56.『リスタート』とある男の回顧、または未来への布石
リナトリアが召喚した古代の戦士目線のお話
スキルは魂に内包される。
人が死んだときその魂は精神や意識とは切り離され、その時スキルも劣化、または分離される。
生まれ変わっても、その人物が前世と同じスキルを持っているとは限らない。むしろ高確率で別のスキルを持つことになる。
ただし、魂に残り続ける場合もある。
同一スキルを複数所持している場合だ。
これは恩恵ではなく呪いの類だ。
こんな男の事例がある。
何不自由なく暮らしていたとある男。
美しい妻とかわいい子供たち。
仕事では頼られ、大きな仕事を任され、それも成功させた。
休日には子供たちと遊び、子供たちが眠ると妻と二人きりの時間を楽しむ。
自らが発明した魔導映写技術で、撮影した演劇や舞台を見ながら酒を飲む。
その日、発明家の男は舞台を見ている途中寝てしまった妻をベッドまで運び、寝ている妻の寝顔を見ながらウトウトした。
幸せなまどろみ。
気が付くと男は全く別の場所に立っていた。
全くの別人となって。
これがスキルによるものだと男はすぐに気が付いた。
その男こそ、おれだ。
『デジャブ』というスキルがある。
数秒間の行動を記憶と化す力だ。
覚醒するとそれが一日になる。
だが『デジャブ』の覚醒は二回目があった。
二回目の覚醒で、おれは『デジャブ』習得時にまで戻ってしまったのだ。
一日戻るだけでも悪夢を見た気分になる。
だがこの時の喪失感、絶望とは比べようもない。
これまで幾度も転生し、おれは『デジャブ』を持って生まれた。
戦士としてごくまれに使うときもあれば、魔導士として複数の『デジャブ』を使いこなすこともあった。
そして、最後の転生先で、おれは莫大な魔力と無数の『デジャブ』を持つ天才として生まれた。
小さいときからおれは『デジャブ』を使いこなし、あっという間に覚醒。
一日は二回になった。
『デジャブ』を使う頻度は倍増した。
知らず知らずのうちにおれは二回目の覚醒を果たした。
それが原因で愛する妻と子供たちと別れ、遠い遠い過去へと戻るとも知らずに。
この現象を『リスタート』と呼ぶことにした。
二回目の覚醒でスキルポイントを全て消費したらしい。『リスタート』はしばらくはない。
ただ重大な懸念があった。未来から大量の『デジャブ』を持ち帰っていたのだ。多重『デジャブ』を使えばまたあっという間に覚醒し、『トゥワイス』が起きるようになる。そうなればさらに『デジャブ』が増える。
繰り返した。いずれおれはまたここに戻って来てしまう。
おれは『デジャブ』を消すことを考えた。
これ以上『デジャブ』増やさないため、使用も控えた。
最後の転生先で天才発明家だったおれはその知識を活用し、古代には存在しえない、スキルを消し去るアイテムの作成に成功した。
だが、おれは躊躇した。
愛する者たちとの記憶、辿るべき未来を全て消してしまいかねないからだ。
『デジャブ』が無ければ、おれはこれまでのそれぞれの人生で得た出会いや喜びを全て失うのだ。おれはそこまで徹底することはできなかった。
だからおれは計画を立てた。
記憶を辿り、八回の転生を確認した。
七回目の転生、つまり八回目の人生。おれがもっとも才能に恵まれず一際覚醒が遅かった人生。
ヴィンセント・アルトリンデンまたはユリレフォン。
このタイミングしかない。
他の転生先ではだめだ。そこに干渉すれば覚醒を早める危険がある。
しかし、ヴィンセントの時のおれならば、何をしても二回目の覚醒には至らないだろう。
何としても八回目のヴィンセントに接触する必要がある。
そして、七大迷宮の攻略でおれが迷宮に隠したアイテムを獲得させ、『デジャブ』を消させる。
これでおれは数千年のループから抜け出せる。
そうだ。おれは九回目の人生を犠牲にすることで他の人生を護ると決断した。
大丈夫だ。転生した時、おれは全てを忘れているはずだ。
問題は、八回目のヴィンセントと如何に接触を果たすかだ。
遠い未来に行く術。
こちらから行くことは不可能だ。
だからあちらから呼び出してもらうことにした。
おれは碑文を遺したのだ。
召喚にまつわる暗号文。
順当に行けば所有は魔導協会だ。
そこにはリナトリアがいるはずだ。
解くにはヒュームとハイエルフの言語、それに高度な魔法知識と食への興味が無ければならない。彼女の好物が暗号を解くキーになっている。
どうやら思った通り、彼女は暗号を解いて召喚を試したらしい。
初めてリナトリアがおれを召喚したとき、歓喜に震えた。
だが新たな問題がわかった。
召喚に耐えられる時間はごく限られていた。
タイミングよくそばにヴィンセントがいて、リナトリアがおれを召喚する。運任せだ。
それにその時、この長ったらしい事情を説明し、信じてもらうまで待つ猶予はない。
とにかく、彼女がおれを頻繁に召喚するように信頼されねばならない。
ヴィンセントと出会ったときには「危険だからこの召喚術は封印」、とかになってたらお終いだ。
おれは短い召喚の間、様々な有益な情報を彼女に話した。
話し半分に聞いていたが彼女はおれを召喚することに抵抗を感じなくなったようだ。
そしてついに、そのタイミングがやって来た。
彼女はおれを呼び出した。
戦いを見たいというわけだ。
相手は梅雨姫だった。
キタコレ!
彼女がいるということは、やっぱりいた!!
観戦席におれがいた! おれというか八回目のヴィンセントだ。
おれを見て驚いている。
その横にはクレアがいた。
郷愁に駆られる。
しかし、今はまだだ。おれと彼らの間には接点が無い。
短い時間に全てを伝えるのは無理だ。
だからある解決方法を編み出した。
それにはまだヴィンセントのステータスが足りない。
【耐 久】【精 神】が上がれば奴はおれの術に耐えられる。
おれはすべてを奴に伝え、この『デジャブ』の呪縛から抜け出せる。
その時が来るまで待つしかない。
迫る剣撃を前におれはそんなことを考えていた。




