51.《ミッションコンプリート》捕縛、尋問、救出、敵戦力無力化
おれの下に使いの者が現れた。
そいつが持っていた転移ポートを使い、おれは故郷に戻って来た。
孤児院。
そこにいたのは院長と勇者。そして少年。
「ヴィンセント!」
院長は勇者に捕らわれている。
「来たか。さぁ、剣聖クゼ。奴と戦え。さもないと大事な王女様が死ぬぞ」
クゼ少年は剣聖にして、留学生である魔族の王女サンサリオンの護衛。
勇者はおれにこの少年を殺させ、王女誘拐と殺害の罪を着せるつもりだ。
少年は王女の行方も知らず、ただ脅されている。従わなければ王女が死ぬと。
「ヴィンセントさん、ぼくは――」
「待て」
「なんだ、この期に及んで……」
転移ポートが作動した。
「人攫いに、脅しなんて最低だよ」
「これは国家反逆だ。ここまで堕ちるとはな」
「な、なんで君たちまで!」
ここに来たのはおれだけではない。
クレア、シンシア、それにリナトリア。
「セイラちゃん、久しぶりなのですぅ」
「お姉さま!!?」
まさか二人が姉妹とは。どうりで似ているわけだ。だが今は重要ではない。
予想外の筋書きに困惑している勇者。
それはそうだろう。
今この場を支配しているのはおれの方だ。
「お前の計画は全てわかっている!」
「なんだと!」
「まさか自分の存在意義を立証するために、魔族との戦争を引き起こそうとするとはな」
「……まさか、同志が裏切ったのか?」
使いに来た奴には尋問して王女の居場所を吐かせた。
おれが計画の全容を知っているのはもちろん、二回目だからだ。
一回目、院長は殺された。
おれの目の前でだ。
もうおれの我慢も限界だ。
勇者にはここで消えてもらう。
「ばかな、この女がどうなってもいいのか!?」
「あきらめろ勇者! この期に及んでまだ言い逃れできると思っているのか?」
「ここにいる私たちがあなたのやったことを証言する。それとも私たち全員と戦って勝てるとでも?」
「く、クゼ! 何をしている!? さっさと戦え、王女が死ぬぞ!!」
「王女は無事だ。クゼ、おれたちが戦う必要はない」
「え?」
「嘘だ、デタラメだ!!」
平和ボケしていたとはいえ王立学院の女子寮から攫うのには相当な手練れでなければならない。だが救出は簡単だった。
暗殺マスク教官とおれで共に潜入し、関わった全員はすでに捕らえている。
再び転移ポートが作動した。
ヒュームとは異なる体格に角の生えた兵士たち。
その後に続いて燃えるような赤い眼をした女性が姿を現した。
「ま、魔族共め!!」
「私は無事です、セキヤ。彼女を助けなさい!」
「はっ!」
現れた王女が動かぬ証拠だ。攫われ、助け出された後クゼ少年のために来てくれたのだ。
あっけにとられ、自分が追い詰められたことを悟った勇者からクゼ少年が院長を奪い返すのは簡単だった。
「くそぉ!!」
「姫!」
「セキヤ、心配を掛けました。私はこの通り無事ですよ」
「ヴィンセント、お姉さま、皆さん、助かりました」
戻って来た院長を見て、ホッとした。
これで後は決着をつけるだけだ。
「くそぉ、くそぉ!! なんで邪魔するんだよ!! 」
「勇者、いや……お前はただの大罪人。勇者を名乗る資格もない」
「ふざけるな! ぼくは生まれながらの勇者だ。そのぼくに逆らうお前たちが悪だ!! 魔族にこの国を売り渡そうというんだな、この売国奴どもめ!!」
往生際が悪いにもほどがある。
勇者が次に目を付けたのは院内にいた子供たち。
部屋に閉じ込めていた子供たちを盾にして逃げようと動いた。
それをすかさず封じる。
「『螺旋波動――』」
遅い!
剣の間合いのさらに内側から関節を取って動きを封じる。
「ぐっ、こ、こんなもの!!――ばかな、『身体強化』しているのになんで!」
「力やスキルが全てじゃないんだよ」
教官との訓練を思えば簡単だ。
こいつが如何に弱いか、今ならわかる。
スキルに頼るだけで、なにも学ばず、なにも考えず生きて来たんだな。
「少し同情してやるよ。お前は薄っぺらいんだ。勇者に固執するのはお前から勇者であることを除いたら何も残らないからだろう」
「貴様ぁ!!!」
どれだけわめこうとも勇者が拘束から逃れることは無い。
勇者、お前にとどめを刺そう。
「な、なんだ? 何かが這い寄って……」
おれの呪腕が勇者を侵食しているのだ。
この呪腕には実はかなりのリスクがあった。
元々、なんのリスクも無く、あれほどの力を使えるはずはないと思っていた。だがおれには何ともない。
そこでリナトリアが調べたところ、この呪腕はおれが力を使うたびにおれからあるものを奪っていた。
「この呪腕は触れたもののスキルを喰う」
「な、なに?」
こうして長時間触れていると侵食し、スキルを奪うのだ。
もしくは消しているだけか。いずれにせよおれは無数の『デジャブ』しかないからいくら奪われても支障はない。
「これで終わりだ。勇者としてのお前は死ぬ」
「や、やめろー!!」
スキルを喰いつくと呪腕の浸食が終わった。
拘束を解くと元勇者はおれに向かって何かをしようとし、困惑し、動揺しながら何を叫んでいた。
やがて、状況を把握したのだろう。自分がすでに勇者ではないと。
元勇者は元勇者という以外に何もない、空っぽなただの大罪人と化した。
やがて王国軍がやって来て元勇者は連行されていった。
こうしておれと勇者の短い因縁は幕を閉じた。




