に話しかけてもらって、本当にうれしいよ」


 京子自身、カワイイ自覚は多少あった。

 しかし面と向かって同じ年の男の子に『カワイイ』と言われたのは初めて。

 しかも笑顔で……


 そんな、返事に困っている京子とそれに気づかない樹の元に、近付いて来る男の子がいる。


 「おい」


 その声で男の子に気がついた京子と樹が、声の方に視線を向ける。

 そこに立っていたのは、背の高い少年。

 整った顔立ち。どこか中性的で、それでいて目つきはまっ直ぐ。


 「男のくせに、初対面の女にそれ言うのかよ」


 そう言った男の子は少し不機嫌そう。

 そして視線は樹に向いている。


「君、だれ?」


 驚いて聞き返す樹に、男の子は樹と京子の顔を確認してから返事を返す。


「確かにそうだな、オレは渡津美わたつみ たつみ。」


 自己紹介をした巽に、京子がたずねる。

 

「何で貴方が怒ってるのよ」


 しかし巽はそれに答えない……

 いや、はずかしくて女の子には答えたくないのだ。

 京子はそんな巽を、顔には出さないが心の中できらう。


 ――何よこの子。


 そんな時――……


「「きゃぁぁぁぁ‼」」

 


 天磐船が大きくゆれた。

 足元がふらつく。

 辺りからは子供たちのさけび声。


 ――わっ!


 そして京子はバランスをくずし倒れそうになった。


「きゃぁ」 


 その直後……

 うでが引き寄せられ、ぐっと体が支えられる。


「大丈夫か?」


 巽が京子をだき寄せて助けていた。

 近い。

 とても近い距離。

 顔がすぐ近くに在る。

 二人の目が合った。

 京子は思う。


 ――近い。


 京子の心臓が大きく鳴る。

 恥ずかしさや驚き、いろいろなものが一気に押し寄せる。

 だから無意識に視線をそらした。


 そして――……


 パシン!


 と、音が響いた。

 巽の顔が、わずかに横を向く。

 京子は、自分が何をしたのか理解していなかった。

 ただ、体が勝手に動いただけ。


 パシン!という音に気付いた子供たちは、京子と巽に視線を向けている。

 京子、樹、巽はそれぞれ無言で固まっていた。


挿絵(By みてみん)


 そんな三人で最初に動いたのは、他の子供たちが自分を注目している事に気がついた巽。

 巽は無言のまま、どこかへ走り去っていった。

 樹は巽の行動に我に返り、京子の様子を一度確認した後、あわてれ巽を追いかける。

 そして京子は、その場に残された。


 ――どうして。


 京子は頭で考えを上手くまとめられない。


 ――助けてもらった。

 ――なのに、叩いちゃった。

 ――初対面の男の子を……

 ――謝らないと。


 そして体も動かない。

 ただ、立ちつくすことしかできなかった。

 胸が苦しい。

 これからの生活の不安さえ、頭から消えてしまうほどに……


 一方で、その様子を見守りながらゆれに不信感を感じている者が居た。

 子供たちの世話を任された、1メートルほどの人語を話す八咫烏やたがらす三匹。

 正確には天磐船を運んでいる八咫烏の子供たち。

 そして八咫烏とは、足の三本有る大きなカラスの事。

 子供の八咫烏の一匹は思う。

 

 ――今のゆれ……おかしいな。


 天磐船は母親が運んでいる。

 今、この空域に人間の乗り物は存在しないはず。

 つまり、母親が故意にこの船をゆらさなければ先ほどのゆれは起きない。

 でも母親がそんな事をする理由がない。

 八咫烏は小さく首をかしげる。


 この考えは他二匹も同じであった。




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