50.勇者
勇者視点です
ぼくの伝説は生まれた時から始まっていた。
生まれながらの勇者だ。
凡人とは違う才能を神より授かり、同時に使命を帯びたのだ。
だが、神はぼくに試練をお与えになった。
「昇格審査はございません」
「はぁ、何を言っているんだ、君? ぼくが誰だかわかっているのか!」
「はい、よく存じあげておりますよ。迷宮攻略の報告を偽り、アマチュア冒険者から彼女を略奪しようと画策し、挙句決闘で敗れた、勇者様ですよね」
「な、なんだと?」
「お引き取りを」
ありえない。
このぼくが、勇者であるぼくが受けて良い仕打ちじゃない。
周りの冒険者たちがぼくを見て嘲笑を浮かべる。
全ての歯車が狂ったのはあいつが現れてからだ。
ヴィンセント・アルトリンデン。
冴えないアマチュア冒険者、ぼくの嫌いな負け組男。
西のトラップ迷宮。
攻略には複雑な地図を頼りに、少しづつ進むか、慣れている現地ガイドを雇うかのどちらかだった。
ぼくはアマチュアなんて雇いたくはなかった。
だがクレアがあいつじゃなきゃだめだというから仕方なく雇ってやった。
あいつはアマチュアのくせに勇者であるぼくに命令し、クレアとも仲良くし始めた。
だがおかげであの迷宮の攻略方法を聞いたとき、嘘ではないと確信できた。
あいつのクレアを見る目。
裏切るわけがない。
だから従ってやった。
もし失敗したとしてもアマチュアが一人死ぬだけ。
あんな攻略方法、ほかの者にはわかるはずも無い。
ぼくとルーアンはむしろ示し合わせて後から合流することにした。
強壮丸を渡されたがアイツのために駆け付ける気などなかった。
ぼくらが最後の部屋にまでたどり着くと、すでに攻略された後だった。
奴は虫の息。
コイツさえいなければ、この迷宮の攻略方法はぼくだけのもの。
勇者であるぼくの最初の伝説にアマチュアが混じっているなんて不名誉だ。あってはならない。
だが奴の側には常にクレアがいて手が出せない。
そのままクレアと奴は消え、翌朝戻って来た。
あってはならないことだ。
ぼくの我慢も限界を超えた。
決闘を申し込んだ。
クレアを取り戻し、愚かな幻想を抱くアマチュアを社会的に抹殺する。
そのはずだった……
今思えばあいつはスキルで結果がどうなるのか知っていたのかもしれない。
そうでなければあんなこと起こりえない。
勇者であるぼくが、アマチュアに一方的に殴られ続けるなんて。
だが、奴のスキルは未来を知る『デジャブ』というEランクのみだった。
E奇跡の御業『予知』とは違う。
ならばあいつにわかることなんてたかが知れているはず。
なら、どうして負けた?
「くそ、ルーアン。奴がしくじるからだ!!」
「うわ、なんかぶつぶつ言っているぞ」「きもちわる」「よくも冒険者を続けられるよな」
「だ、黙れ!!」
「あ?」
ゾロゾロと冒険者たちがぼくを囲む。
「なんだ? おれたちに言ったのか?」
「C級の裏切り者様はそんなに偉いのか?」
「ここで白黒はっきりさせようぜ」
「ぐっ、ぼくは急いでいるんだ!!」
「あ、逃げんな!!」
「この卑怯者が!!」
ありえない。
この勇者であるぼくが侮られることなどあってはならない!
なぜだ?
ぼくを軽んじることは彼らにとっては大きな損失だ。
ぼくの慈悲で彼らの命は護られているのになぜ気が付かない。
もし万が一、魔族が攻めてくればはっきりするというに……
今や魔族国家は王国の同盟相手。二国間の争いはもう何百年も無い。
そうだ。
魔族が攻めてくれば!!
魔族を殺せばいいんだ!!
その首を奴らに送り付ければいい。
全部ヴィンセントがやったことにすればいいさ!!
この国の平和を揺るがす大罪人が奴にはふさわしい!!
確か、留学生であちらの王族が訪れていると聞いたな。
ぼくの計画は同志たちの賛同を得た。
「すばらしいお考えです。偽りの平和に終止符を打ち、王国を汚す不信神の愚かな魔族共を根絶やしにするのですね?」
「ああ。ぼくは真の勇者だ」
「すばらしい。ですが一つ問題が」
「なに?」
「勇者様は今見張られて居ります」
「なんだと!」
このぼくが犯罪者のようではないか!
「疑惑の目を払うには、やはり、汚点を消す必要がございます」
「わかっているさ。だが交渉は失敗した」
迷宮攻略の方法。
少し脚色しただけで大事にしやがって。
コッチは恥を忍んで会いに行き、誠実にお願いしたのに奴は断ってきた。
おまけに神殿の聖騎士シンシアまで現れて……
もうヴィンセントを脅すにはアルトリンデンのことを言い触らすしかない。
「こちらが汚名を着せられたのですから、こちらも貶めてるのです」
「わかっているさ。その魔族殺しの汚名を着せようと思っても、見張られていてはバレしまう。今アルトリンデンの話を言い触らしてもぼくが奴のステータス情報を言い触らしたと曲解されてしまうだろう」
「我々が手を下す必要はございません。奴を操るのです」
操る?
「奴をおびき出し、反魔族的な行動を強制するのです。その為に弱点をつきましょう」
「弱点? いや、クレアを何とかするは難しい。両親も厄介だからな」
「はい。クレアではなく、奴の生まれ育った場所が」
「おお! そうか!」
思い出した。
奴はエレーナの名を出してぼくを脅したんだ。
ぼくの最愛の妹。
やり返してやる。
「トラップ迷宮のある西の街。奴はその孤児院で幼少期を過ごし、最近街を出るまで頻繁に通っていました。ハイエルフの院長が奴の母親代わりだとか」
「でかしたぞ!! 奴をおびき出し、魔族と戦わせる……いや、そうだ! 留学生に魔族の王族がいる」
「はい。数年前より王国で学生をしている王女サンサリオン。彼女を誘拐し殺しましょう。護衛の者に王女を助けたくばヴィンセントと戦えと命じる。奴が抵抗し、護衛を殺せば奴に罪を着せられます」
「素晴らしい! では早速、王女を攫え!」
「はい直ちに」
ヴィンセント・アルトリンデン。
貴様が絶望に浸れるよう、母親を目の前で殺してやる。
国家反逆、血も涙もない冷徹な男、母親殺し。大罪人、それがふさわしい。




