8.第二段階
居心地が悪いレストランを出て、気分を変えるため、広場に来た。
噴水の近くに並んで座った。
奇妙な気分だ。
出会ってから数日しか経っていない女の子に、ここまで心惹かれ、自分の気持ちを思わず言ってしまった。
確かに好ましい見た目をしている。
院長以外できれいだと思ったのはクレアだけだ。
だが、おれは彼女を院長と同じぐらい信じている。
こんなことになるとは。
もしかしたら、あの悪夢でおれは変わったのかもしれない。
クレアに救われたことによって。
人を信じて、護りたいと思った。
思わず気持ちが口から出てしまうほどに。
おれなんかの告白を喜ぶ彼女を幸せにしたい。
「そのためには行き当たりばったりではだめだ」
「はい!」
クレアにおれは自分の計画を話した。
これからどうするか、元々の計画を。
「おれはプロの冒険者になりたい」
おれがアマチュアなのは当然プロ試験を通れなかったからだ。
冒険者は誰でもプロ試験を受けられるが、その内容は厳しい。
冒険者として最低限の体力。
ピンチを切り抜ける冷静な判断力。
その元となる確かな知識。
なにより、魔物と戦い勝利する戦闘能力が求められる仕事だ。
試験では特にこの戦闘能力が評価に大きく影響する。
「だがおれのスキルだけでは戦闘は難しい」
「そう? 迷宮ボスとの闘いで使ったんでしょう?」
「あれは時間稼ぎに徹していたからな。攻撃には使えないし、おれには攻撃力がそもそもない。だからそれを身に着けたい」
「それってつまり……」
「ああ、おれは『冒険者育成校』へ入学したい」
『冒険者育成校』とはその名の通り、冒険者を育成するための教育機関。
古今東西、あらゆる技術、叡智、人材が集まり、それを学び、共有できる場所。
新種の魔物に有効な戦法が見つかれば、すぐにそれを修得するカリキュラムが組まれる。
戦闘だけではない。
より優れた武器や防具の製造法。
魔導協会から出向するエリート魔導士の講義。
スキルについて。
基本冒険に関わることならなんでも学べる。
確実な技術や知識を身に着けるには行っておいて損はない。
「なら私も行くー。いつか大きな迷宮へ潜るなら必要かと思ってたんだ」
「そうか。ただ、あの学校に入学するにはクリアしなければならない問題がある」
「お金だね」
そう、冒険者育成校は誰でも通えるところではない。
超エリート校であり、入学費用やらいろいろ金が掛かる。
約2000万ゴールド。
これだけあれば老後も安心という額だ。
「あ、だからヴィンはお金貯めてたんだね!」
「ああ、ほぼ使っちゃったけどな」
だから当面は金を稼ぐことが目標になる。
「お金なら、クエスト報酬で足りるんじゃないかな」
「クエスト報酬?」
「知らないの? 迷宮攻略でクエスト報酬もらえるんだよ」
「いや、それは知っているが、おれももらえるのか?」
「当たり前じゃん。私、報酬は山分けって言ったでしょ? それに主にヴィンが活躍して、トドメだってヴィンが刺したんだから!!」
昨日話した感じでは、おれへの報酬については触れて無かった。
アマチュアは正式なクエストを受けられない。
だからクエスト報酬というのをもらったことがない。
「一時的にでも私たちのパーティメンバーとして戦ったんだから、私たちに支払われる報酬の何割かはヴィンのものだよ」
「いいのか?」
「当たり前でしょ」
よかった。これで計画が早く進む。早く一人前にならないと――
「結婚するころにはじいさんになっちまうからな」
「う? き、気が早いよ」
「そ、そうか」
ようやく慣れて来た距離感に再びドギマギしながら、おれたちはギルドへ向かった。
有名なクレアと共に歩くおれに嫉妬の嵐。
視線が物語っている。
「 死 ね 」と。
「な、なんでクレアさんとアマチュアが?」
「昨日もいなかったよな……まさか」
「昨日からずっと一緒だったのか?」
「いや、ありえないだろ。だってアマチュアだぜ……」
「ああぜんぜん釣り合ってないよな」
くそ、自分でも思っていることだが他人に言われると腹が立つな。
そういえば、結局なんでクレアがおれのプロポーズを受け入れてくれたか聞けず終いだったな。
何か理由があるのか?
胸の内でざわめき立った心を知ってか知らずか、クレアがおれの手を握ってきた。
「気にしない、気にしない!」
ニカッと笑うクレアを見るとどうでも良くなった。
荒んでいたおれの心は癒された。
そうだよな。
こんな女と一緒に居る男を疎まないわけがない。
後ろ向きな考えが馬鹿らしくなる。
クレアの横に居て当然。
おれがそうなればいいだけのことだ。
「クレアはおれの女だ。あの有象無象共にもいつか、疑問の余地も湧かないほどに認めさせてやるよ」
「ヴィンの凄さを皆知らないだけだよ。私は知っているから別にいいけど」
「おれの凄さ?」
『デジャブ』のことか。
あ、おれが未来を見えると言ったからか?
やばいな。クレアもしかしておれの嘘を真に受けて、打算で……?
いや、クレアに限ってそれはないか。あんまり計画性とかなさそうだからな。
「ピーン、今なんか失礼なこと考えてない?」
「いいや、全然」
でも勘が鋭いんだよな。
一応『デジャブ』のことは秘密なんだがクレアには早めに真実を話した方が良さそうだ。
ギルドに着くと、勇者とルーアンが居た。
勇者はおれと一緒にいるクレアを見て、絶叫した。
「クレア! 勇者であるぼくに断りも無く、どうしてそんなアマチュアなんかと!! ふざけるな!! 貴様、まさか……ぼくのクレアを寝取ったのではあるまいな!!?」
勇者とクレアがそういう関係だとは思いもしなかった。
あまりの勢いに、ただ茫然としたおれは横にいたクレアを確認することしかできなかった。
だが、クレアもあっけにとられ、ただただ茫然としていた。




