53.☑パトロン ☐剣聖
孤児院が落ち着き、おれたちは王国に戻った。
それでおれは現在、一人でお城に来ている。お城に来ても別に王様と謁見するようなことも無く、一回目と同じ説明を受けただけだ。
ざっと経緯を説明すると、おれは今回伯爵家に押し入り、家中の使用人やら私兵やらをことごとく排除し、魔族の王女を救出した。それにあたり、伯爵の謀反を防いだと同時に魔族国家との関係に関わる微妙な問題に首を突っ込んでしまったので、口外しないように口止めを受けているのだ。
登城の手間賃が入ったザ・宝箱がドシンと床を揺らした。
素早く魔法カバンに詰め込み、愛想笑いで退出した。
表向き伯爵家当主は隠遁生活後事故死とされ、王家が用意した遠縁の血筋が世襲することで落ち着く。
勇者をそそのかし、魔族国家との戦争を引き起こすことで武力による領土拡張と王位簒奪を目論んでいたとされている。
怖いわ。
関わりたくないわ。
部屋を出てもまだ解放はされない。
屈強な兵士たちから屈強な魔族の兵士に引き渡される。
城からだだっ広い庭を挟んだ離宮の一室。
ギロリと突き刺さる魔族たちの眼。
魔族はヒュームより文明が進み、ドワーフ並みの鍛冶技術と耐久力、エルフ並みの魔法技術と長寿、獣人並みの高い身体能力と多様性を有している。ただし、持ちうるスキルの平均数がどの種族よりも少ない。
だが持っているスキルも独特で厄介なものが多いと聞く。
その厄介なスキル持ちがこの護衛の中にいるのだ。
「おお、貴殿が孫娘を救ってくれた方か! む、おお! 以前助けてくれた親切な若者ではないか!」
一回目と同じく笑顔で出迎えてくれた老人。
この人が魔族国家前国王にして現国王の父、つまり、先代魔王様だ。
すぐに最敬礼をとる。
「その折は、高貴な方とお見受けし、あわよくば我が野望にご助力をという打算がございました!! 申し訳ございません!!」
「む? 変わった男だ。だが正直で良いぞ。それにそのような作法は無用。礼をせねばならんのはこちらだ。事が事だけにあまり大っぴらにはできないが、なにか望むことはないかね?」
おれは計画を話した。全て正直に。
七大迷宮攻略。
ならば、パトロンになろうと言ってもらえた。
魔族国家にある大迷宮への転移ポートもいただいた。
「ありがたく」
「貴殿のようヒュームがいることをうれしく思う。我が国に来る際には改めてもてなそう」
「ははー」
気のいい魔王様だ。大好き大好き、魔族大好き。
部屋を出た。
ふぅー。
あれで大丈夫だっただろうか?
あの中の護衛に心を読めるスキル持ちがいた。
思ったことを全部口に出したからヤバい奴だと思われたかもしれない。
だが一回目はかなり警戒され、それのスキルについて聞かれ、陰謀に関わってないか疑われた。
それが無かっただけでも結果オーライだ。
どっと疲れた。
「油断ならんやつだ」
振り向くと、その護衛がいた。
独特な甲冑を着ている。装備というより儀礼で使うような神秘的な意匠が施されている。
背は小さいが佇まいは大物。目には見えない威圧感がある。
腰に帯びた二振りの剣も見たことの無い芸術的な装飾がされている。
そして声がとても愛らしい。
「誰が愛らしいだ。拙者を侮辱する気か?」
はっ!
くそぅ、油断したぜ!
「貴様、拙者のスキルを警戒した話し方だ。どこで我がスキルを知った? 貴様、間者か?」
「――勝手に心を読むなど無粋なやつだ。おれは善人じゃないし、色々計算して動くが、やましいことはしていない! ウソは付いていない!!」
「――開き直るか。この――」
「その辺にしておきなさい。お客人に失礼です」
「殿下!!」
これは一回目には無かった展開。
「一回目?」
「王女様、この人がおれの心を読むんです!」
「いい加減に控えなさい! この方は二度も私を救って下さった大恩人なのですよ!」
「はっ!」
早くどっか行け。妖怪サトリ小人め。
「小ビッ……おのれぇ」
ようやく厄介なやつがいなくなった。
「お騒がせしました」
王女が話しかけて来た。
うん、感じのいい子だ。
「実はお話が聞こえまして、ヴィンセント様は七大迷宮の攻略に向かわれるとか」
「え、ええ」
それでか。一回目遠慮して言えなかったからな。
というかサトリ小人のせいでそれどころじゃなかった。
「お送りいたします。馬車を用意しておりますのでどうぞ」
話は馬車の中で、ということだった。
「恩人であるヴィンセント様に厚かましいお願いだとは思いますが、どうかセキヤをあなた様のお傍に置いてあげて欲しいのです」
「セキヤを?」
今回の一件で王女は国に帰るそうだ。
セキヤ・クゼは任を解かれる。
その彼をおれたちのパーティに入れて欲しいという話だ。
本人は魔族国家に付いて行くと言っているが将来を潰すわけにはいかないからと慮ってのことだ。
「私の身勝手で振り回し彼の将来を台無しにしてしまいたくないのです」
誘拐が起きたのは王女が他の学生たちと同様に護衛を連れずに寮で生活していたためだ。
男子のセキヤ少年には護衛は難しい。そもそもセキヤ少年が護衛になったのはこの国で魔族の護衛を連れて目立ちたくないという王女の意向に沿ったためだった。
こういう言い方をしては元も子も無いが、王女の防衛意識の低さが今回の件を招いたと言っても過言ではない。
「その通りです」
「え? 口に出てましたか?」
「いえ、でもお考えは分かります。セキヤに私を救出することはほぼ不可能だったのです。ですが、彼は私が誘拐されたことに責任を感じてしまっています」
「彼に必要なのは護衛としての一生より、剣士としての名誉だと?」
「はい。お願いできる立場ではないと分かってはいますが、信頼できる方はあなた様ぐらいで……」
剣聖が加わるなんて願っても無いことだ。
喉から手が出る程欲しい!
やったね!
断る理由? 無い無い!!
それにこれは人助けだ。恩に着せて無理強いするわけじゃない。
「彼がおれたちと冒険を望むのなら、一員に迎えましょう。彼を英雄にしてお返しするその時まで」
「ありがとうございます!」
しかし、おれはセキヤ・クゼという少年をよく知らなかった。




