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54.☑剣聖 ただし小さくてかわいい方



おれはギルドに来ていた。

思いがけずパーティメンバーがそろったというのもあるが、名前が変わったので変更を届け出る必要があった。それと新メンバーの冒険者登録だ。

二(・)人(・)と(・)も(・)冒険者ではないからな。


「お名前の変更――家名を……!? そうですか、ユリレフォンですね! かしこまりました。え? ユリレフォン?」


受付嬢はリナトリアの冒険者試験申請書を見て何か確認している。


「言っておきますが、おれたちは夫婦じゃないですからね。クレアがいるのにいきなり別のエルフと結婚したとかないですからね」

「え、はいぃ! すいません!!」


邪推とゴシップ、スキャンダルが好きと見える。なんかもう当たり前のようにクレアの男がおれだと認知されている。

おれに牽制(けんせい)されて受付嬢は明らかに動揺した。


「ワタクシと彼は親戚のようなものなのでございますぅ。甥っ子なのですぅ」

「おばさんだな」

「甥っ子に冒険者になって一緒に付いてきて欲しいと口説かれたのでございますぅ。おれのために毎日ご飯を作ってくれぇぇと懇願(こんがん)されたのですぅ」

「いや、妹を助けてくれたお礼だって言ってなかった?」


院長とリナトリアは姉妹。

それで名前が同じになってしまった。

ユリレフォンはエルフの名前だそうだ。


「おばさん、不合格だったらサポーターやってもらうからな」

「ちょっとヴィン、失礼だよ賢者様に」

「そうだぞ、不合格になるわけがあるまい」

「がんばりますぅ」


知識は申し分ないが実戦で戦えるのかは心配だ。体力もなさそうだしな。


「手合いか。心躍る」


愛らしい声がする。

パーティメンバーとして必要不可欠だった剣士枠。

そこに入ったのはセキヤ少年ではない。


「すげぇ、あの剣……三大流派の総本山、シマ免許皆伝の証だ」

「小さいな、小人か?」

「あれってまさか、先代魔王の幹部、心眼のツユキ・シマか?」


冒険者ギルド内がサトリ小人をめぐって騒然としている。


そう、この小動物的剣士はセキヤ少年を超える剣士、らしい。本人曰く侍らしい。


なぜ彼の代わりにこの謎の小動物がパーティに加わったのかと言えば、この小動物が良い奴だからだ。


――――――――


離宮の庭園。


「おれは七大迷宮攻略を目指している。一緒に来ないか?」


おれはセキヤ少年を勧誘しようとした。

サンサリオン王女と話してすでに本人も覚悟の上だっただろう。


王女はセキヤ少年のためを思い名誉ある道を示そうとした。

だがセキヤ少年からすれば解雇通告だ。

もう必要ないと言われたも同然。


それでも少年は初め応じる構えだった。


「中途半端な気持ちでは七大迷宮攻略など敵わん。セキヤ、貴様は一から鍛え直せ。迷宮へは拙者が行く」


だが突如サトリ小人が植木から飛び出してきて、その話をご破算にした。

彼は自分が行く代わりにセキヤ少年に王女の護衛をさせたいと申し出て来たのだ。


サトリは多くは語らなかったが、セキヤ少年の気持ちを見たのだろう。


剣士としての名誉ではなく、大事なのは剣士である目的だ。

彼が何のために剣聖になったのか、おれはそれを知らなかった。


「姫、私にもう一度チャンスを! お仕えさせて下さい!」


サトリに感化されたのか、彼は心の内をぶちまけた。


「セキヤ、あなた私に恥をかかせるのですか? ヴィンセント様にお願いした私の立場はどうなるのです!?」

「そんなものは知りません!!」

「へぇっ!?」

「うぉ……」


その声は離宮の庭に響いた。


「ぼくはあなたを守るために剣聖になりました! でもそれだけではダメだったと気づきました! 『冒険者をやってみたい』とパーティーやお茶会をすっぽかし勝手に出歩いた時、『ヒュームの迷宮は簡単だから』と攻略しに行った時、『目立ちたくないから魔族の護衛は連れて歩きたくない』と言った時、『普通の女の子みたいに生活したい』と女子寮に住むのを決めてしまわれた時、ぼくはあなたのわがままを止めるべきでした!」


うん。そうだね。

誰か止めろよ。


「うっ、確かにそれは迷惑を掛けましたが今後は大丈夫です……」

「いいえ! ぼくがいなかったらあなたはまたわがままとうっかりで大変な騒動を起こすに決まっています!! 今までは主従を弁え、黙してただの剣となるべく心がけて参りました! ですが、今回の件で堪忍袋の緒が切れました」

