9.迷宮の外に罠
クレアに告白をして、『冒険者育成校』に行くという目標も共有した。
入学資金は迷宮攻略のクエスト報酬で賄える。
おれとクレアはギルドにやって来て、勇者にパーティへ報酬の何割かを支払うように要求することにした。
ところが、勇者はおれとクレアの関係を見て怒りを爆発させた。
おれは二人の関係を見誤ったのかもしれないと焦った。しかし――
「私が誰と何をしようとあなたの許可なんていらないし、私は『ぼくのクレア』ではないし、寝取ったとか大声で言うな。ヴィンとはさっき付き合うと決めたばかりだ」
「なっ……! いや、何を言っているんだ?」
おれもようやく事態を飲み込めて来た。
「私は契約通り、あなたを迷宮攻略者にした。依頼は達成したからパーティを抜けさせてもらう。その前に今回のクエスト報酬をヴィンにもキチンと支払って」
クレアが勇者とパーティを組んだのは、元々依頼を受けたから。
そこに特別な感情は一切なかった。
ただし、勇者の方は違ったらしい。
「――え? ……何を言ってるんだ!!?」
「だから迷宮攻略報酬をヴィンにも払うって」
「そうじゃない!! クレア、君がこのパーティを抜けるって?」
「元々そういう契約だし、何度も言っただろ?」
「そ、そうだけど……冗談かと思ってたんだ!!」
なんでだ?
あの口調や顔を見て、なんで冗談だと思うのか、理解できん。
「じゃ、じゃあ再契約する!!」
「しないよ。元々お世話になってた人にどうしてもって頼まれたから受けた依頼だからな。半年も掛かるとわかってたら受けなかった」
「な、なんでだよ? 勇者であるぼくが頼んでいるのに……それに、あんなに上手くやって来たじゃないか!!」
勇者がクレアに詰め寄りクレアが距離を取る。
上手くはいってないようだ。
迷宮でもクレアの言うことを聞いていなかった。
コンビネーションもなく、お世辞にもパーティとしてうまくいっていたとは言えない。
「その『勇者であるぼく』って枕詞みたいなのが、イラっと来る」
勇者が放心している。
そこまでショックを受けることなのか?
ちなみにおれも同意見である。
コイツは自分が勇者であることを誇示しすぎだ。日常会話に挟むなよ。
――と、そんなことを考えつつ、話を聞いていたらふと勇者と目が合った。
「わかったぞ。お前だな!! お前がクレアをそそのかしてパーティを解散させようとしているんだ!!」
「は?」
勇者と問題を起こすと、クレアや他の人に迷惑を掛けるかもしれない。
だからじっと聞いて来たが、コイツは質が悪い。
「言いがかりだ。それに論点がズレている。おれたちは正当な報酬ついて――」
「ルーアン!! 何とかしてくれ!!」
するとそれまで黙っていたルーアンが口を開いた。
「アルトリンデンの忌み子が隣国で勇者の動向を探っていると知られれば、どうなる?」
ゾッとする脅しをかけられた。
おれを他国のスパイに仕立て上げるつもりだ。
油断した。
おれの個人情報を最悪な形で利用されてしまった。
「冒険者がステータス情報を言い触らす気!?」
「そいつは正規の冒険者じゃない。ならば報酬の件も払う義務はない。譲歩したとして迷宮の攻略方法への口止め料と言ったところだ。もちろん、今回の迷宮ボス討伐の経緯についても他言無用。逆らえばお前は捕らえられ拷問が待っている」
どこか油断ならない奴だとは思っていたが、悪知恵の働くやつだ。
命を助けられた自覚がないのだ。
こいつを甘く見たおれが愚かだったか。
「そんなことどうでもいいんだ!! クレアを返せ!!」
とうとう勇者が剣を抜いた。
「ちょっと、いい加減にしなよ!!」
「うるさい! 君は、ぼくの気持ちを知っているだろ!! よくこんな仕打ちができるな、この裏切り者! そいつさえ、そいつさえいなければ……」
勇者の憎悪がおれに集中する。
「クレアを賭けた正式な決闘。それでハッキリさせればいい。もちろん、双方同意が必要だが――」
決闘だと?
正気か?
とことん卑怯なやつだ。
断れば、おれの出自を勇者の名の下に貶め、断罪する。
一歩間違えれば関わったクレアにも危害が及ぶ。
ルーアン、この極悪人め。
こんな奴が癇癪持ちのわがままなガキに肩入れしているんだから質が悪い。
「断ろう、ヴィン。私がママに頼めば言いがかりを咎められるのはあっちだからね」
「ふん――皆、聞いてくれ!! 勇者パーティに決闘を申し込む者が現れたぞ!! アマチュア冒険者ヴィンセントだ!!」
突然、大声で宣伝をしたルーアン。
その声に引き寄せられるように冒険者たちが騒ぎ、群がり始めた。瞬く間に賭けが始まった。
「ふ、ふざけるな――」
「皆この勇猛なアマチュア冒険者ヴィンセントを称えよう! 彼は勇敢にも勇者パーティの一員であるクレアにその情欲を滾らせ、我がものにせんと欲した! なれば、勇者はクレアを手放すわけにはいかない。されど男の情欲を説得でどうなるものでなし! そこで、正々堂々、決闘にてどちらがクレアに相応しいかを決めようと機会を与えたのは勇者の寛大さによるものである!!」
口上に誘われ皆侮蔑を含んだ笑みでおれを見る。
「さぁ、舞台は用意した。よもや逃げまいな?」




