5.さらなる変化
勇者とルーアンが合流し、部屋の財宝をたんまり回収した。
財宝と一緒に「魔法カバン」もあった。
これは中身が亜空間へつながっていて見た目の容積の何倍も荷物を詰め込める便利なものだ。
現代では再現がまだできてないロストテクノロジーというやつらしい。
迷宮最後の部屋には光るオブジェが出現し、これに触れると出口に一瞬で移動する。
おれはと言うと、身体が動かないため女戦士に抱えられて迷宮を後にした。
「クレア、君が背負う必要はない」
「ダイジョウブ」
「ぼくが」
「ダイジョウブ」
なぜかそのまま女戦士に背負われて、恥ずかしい帰還となってしまった。
「貴様、クレアに妙な気を起こすなよ!!」
おれたちが街に着いたのは夕方ごろだった。
おれたちは結局半日程度で、長年未攻略だった迷宮を攻略してしまったのだ。
◇
街に戻ると大歓声で迎え入れられた。
あの夢の中で、絶望と後悔の中、半ば意識も絶え絶えに歩いた道は、全く違う光景と化していた。
「すげー、攻略したのかよ!」
「勇者様!!」
「やったぜ、これでまた冒険者が増えるぞ!!」
「おい、あいつ女の子に背負われてるぞ」
「確かアマチュアの奴だよな、かっこわりー」
「足引っ張んたんだろう、どうせ」
やっかみか、嫉妬か知らないがおれへの中傷が聞こえる。
身体が動かないし、背負われて恰好が付かないから反論はしないでおく。
「ぐぅぅ‥‥‥」
「落ち着きなよ、あんなの気にしても無駄だって」
「わかっている。顔を覚えてるんだ。あいつがもし目の前で困っていてもおれは積極的に見捨てる」
「うわー、大人げない……」
迷宮攻略を称える歓声は全部勇者パーティへのものだ。
それは別にいい。
だがギルドではおれを知る冒険者たちから声を掛けられた。
「お前はいつかやる男だと思っていたぞ」
「さすがだね。もうプロで良いんじゃない?」
「あんたはアマの誇りだ! ありがとう!!」
急にすり寄って来やがって。
勇者はそれも気に入らなかったのかおれに金を押し付けるように渡した。
「いつまで居る気だ?」
おれもこいつと同じ空気を吸いたくない。
女戦士は囲まれていた。
一言礼を言っておこうかと思ってやめた。
契約遂行の報酬を受け取った。
約束した倍額ではないが、もう面倒だ。
さっさとおれはギルドを後にした。
おれは行かなければならないところがある。
ギルドを出て、街外れにある小高い丘を登る。
ふらつく脚で何度も倒れそうになった。
「はぁ、はぁ……『強壮丸』の反動がここまでだとは……」
「お兄さん、乗ってくかい?」
驚いて振り返ると女戦士がいた。
「お前、こんなところで何してるんだ?」
「だってヴィンセントがこそこそしてたから気になって」
気を使ったのに主役がこんなところに居たら意味無いな。
「それで、急いでどうしたの?」
「お前には関係ない」
「関係あるよ!!」
「ええ?」
すごい剣幕だ。
なんでだ?
「仲間が困ってたら心配するのは当たり前でしょ!!」
おれたちは仲間じゃない。
タダの仕事上の協力者だ。
それとも今度はアマチュアのおれをパーティに入れるつもりか?
