10.決闘
強引に決闘の流れが生まれ、周囲から煽り立てられた。
冒険者決闘ルール。
挑む方はスキルを使ってはならない。
格下相手に武器は使わない。
ついでに格上が格下へ決闘を申し込むことは不名誉なこととされる。
「公正」な決闘を演出するためだ。
これは冒険者ギルドが冒険者間の争いへの積極的不介入を正当化するため設けられた最低限の規律だ。
曰く「決闘から逃げる冒険者なぞ冒険者でない」らしい。
「都合のいい時だけ冒険者扱いしやがって……」
「ヴィン、どうしよう……」
不安そうにおれを見つめるクレア。
冒険者が組む相手を決めるのは本人の自由意思だ。
それを決闘で決めるなんて聞いたことがない。
「いい年して恥ずかしくないのか! これ以上ぼくらの仲に割り込まないでもらう。クレアは渡さない!!」
最初から話を聞いていた周りの連中はこれがただの言いがかりだと分かっているはず。
だが止める者はいない。
駆け出しの冒険者がA級勇者パーティのいざこざに口を挟めるはずがない。
むしろを今までおれをバカにしてきた奴や、仕事を断った奴らは嬉々として煽り立てる。
後からやって来て経緯を知らない者もいる。
勇者の言い分や煽り立てる奴らのせいでおれへの印象は最悪だ。
それでも決闘を避けようとクレアがおれを止める。
それを見越してルーアンがさらなる脅しをかけて来た。
「クレア、お前も勇者パーティから男のために離脱と陰口を叩かれれば信用を失うだろう。世間はスキャンダルを欲する。伝説の勇者パーティの二世となればなおさらだ」
ルーアンの言う通りだ。
おれの家の問題に加え、有名冒険者のパーティ「離脱」が「離反」と受け止められれば、彼女の冒険者人生に大きな傷がつく。
かと言って、負けても彼女は勇者のものにされてしまう。
おれのせいで、彼女の人生を狂わすわけにはいかない。
「わかった。その決闘受けよう」
「ちょっと、ヴィン!?」
確かに勝算は薄い。
だが、ある。
武器無し、スキル無しの勇者になら。
歓声がはやし立てる。
勇者は慣例に倣い、装備を外して丸腰になった。
と言ってもおれも武器など使っていないから優位ではない。
「ヴィン、私は何を言われてもいいから! やめて!」
「クレア、おれを信じろ。おれには未来が見えると言っただろ?」
「……っ、うそつき」
おれの固い意志を感じ取ったのか、クレアは押し黙った。
普通に戦ったら勝てない。
だが、勝算が無いわけではない。
勇者はおれのステータスを知っている。
だから絶対に負けるはずが無いと確信している。
だがそのステータスは迷宮攻略前のものだ。
体感だから定かではないが、今のおれは少なくとも3レベル以上レベルアップしているはず。
それに一回目の時と違い、コイツはおれがスキルを使うところを見ていない。
「未来が見える」という情報で、劣化版の『予知』のようなものだと誤認しているだろう。
『予知』は有名な自動発動型スキルだ。
発動タイミングはランダム。
一方『デジャブ』は任意発動型。
まさかこの戦闘の中で使われるとは思っていまい。
この認識の違いを利用する。
最初、油断している勇者の顔面に捨て身で攻撃しよう。
右ストレートか、蹴りか、タックルか、『デジャブ』でリスクを回避。
最初の一発目はフリーズの影響なく、先読みし尽くして攻撃できる。
その後は、何もさせずタコ殴りだ。
一番の勝算は、一回目でおれが勇者の戦いぶりを見たことだ。
奴の実力は見た。
勇者であること、強力なスキルにビビることは無い。
奴は経験が浅く、拙い。
スキルとステータス頼み。
それに精神が弱い。
一回目、『エレーナ』と泣き叫びながら逃げ回り死んだ。
格下だと思っているおれの攻撃を食らえばすぐに怒りで冷静さを失うだろう。
よし――
「勇者はスキル、武器の使用は控えること。『参った』が入った時点で決着。勝った方がクレアをものにする! では、始め!!」
「身の程を教えてやる!! お前みたいな負け組が本来勇者であるぼくに――なっ!!」
思った通り、勇者は油断していた。
おれは全力で距離を詰め、飛び掛かった。
組み付いての渾身の頭突きを顔面に喰らわせた。
「ぐはっ!!」
勇者から出血。
鼻を折ってやった。
そのまま勇者は倒れ込んだ。
おや?
思っていたより、ダメージが濃い。
不意打ちとは言え、ステータスが高ければおれ程度の攻撃など大したダメージにはならないはずだ。
【耐 久】は低いのか?
「ひ、卑怯ものめ!!」
「お前が言うな!!」
もう『デジャブ』を発動させる魔力は残っていない。
おれは馬乗りになって勇者の顔面目掛けて殴り掛かる。
クレアは絶対に渡さない!!
「このぉ!!」
勇者に突き飛ばされた。
しまった。やはり【膂 力】が違うか。
反撃の拳。
やられる!!
「――くっ……あれ?」
おれはその拳を余裕で回避した。




