55.世紀の一戦 魔道の極みVS剣技の極致
一回目、えらそうな態度を取ったことを後悔した。
リナトリアが賢者と呼ばれたことを気にしていなかったがそれが魔導協会においてどの位置にあるのか。
見習い『マギ』 見習いではあるが魔導協会に入れるごく一部のエリート
魔法士『メイジ』 属性魔法の研究実用を主とする
魔術士『ソーサラー』 属性魔法だけでなく占星術、付与術、降霊術、法術、呪術など専門分野に長けた者
魔導士『マジシャン』 属性魔法、多様な術体系に精通し使い分ける戦闘に長けた者
大魔導『ウィザード』 属性、付与、精霊、古代魔法に加え、スキル、錬金術その他の知識に長けている。宮廷魔導士など戦闘職に多い
賢者『マスター』 大魔導とほぼ同じだが、あらゆる学問に通じている、主に学者を指す。
リナトリアは魔導を極めていらっしゃった。
その力たるや、想像以上だった。
対するツユキ・シマ。
彼もまた常軌を逸した強さを誇っていた。
シマはそもそも、剣術における主要な三つの流派――【クゼ】【イナミ】【ゴシキ】の起源となる本流。
クゼの閃光のような連撃剣
イナミの柔らかく流れるような流麗剣
ゴシキの全てを攻撃に転ずる破壊剣
それら全てを超越する剣は、【柔理気剣】と呼ばれる。
相手が何だろうが、どんな間合いに居ようが、どれだけ居ようが関係ない。
把握した者を全て根こそぎ一瞬でバラバラにする。
殺戮の剣だ。
相対する二人は対照的だが、片や魔導を極め、片や剣を極めた者。
勝負は長引くことは無かった。
二人の力の激突をおれは二回目で再度この眼に焼き付けることにした。
◇
二人の間には距離があった。
だが、ツユキにそんなものは関係ない。
間合いは目に映る全てだ。
だから、リナトリアは速攻で視覚をつぶした。
「あれは! ヴィンの!!」
そう、『閃光方陣筒』だ。
魔導士の弱点である戦闘態勢を整えるまでの隙を無くすため開始してすぐ使った。
時間稼ぎだ。
それに対し、ツユキは様子見だけ。
曰く、試験なのだから実力もわからぬうちに斬っては意味が無い、とのこと。
そう、その気になれば『閃光方陣筒』が起動した3秒の間に戦いを終わらせることもできたというのだ。
だが、その余裕が、剣聖ツユキ・シマに思いがけない苦戦を強いた。
一瞬の時間稼ぎでリナトリアが使った魔術は召喚魔法。
だが召喚士のようなスキルによる契約魔獣を呼び出すものとは次元が異なる。
古代の秘術を用い、様々な条件をクリアした時、時空の間から任意の相手を呼び出すことができるという。賢者だからこそなせる術だ。
「なんだ、あれは?」
「人、だよね?」
「ああ……あれは、古代の戦士、らしい」
「「え?」」
リナトリアを守るように現れた男。
普通の冒険者のようにも見える。特徴的なのは腰に帯びた剣。
それはツユキの持つ片刃と同じ、細長い剣、サムライソードだ。
彼が現れた瞬間、演習場の空気が変わった。
ツユキが本気を出したのだ。
到底剣など届く距離ではない。
そこから構えたツユキの剣は一瞬で無数の斬撃の塊を生み、それは一直線に古代の戦士へ放たれた。
斬撃の嵐はその手前で打ち消された。
「なっ……」
「今、斬った?」
「ああ」
信じられないことに、召喚された男はその斬撃を全て切り伏せた。
らしい。
全く見えなかったから実際何をしたのかもわからん。
「な、なにあれ強すぎるよ」
「古代の戦士だと? あれはもっと別の何かだろう!」
クレアとシンシア、この二人がこれほどに動揺するとは、やはり異常だ。
「いや、おれに言われても……」
リナトリア自身も全部を理解しているわけではないという。
古代言語の多くは謎に包まれている。その上、召喚する度に言うことが違ったり、明らかに嘘をつくときもあるらしい。あと妙に馴れ馴れしいところもあり、何を考えているかはなぞだ。
だが、求めに応じ、戦闘はしてくれる。
リナトリアは付与術を用いてアシストしようとしたが、断られたという。
結果戦闘は二人のものになりその戦闘は剣技の応酬となった。
現代の技を見せるツユキに対し、古代の戦士もまた自分の技を一つ一つ見せる。
この時ツユキは『サトリ』で考えを先読みしようとしたらしいが、何を言っているのか分からなかったそうだ。
「剣が増えているように見えるんだが」
「斬撃が早すぎて一度に何回も斬っているみたい」
「……だが古代の戦士は本気じゃない」
「「え?」」
そう、彼は戦士と自称したらしいが、嘘をつくのだ。
「あれ?」
「止まったぞ、なんだ?」
「決着だな」
あっけなく、戦いの幕は閉じた。
「ふぇ~参りましたぁ~」
リナトリアの魔力切れだ。その場に突っ伏した。
時間にしてほんの数十秒。
膨大な魔力を誇るハイエルフでさえ、召喚を維持するのにそれだけの魔力を要する、まさに最終奥義というわけだ。
戦いの終わりを悟った古代の戦士は剣を納めた。
だが、彼は去り際にとんでもないものを見せた。
「なぁ!!」
ツユキが反応することもできないほど速く撃ち込まれた、魔法。
その指先から放たれた光線はツユキの足元に小さな穴を穿っていた。
その気になれば一瞬で勝負は付いていたとでも言うように。
反則級の強さを見せつけた後、リナトリアの肩をポンと軽く叩き、次元の間にゆらゆらと消えていった。
長い沈黙の後、観衆からは大歓声が巻き起こった。
この場にいたことを幸運に思う者も多いだろう。
「凄まじいな、二人とも」
「うん、こりゃ私たちもうかうかしてられないね! がんばろう!」
前向きな二人。
一方おれは焦りを感じていた。
おれはどうすりゃいいんだ!?
こんな化け物連中と一緒に冒険するのか?
頼もしいを通り越して、怖い。
おれなんかが同じパーティにいたら場違い感がすごいぞ。
当然二人は試験に通過。
それも最初からS級、ランカースタートだった。
おれ以外全員S級って……
すごい話題性。
おれだけ無名無職のE級だし……