29.呪腕
「ははは!! よくぞここまでたどり着いたものだ! しかし、どれだけ優れた戦士であろうと我が闇の力の前には無力なり!」
高笑いする、変わり種のリッチー。
王冠を戴く腐敗した巨大な人体標本。ボロボロになった黒いローブ。それは他の迷宮にも出てくる一般的なリッチーと同じなのだが。
良くしゃべる。
八割は自己紹介と自慢だ。
「フハハ、ここまではよくやったものだ!! 本当によく来た!! だが、これで貴様らは絶望し後悔しながら逃げ帰るであろう!!」
いや逃がしてくれるんかい。
初めて来た攻略者に話したかったことが爆発した感じ。
なんだこいつ。寂しかったのか?
だがコイツにつき合う理由はない。
「喰らえ、『ナイトメアプリズン』ッ!!!」
迷宮の塔、不可視の楼閣における戦いはあっけないものだった。
「う~ん? ん? あれ? お、ちょ……効いてない? な、なぜだ。なぜ我が闇魔法が効かぬ!? 常人ならば苦しみ、悶え、発狂する死の体験だぞ!?」
なぜ効かないかと言われれば、死の体験など何万回も経験しているからだ。
今の【精 神】はSだしな。
おれはポイっと手のひら大の筒を投げた。
中から勢いよく蒸気が噴出。
「だからぁ、淡々とそれを投げるのをやめ、ああああ!!」
聖水を込めた筒に『爆裂方陣札』を仕込んだものだ。
ただ古すぎて爆裂魔法は炸裂しない。その代わり魔力を込めると、強力な熱を生み出す。それによって筒の中の聖水が急激に蒸気へと変わり空間を埋め尽くす。
「聖水を掛けるんじゃなくて聖水で空間を満たすって……えげつないことするね」
「効果的と言ってくれ。クレア」
「あいあい」
動けなくなったリッチーへクレアが聖水塗れの斧を振り下ろした。
迷宮ボス『黒死王』はあっけなく討伐。
おれとクレアは迷宮を攻略した。
まぁ、二回目だからできて当然なんだけどな。
◇
さぁて、念願のアイテムを手に入れた。
「コレジャナイヨ」
「迷宮を攻略して手に入れた、これがクレアが言ってた有名な迷宮で手に入るやつ、だろ?」
「コレジャナイヨ」
駆け出し用の手甲を買おうとしたとき迷宮で手に入るいいものがあると言っていた。
獲得したのは大量の宝物と、皮のグローブ。右手用。
これだろ?
とクレアに示すが彼女はフルフルと首を横に振った。
赤紫の人皮のようなおどろおどろしい見た目をしている。
一方、左手用はというと、すでにおれの左手にはまっている。
「私はこの『黒死王の左呪腕』のことを言ったんだよ。最下層の迷宮ボス『スカルキングXL』を倒して終わりだと思ったのに」
おれたちは都市型迷宮に来た。
変わった所で、都市の中心にある城が迷宮となり、徐々に迷宮化が広がっているという。
おれたちは真っ先に城の最下層へ行き、迷宮ボスであるはずのスカルキングXLというデカいガイコツを討伐。
ドロップ報酬の『黒死王の左呪腕』を手に入れた。
何百年も前からあるメジャーな迷宮で、これが一般的な攻略方法だという。
だが、当然おれは気になった。黒死王ってなんだ? なぜ攻略しても迷宮化が止まらない?
城の上はどうなっている?
上の部屋じゃなく、塔の上だ。
そこだけ地図に載っていなかったのだ。
興味本位で登ってみると、外には空以外に透明な部屋があった。
隠し階層。トラップ迷宮にもよく似たものがあった。
この迷宮が迷宮化し続けていたのは誰も迷宮を攻略してなかったからだ。
なぜ誰も気が付かない?
おれとクレアは不可視の楼閣で出現した自称黒死王と戦った。
でも一回目は倒しきれなかった。リッチーに有効な攻撃は聖属性魔法、それか聖水。
そこで十分準備して戦いに臨んだ。
「おお、両腕が揃うと、気持ち悪さ倍増だな」
「ウン。大丈夫かなぁ……左腕は結構昔から流通しているんだけど、右手はたぶんこれが初めただから」
「まぁ、『デジャブ』で確認した分にはダイジョウブだ」
何かおかしくてもおれには武器が必要だ。
E級への昇格条件であるクエストは一端保留にして真っ先に武装の確保に来た。
おれには魔物を単独で倒す攻撃力、魔獣と渡り合うスキルが無い。
だが、この呪腕は基礎攻撃力を上げるだけでなく魔力を込めて能力を使える。
左手は『物理攻撃無効化』だ。
右手の方はまだわからないが何かしらあるだろう。
これでぐっと昇級に近づいた。
「よーし、迷宮を攻略したし、ギルドに報告しよう!」
「ちょっと待て」
眼下に広がる迷宮化した都市はただの廃墟と化していた。
「……ここに来た冒険者たちの仕事が無くなった」
「あれー、ここ発現型だったの?」
迷宮には発現型と建造型がある。
発現型は魔物の巣で魔物を倒せば消える。ドロップなどはない。
建造型は古代人が造ったもので何度攻略しても消えない。主要な迷宮やトラップ迷宮はこっち。
確かに奇妙だ。この迷宮はしっかりドロップアイテムを出したし、魔物も再出現していた。
なのに消失するとは両方の特徴を兼ねているということになる。
だが今の差し迫った問題はそこではない。
「そんなことはどうでもいい。迷宮を消失させてしまったと知られたら面倒だ」
「そ、そうだね……逃げよう!」
人々が迷宮が消えたことで騒然としている間におれとクレアは逃げた。




