49.レンジャーへの道・一対多数戦闘編
傷を負い、森の中へ逃走。
症状から毒の種類を分析。
薬草を採取し、混ぜ合わせ接種。
傷を応急処置。
周囲の状況を把握。
「サーチ&デストロイ――サーチ&……」
先にコッチが発見。
『閃光方陣筒』を投擲。激しい閃光で死神の視界を奪った。
背後から忍び寄り、関節を取った。
外され、反撃される。
『デジャブ』を併用した主導権争い。
しばらく続く攻防。
「なっ!」
見たことの無い反撃技を繰り出された。
速いっ!
分かっていたのに、この投げに繋げられてしまった。
だがおれも負けていない。
投げ飛ばされる寸前に毒を打ち込んだ。
これで厄介な暗黒メガネはしばらく動けない。
「――っ!」
空中姿勢を制御し、ノーダメージで着地。
そのまま流れるように移動。
魔法による攻撃を受けると『デジャブ』で察知。
周囲を索敵。
見つけた!
木の上からおれを見張り、魔導士たちに位置を報せている。
おれの頭上に魔法の雨が降り注ぐ。
緊急離脱!
『風圧方陣筒』を起動。
すぐにその場から離脱する。
放たれた魔法の威力や属性を見極め、魔導士の位置、数、スキル補正持ちか否か、属性を判断。
3人は近い。後の二人は崖の上か。
「きゃー、もうこっち来たよ!」
「きょ、距離を……!」
「はやっ、詠唱、間に合わない!」
おれが先に投げた『閃光方陣筒』が炸裂。
「「「!」」」
視界を奪われた三人を瞬時に制圧。
うち一人を盾に、残り二人を探す。
『デジャブ』の重ね掛け。
今やおれは3分先まで状況の変化に対応できる。
「よし」
暗殺マスクマンが奇襲をかける。
だが攻めてくるタイミング、方向は分かっている。
「――っぐ!」
即席ワイヤートラップで牽制に成功。さすがに引っ掛からなかったが、厄介な教官を足止めしているうちに一気に残り二人の魔導士の下へ。
「なんてやつ、ここまで来るとは!」
乱れ撃ちされる魔法。
だが『魔法攻撃無効』で右腕の呪腕を盾にしながら進む。
魔法は全て右腕に吸収されていく。
ここまではデジャブで読んだ。
だがどうしてもここから先が――
「――『堕落』」
急におれの動きがスローになった。これはスキルか!
やる気でない。なんだろう。疲れた休みたい。ごはんが食べたい。クレアとイチャイチャしたい。というかもう寝たい。
「てへっ、伏兵参上なのでございますぅ!」
◇
「皆さんご苦労様でございますぅ」
「わぁ、リナトリア様のクッキーだよっ」
「くださいください!」
「我も我も!」
餌付けしている。
訓練のためにお隣の魔導学院から何人か来てもらっている。
最初は一人だったが、今や5人。
あと少しでクリアできたんだがな。
リナトリアに邪魔さえしなければ。
最後のあれはスキルだろ。というか訓練でやる気を削ぐスキルなんて使うなよな。
「先生、御髪をお直しします!」
「片付けは私が」
「ここにほつれが。縫います」
「わーい。ありがとう」
どうりでだらしなくなるはずだ。
リナトリアを甘く見ていたが彼女は魔導協会でもかなり上の人間らしい。弟子を自称する魔法使いたちが後を絶たず、甲斐甲斐しく世話を焼くため本人はこうなってしまったのだとか。
確かに、教えを乞う者は多いだろう。
魔導士と一括りにしていたが実際は奥が深い。
原理原則を解し、六つの属性を操る魔導士。
精霊と契約を結び精霊魔法を使う精霊術士。
対象に魔法効果を付与する付与術師。
古代の魔法を継承した賢者。
リナトリアはその全てに精通しているのだ。
特に付与術には助けられた。
方陣札を想いのままに造ることができるのも付与術師だ。
これまで市販の方陣札を使ってきたが、リナトリアの使ったものの方が使い勝手がいい。
魔力を流し込んでから起動するまでに、離れる猶予が設けられていた。
だが筒に仕込んで投げる場合、その猶予が長いのが戦いのテンポを遅らせてしまう。
だから一律3秒に統一してもらった。
さらに属性も様々、状況に応じて使い分けることができるようにしてもらっている。
やはり、彼女にはあのことを言っておくべきだな。
「おい、貴様」
「はい?」
二人の女性が近づいて来た。
「ルーアンの件では迷惑を掛けたな。覚えていないだろうがあの街でギルドマスターより捕縛を任された者だ」
この人達か。二人だけ崖の方から強力な魔法を放っていた。
「そうでしたか。その節はどうもお世話になりました」
「いや、身内から出た不始末だ。当然のこと」
「見違えました。あの勇者との決闘からまだそれほど経っていないのに。ああ、そうそう、あなたに伝えておくべきことがありました」
「はい?」
「勇者はC級から上がれませんでした。昇格審査を受けられなかったそうで」
「それは、なにより」
「ええ本当に」
何が「すぐA級に上がる」だよ!
ざまぁ!!
「ただ、聖属性攻撃スキルを持つ勇者を欲しがる権力者はたくさんいます。何か良からぬことを計画しているかもしれません」
「気を付けるのだな。追い込まれれば奴は何をしでかすかわからん」
「ええ」
妙な胸騒ぎがした。
C級の勇者。
利用する奴らからすれば魅力は薄い。
おれに過去の証言を撤回させるのが無理だと分かり、強硬策にも出て失敗。
「暗殺マスク教官、勇者は今軍に監視されているんですよね?」
「うん。でも安心しろとは言えないね、うん。仮にも勇者だ。一撃で戦況を変える聖属性魔法攻撃スキルを複数持っている。正面から戦うのは避けないとならないね、うん」
「しかし、仮にも勇者。大義名分も無く大胆な行動には出られませんよ。これ以上問題を起こせば神殿は勇者の資格をはく奪しますからね」
「そこまでバカはしない、か……」
あいつはそんな奴か?
勇者である自分は全てにおいて正しいと信じている。
もし自分を否定したギルドや神殿、王国が間違っていると考えだしたら――
「何を考えこんでいるのでございますかぁ? がんばったご褒美なのですぅ。さぁ、一緒にカロリーの暴虐に身を委ね堕ちていくのでございますぅ」
え?
目の前に院長がいた。
弟子がんばったな。
ビックリした。身なりがきれいになるとまんま院長だ。
ああ、院長、元気かな……