「え、怒ってますか? 落ち込んでいたのでは?」

「何を勝手にぼくを冒険者にしようとしているのですか! それに怒っているのです! 落ち込む? ええ、ショックでしたとも!! これではまるで全部ぼくの責任ではないですか!! 姫のわがままのせいなのに!!」


この辺りからちょっと楽しくなってきた。王女、剣聖と言っても二人とも子供だ。


「そ、そんなにハッキリ言わなくても……確かに迷惑を掛けました。でも魔族国家で私の側で名誉を挽回機会があるかどうか……」

「自分は世間体を気にせず自由奔放なくせに、ぼくの外聞を気にしないで下さい! ぼくにとって何が名誉か、それはぼくが決めること!! 今後は絶対にわがままは許しません!!」

「ひぇ、ツユキ~」

「シマ様に頼らない! 姫が先走った為に巻き込んでいるのですよ!?」

「そう言うな、セキヤ。殿下もお主を慮ってしたこと。それに拙者は身代わりで行くのではない。先王様が故国に帰られるとあれば、お役目御免は拙者の方だ」


スキル『サトリ』は他国では重宝するが、自国ではバレているから忠臣たちは気分良くないだろう。

サトリ小人が側にいれば、主は自分たちを信用していないと思うかもしれない。


「そうですか。お心遣いいただきありがとうございます。それにヴィンセントさんも、お騒がせしてすいません。姫をお助けいただいた御恩は別の形でお返しさせていただきます」

「いや、気にするな。なんかおれも当人抜きで話を進めて悪かったと思いました、はい」



怒られてしおしおの王女と言いたいことを言えてスッキリしたセキヤ少年。

二人の様子を伺っていた魔族たちが拍手しながら現れ、セキヤを称えた。いやいたんかい!


「よく言った、セキヤ!」「姫を任せられるのはお前しかいない!」「がんばれよ、応援しているからな!」


まるでカップルが成立したみたいな空気だった。


そうして遠回りをしてサトリがおれたちのパーティーに加わることになった。


そう、おれは置いてきぼりだった。


――――――


サトリ、本名ツユキ・シマ、魔族。シマ流という有名な道場の出身で剣聖。


年齢性別素顔その他大体知らない。


それはこれからでもいい。問題は『サトリ』だ。


「サトリ、別にパーティに加わるのはありがたいが、ぶっちゃけ心を読まれるのはきもいからやめてくれよ」

「きもっ!? おのれ……だれも好き好んで人様の心内を除いているわけではないわ!」

「そうなのか? ずっと勝手に読めてしまうのか?」

「いや、安心せよ。こうして視界を遮っている限り心は読めん」


ほう、顔の前に布を張っているのは奇抜なおしゃれかと思ったが違うのか。


「ふーん、じゃあ冒険者試験に合格して、あとはフィーリングが合ったら採用するから」

「なんと!? なんだフィーリングとは!? おのれ、拙者を侮っておるな? 姫を救出し、セキヤを助けてもらった恩義があればと思い下手(したて)に出ていたが……見て居れ! このシマ柔理気剣の極意、とくと見せようぞ!」


ぷんすかしてるが全然怖くない。

こんな小さくて本当に戦えるのか?


呑気に構えていたのはどうやらおれだけだったようで、周囲はシマの剣が見られると騒ぎだしていた。


え?


そんなにすごいのか……?


「正直、ヴィンがあの子を連れて来た時もう迷宮攻略が見えたよ」

「そんなにか?」

「どうやったかは知らんが、シマの免許皆伝はその他と次元が違う。実力は父上やボリスおじさんと同等だろうな」

「えぇ! って、うん……止めてあげないか? そんなに期待しすぎると」


こんな小さくて剣を持てるかも怪しいのに……


「そうだな、試験官に悪いな。そこまでの戦いにもならんだろう……」

「いやそうじゃなく……」


「ならワタクシがお相手するのでございますぅ」

「え?」


それはそれでどうだ? ずっと閉じこもって研究ばっかしてたインドアだろ?

それに勧誘メンバー同士で戦ってどっちか落ちたらどうするんだ?


「いい考えだね」

「そうだな。二人のレベルだと試験にならんからな」


ノリノリだ。なんだ? おれがズレてんのか?



リナトリアとサトリが戦うとなり、周囲は一層盛り上がりを見せた。


そんな空気に取り残されていたのはおれだけだった。



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