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32.乾坤一擲



おれが反応できるはずもない早く重い拳が、身体に三度めり込み、体感したことの無い衝撃と共に吹き飛んだ。


「ふむ……一発『物理無効化』を使われたか。殺し損ね――むっ?」


だがやられてばかりではない。


奴の足元にバラまいた筒が起動し、爆発した。


「ヴィン! お父さん!?」


「クレア、まだだ。まだ終わってない」


おれはすぐに気力で立ち上がった。


爆炎の中から悠然と黒い怪物が現れた。


「ほう、爆裂魔法か。方陣札を工夫したようだな」


知っている。

この化け物はこの程度では倒せないということを。



なぜならこれがすでに二回目だからだ。



多少の裂傷を負っている程度。


だがおれもまだ切り札がある。


『デジャブ』で動きを読み、左手で奴の一撃を吸収した。

この一撃を右手から放ち、奴の顔面に食らわせる。


チャンスは一度きり。


ただ『デジャブ』を繰り返しても、無駄だと分かっている。

クレアと同じ、おれがどう動こうと奴は見てからいくらでも動きを変えられる。


戦闘経験もステータスも圧倒的に足りないおれが一発を食らわすには、先の先、そのさらに先を読むしかない。


『デジャブ』を発動し、さらにその間に『デジャブ』を発動させた。

『デジャブ』の重ね掛け。

さらにもう一段階先へ、さらに先へ。


何度も何度も、時の先での失敗を経験し、最適解を見つける。





「――っ! ぐぁぁ!!!」

「ヴィン!」


『デジャブ』の重ね掛け。

分かってはいたがとてつもない精神的負荷だ。


おれは『強壮丸』を飲み、奴へと歩み出した。



対等な攻防などない。


おれは真っ直ぐ突っ込んでいき、右腕の呪腕に魔力を込めた。


「浅はかだな!」


おれの攻撃は読まれている。簡単に空ぶるだろう。

大きな隙を生めばおれは重い拳の乱打を受けて最悪死ぬ。


「むっ――」



おれの背後で『爆裂魔法』が炸裂した。



爆風を背に受け急加速したおれの拳は黒拳より先に届いた。



おれの打撃力に加え爆裂魔法の急加速、さらに先ほどの黒拳のパワーが加わった。



おれの渾身の一撃は奴の顔面を捕らえた。



ドサリ。


地面に倒れ込んだ音は一つ。


おれは奴を見上げ、恐怖した。



「――ば、馬鹿な!」

「ぬぅ……血を流したのは久しい」


奴は多少のけ反った程度だった。


『デジャブ』で見た限りでは倒せていたのに。何もしくじっていない。

ほんの些細なタイミング、当たり所の違いだけだろう。


ここまでなのか?


「そうだ終わりだ。もうわかった」



これが二回目、完璧に準備し、全てを出し切った攻撃だった。


奴自身の攻撃でも、刃が立たないなんて。



「――お父さん! これ以上は」

「――及第点をやろう!!」

「「え?」」


「‶右〟か……それを生かす爆裂魔法での急加速、その発想、実行する胆力、悪くはない。クレアをやるにはまだまだ頼りない。だが、保留にしてやるぐらいには気概を感じた」



おれはもう立ち上がることもできない。


「貴様をとりあえずは男と認めてやろう」


完敗だった。


だがおれはうれしさで身を震わせた。


おれの全てはこの伝説の男に認めてもらえたのだ。


「お父さん、ありがとう!!」

「勘違いするんじゃありません。交際を認めると言っているんじゃない。判断を保留にすると言ったんだ」

「え? じゃあ、どうすれば認めてくれるの? お父さんに勝ったら?」

「ははは、それは無理だよ。パパに勝てるものなどこの世にいない」



コイツ、初めから誰にも娘やる気ねぇじゃん!!!




「七大迷宮を攻略しろ。そうしたら交際を認めます!」

「「え~!!」」



認めないって言ってるのか?



「さて――お遊びはここまでだ。本題に入らせてもらうが良いかな?」

「もう無理もう無理もう無理、なんだこの人怖い!」


おれが命を懸けた今の戦いが遊び、余興?

本題ってなんだよ!?

ていうか七代迷宮攻略の話は決定? 終わり? 交渉の余地なしか?


もうこれは二回目だ。


何が起きても回避できないぞ。



「ヴィンセント、お前に会いたいという者がいる」

「は?」


這いつくばっているおれに駆け寄って来たのは白装束を身に纏った小柄な女だった。



「ヴィンセント……ヴィンセント・アルトリンデン?」



おれはこの声に聞き覚えがあった。



「――っ、ママぁ!!」

「クレアちゃん。やっほー久しぶりだね」


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