30.黒い影
「薬草採取、魔物討伐、魔獣討伐、護衛任務――全部達成だな」
「これで次の都市でE級だね」
薬草採取は指定された薬草を集めるだけ。子供にもできるおつかいだった。
途中依頼にあった魔獣と遭遇したため討伐。
魔獣との戦闘は初めてだったが予め図鑑で弱点を予習していたから勝負は一瞬だった。
なぜ予習できたのかと言えばもちろん『トゥワイス』のおかげだ。
いつどこで遭遇するかわかっていれば討伐は簡単だ。
現れる寸前に手の平大の筒を放り投げる。
爆殺して討伐完了だ!
「いや、せっかく装備手に入れたのに使わないの!?」
「ん? ああ、大丈夫だ。今回から筒に詰めたのは安い『基礎方陣札』と爆薬だ。コスパ重視で」
「基礎方陣札」は『イグニ』や『ライト』、『ウィンド』のような基礎魔法を込めたもので安く、日常生活にも使われる。
爆薬だけでは今までの爆裂方陣札の威力には遠く及ばないが敵の頭を吹っ飛ばせば問題ない。
「お金の話じゃないよ。『黒死王の左呪腕』使えばアイテム無しでも倒せたのに」
「そうだな。いや、一回目で試してみたよ」
確かに倒せる。
この呪腕の力はとんでもない。
相手の物理攻撃を無力化して戦えるんだからな。
だがこの呪腕はクレアが思っているよりヤバい。
秘められていた力とその価値は想像以上だった。
左腕だけならそこそこのレアリティ。持っている奴は他にもいる。
だがこの呪腕は両腕が揃って初めて真価を発揮する。
右腕の効果は『魔法無効化』だった。
それだけではない。
左腕で無効化した物理攻撃無効を、右腕から魔法として放つことができる。
「そして左腕も、右腕で無効化した魔法を放つことができる」
「……なにそれ」
「こわいだろ」
こんな力が「多少魔力を込める」程度で扱えるわけがない。
呪腕というネーミングといい、ノーリスクで使い続けるのは危険だと判断した。
そもそもこんなアイテムを持っていると知られれば厄介事を招く。
「確かに、討伐の確認でギルドに持ち込んだら、魔法で倒しているのがバレるし、どう討伐したか聞かれちゃうもんね」
「ああ、しばらくはこの右の呪腕のことは隠しておく」
クレアと共に王都に近い都市で各クエストの完了を報告した。
トラップ迷宮の攻略で手に入れた魔法カバンからゾロゾロと出した。
「こ、これは……西の街道に出没していたジャイアントボアじゃないですか! あ、こっちはレッドグリズリー! それにミノタウロスまで!」
受付嬢が慌てふためいた。討伐報酬と素材の買取に時間が掛かるらしい。
分かっていたから先にクレアに宿を探して来てもらっている。
待っていると他の冒険者たちから視線を感じた。
「すげぇ、ミノタウロスなんて初めて見たぜ」「おれも」「見ろよ、全部頭以外はきれいなままだ」「一撃で?」「な、何者なんだ?」
これでいい。
毎回新しい街でクレアの連れているのはヒモだの、荷物持ちだの思われるのは嫌だからな。
「ヴィン、宿取って来たヨ」
「ああ、こっちももうすぐ終わる」
すると受付嬢がクレアを見て納得した顔をした。
「ああ! A級のクレアさんですね! これは全部――」
「ち、違うよ、私は何もしてません!」
「えぇー?、しかし――」
ジャイアントボア……巨大な体躯と牙で岩も砕く突進をする。討伐難易度はD。
レッドグリズリー……剣を弾く赤い体毛と鉄の鎧を斬り裂く爪を持つ。難易度C。
ミノタウロス……『斧』スキルを使う魔物。難易度B。
F級が単独で討伐したのを疑問に思うのは当然だ。
だがギルドには嘘を見抜く『看破』のスキルか魔道具がある。
そう言いかけたところでおかしなことに気が付いた。
「ん? あんたクレアの知り合いか?」
「え? いえ……ですがクレアさんが来ることはお知らせ頂いて居りましたので」
「え?」
誰に?
ギルド内がざわめいた。
振り返るとそこにいたのは黒い壁――
いや、ギルドの十分高さのある扉に頭が届きそうなほどの大男が居たが珍しい黒い毛並みで――
いや、珍しい黒い毛並みをした獣人の顔が獅子で――
いや、黒い獅子の獣人は装備と見紛うほどの膨大な筋量を誇り――
いや、その一歩で床を踏み抜きそうなほどの体躯とは裏腹に重量感を思わせない軽やかな足取りで――
いや、その金色の瞳と目が合った瞬間、自分が獲物になった錯覚に捕らわれ、身動きが取れなくなるほどの脅威、恐怖、圧力に逆らえなくなるような――野性
服を着た野獣――怪物だ。
「お父さん!」
「え? お父さん!?」
この怪物がクレアの父親!?
ってことは……伝説の冒険者、主要七大迷宮を攻略した『黒拳』。
「お父さんじゃありません、パパと呼びなさい!!」