お断りだ。
おれはソロで活動してるんだ。
そう言おうとしたが、反論できない。
この女とは相性が悪い。
「困っちゃいない。世話になった孤児院に寄付金を贈るだけだ」
それは口実で、院長の様子が気になるだけだ。
女戦士はなぜ今なのか不思議そうな顔をしていた。
「ふーん。なんだ、なら付き合うよ」
女戦士は付いて来たばかりか、いつまで経っても先に進めないおれに業を煮やし、またおれを担いだ。
あれだけの戦闘をしたあとだというのに、元気なやつだ。
何とか街の外れにある孤児院にやって来た。
「院長……」
「あら、ヴィンじゃない。ど、どうしたのその身体は?」
院長はキョロキョロとおれの身体の状態を窺う。
「いえ、何でもありません」
「ならなぜ女の子に背負われているの? それになんだか中心街の方が賑やかだけど何かあった?」
「迷宮が、攻略されたんです」
「まぁ、わざわざ報せに来てくれたの?」
「いいえ、お姉さん。彼が攻略したんですよ!!」
「ええ!!」
これでこの孤児院への援助が無くなることもない。
部屋に通されると子供たちが瀕死のおれを見てはしゃぎ群がって来た。
「院長どうしたの? あれなんだヴィンかよ~」
「うわぁ、だせー」
「ヴィンが女の人に負ぶさってるぞ!」
「かっこわりぃ! さすがアマチュアだな」
「もう、三十歳にもなってみっともないわ!」
その子供たちをクレアは一瞥し、ニカッとわらった。
「ヴィンセントはカッコ悪くないよ。迷宮攻略者だからね」
「「「え?」」」
「ヴィンセントはダサくないし、みっともなくも無いよ。だって迷宮攻略者だからね」
「「「「え? はい……」」」」
すごい、圧が強い。
生意気なガキどもを黙らせた。
「それで、そちらの方は?」
「どうも! A級冒険者パーティ『ホワイトホース』で戦士職やってます! クレアって言います!!」
「まぁ、初めまして。ここで院長をしているセイラです」
結局女戦士はおれの報告にも立ち会うことになった。
このほうが信憑性があるからいいか。
「ヴィン、あなた本当に迷宮を攻略したの!?」
「院長それより、これを」
おれは勇者パーティを最深部まで送り届けて得た報酬を寄付した。
「……はぁ、ヴィン。これはいただけません」
「え? でも……」
あの悪夢がちらっと過った。心臓がドクンと跳ねた。
「お金を出してくれるのは助かります。お金は大事です。でも、地図の収入や救援で臨時収入がある度にあなたは十分寄付をしてくれたわ。もう私があなたにしてあげた以上にね」
「そんなことは無い。おれがもっと……」
「いいですか、ヴィン。意地を張って他人を信用せず、独りぼっち。ただ自分の為だけに生きていく……そんな生き方を肯定するために、寄付をされても困るのです」
身体がかぁ~っと熱い。「強壮丸」の副作用か?
違う。
それはおれの生き方の危うさや無責任さを的確に指摘している。
なぜか涙がでそうなった。
院長は泣いている。キツイことを普段は言わない人だ。
きっと、あの夢の中でも最後に言いかけたのはこれなのかもしれないな。
「あなたには誰かのために何かをする力と知恵、才能があります。私のささやかな行いを恩に感じてくれるなら、その分を誰かへあげて。人の痛みが分かるあなたにはそれができるわ」
「はい」
傲慢で独りよがりだと、致命的な失敗で周りにも迷惑を掛ける。
それは身に染みて分かった。
結局おれは自分では立派にやっていたつもりで、実際は心配をかけまくっていたわけだ。
初めから勇者の申し出を謙虚に受けていたら、あんな悪夢は見ないで済んだのかもしれない。
「セイラさん、ヴィンセントはもう大丈夫だよ!! 仲間ならここにいるしね!!」
「あ? おい」
「そうね。だから、今は安心しています。ヴィンのことをよろしくお願いしますね」
「はい、よろこんで!!」
なぜこいつはこんなに元気なんだ?
コイツが元気過ぎで腹が立つ。
いや、女戦士のおかげで院長は安心している。
この女に腹を立てるのはお門違いだな。おれには無いものを持っているから妬ましいだけだ。
「女戦士、ありがとう」
「え? なに、気持ち悪い」
く、我慢だ!!!
「うわ、怒りを抑えてる!! いやだって、一緒に死線を潜り抜けたのに、いつまで『女戦士』なんて呼んでるんだよ」
「あ、ああ、そういうことか。ク、クレア?」
「なに、ヴィンセント?」
「おれを助けてくれてありがとう」
「こちらこそ! これからもよろしくね!!」
こちらこそ?
これから?
やはりこいつのペースはおれには合わない。
「よ、よろしくな」
何をだ?
自分で言っていてわからない。
とりあえず否定する癖を止めて、肯定しておこう。
これで院長も安心……
「ちらちら私を見ないの! いくつなのよ、ヴィン」
「はい……」
「あはは、ヴィンっておじさんのくせに子供だよねー」
30歳をおじさんって、コイツいくつなんだ?
いや、どうでもいい。
結局、あの夢の正体はわからないままだ。
でも、長い長い一日は終わり、おれはようやく安眠を手に入れた。




