31.試練の時
「初めまして、娘さんとお付き合いさせていただいて居ります。冒険者のヴィンセントです」
「これはこれはご丁寧に、クレアの父のボリス=ドラグノフです」
なんだ、思っていたよりずっと温和で紳士な人じゃないか。
クレアがおかしいとか言っていたら身構えてしまったじゃないか。
「ヴィン、騙されないで。お父さんは強くて怖いの」
護衛任務の時の、護衛対象を護る動作。
クレアに教わったが、クレアは今それをおれに対して実行している。
おれと黒拳の間に割って入り、じりじりとおれを後ろに下がらせる。
これが実の親に対する反応か?
「ははは、クレア。ひどいな。パパは別に何もしない。母さんの命に賭けて彼に危害は加えない」
「ほ、本当!?」
「ああ、クレアが認めた男なら信用できる。……とはいえ、大事な娘を任せるんだ。二人の今後の将来設計についてキチンと話してくれないか?」
「はい!」
「ほ、良かった……」
なんだよ、いいお父さんじゃないか。
「場所を変えよう。ここでは騒ぎになる。近くにいい店があるんだ」
確かに、ギルド内の注目の的だ。
伝説の冒険者を前に皆、憧れの眼差しを向けている。
おれもだ。この人の冒険譚には男なら誰しも憧れる‶志〟がある。
それは「最強」であること。
ドラゴンとの一騎打ちなんてした人はこの人ぐらいのものだろう。
皆話を聞きたそうにしているがパニックは必然。
迷惑を掛ける。
おれたちはギルドを後にした。
付いて行くと街の外れにある廃墟だった。
いい店はだいぶ前に潰れたようだが……
「お父さん?」
「あの……」
振り返った黒拳の顔に、親しみは一切なかった。
金色の瞳が獲物を捕らえていた。
「さっき言ったことは全部嘘だ。大事なクレアに手を出した報いを受けろ。殺す」
「「ええええ!!!」」
完全に油断していた。
というかさっき奥さんの命かけて誓ってたじゃん。
「あれも嘘だ。母さんの命を懸けることなどない!」
絶対に嘘とか付かなそうな見た目なのに!
「だから言ったじゃん! だから言ったじゃん!! お父さんは正々堂々と戦う闘士みたいなイメージを持たれがちだけど、実際は勝つためなら平気でだまし討ちするような人なの!!」
本性知ってるなら騙されるな、娘!
「冒険者、それも最近までアマチュアだったそうだな」
「お父さん、それは――」
「今はF級、次はE級か。早い昇格だ。普通なら4~5年かかる。才能があるのは認めよう」
え……今、おれのことを認めてくれた?
「あのトラップ迷宮は特殊だ。攻略方法を導き出した手腕は見事、それを公開した判断も好感が持てる」
おお、好感触。しかもおれについてすでに調べがついているのか。
「ここに来る途中にも迷宮を攻略したな」
ぎくぅ!
「あの都市はライフラインだった河川域まで迷宮化が迫り、放棄される予定だった。迷宮の消失は住民たちはもちろん、領主には棚ぼたの奇跡だろう」
そうだったのか。
なら逃げる必要なかったな。
「クレアが選んでいるという時点で騙されているということもあるまい。人格的に問題があればこういう結果にはなっていない」
「娘さんを信用されているんですね。であれば、おれのことも認めていただけるのですか?」
「ダメだ!!!」
なんで!?
「かわいいクレアに男ができるなど、仮に偉業を成した勇者であったとしても認めん!!」
あ、ダメだ。
この父親はダメだ。
「だがそれであきらめろと言っても納得できまい。だからチャンスをやろう」
「まさか、『おれと闘って勝ったら娘との付き合いを認める』とかではないですよね?」
「そのまさかだ!」
本気も本気。
「ヴィン、逃げてぇ!!!!」
伝説の冒険者、『黒拳』は猛々しい牙を剥きだしにし、おれにその最強の拳を向けた。
「まさか女に護ってもらうのか? かかって来なさい」
おれより先にクレアが『加速』で飛び掛かった。
あっさり捕らえられ、投げ飛ばされた。
「クレア!」
「女に庇われるとは情けない。闘え、さもなくば殺す」




