27.『鉄の盾』パウロ
ハゲリーダーの回顧です。
慌ただしい街。
ギルドの個室で報告を行っていたのは『鉄の盾』のリーダー、C級冒険者のパウロである。
「こちらの報告はまた確認を取らせていただくと思います」
「ええ」
一通りの手続きを終え重い足取りでラウンジに出る。
「よぉパウロ。大手柄だったな」
馴染みの冒険者に声を掛けられた。
「他の面子はどうした?」
「みんな休息をとってる。『強壮丸』を飲まされたからな」
「ゲェ、まじか。まぁそれだけの死闘だったってことだな」
「いや――」
パウロはゴブリン退治に向かい遭遇したゴブリンファイターとの戦闘を思い返した。
◇
ただのゴブリン退治だと思っていたパウロたち『鉄の盾』。
彼らの行動を大きく変えたのは臨時で入ったF級冒険者のヴィンセント。
「『上位個体』がいる」
会って間もないF級の言葉を真に受けるわけにはいかない。
だがその言葉をパーティメンバーの盗賊職キックは無視しなかった。
ヴィンセントの類まれなる洞察力。迷宮攻略という実績がその根拠だった。
「なら証明して見せなさいよ」
メンバーの魔法職レネーの挑発的な言葉にヴィンセントは思いがけないことを言い放った。
「『私、いい年してだらしない男って嫌いなのよ。その歳で駆け出しって夢見すぎでしょ。しかも女のヒモって、最低だわ』とか思ってるだろ」
「んなっ! え、いや……」
図星なのは明らかだった。レネーは気まずそうに眼を泳がせた。
「ゴブリンは30匹以上いる。それが村を襲わないのは戦略を立てて機を伺っているからだ。このままゴブリン退治だと思って進めば奴らの思うつぼだ」
ヴィンセントの言葉には説得力があった。
だが確証は無い。
元より森に入るのは変わらなかったがヴィンセントの言葉で緊張感を持ちながら進んだ。
やがてヴィンセントの言っていたことが正しいとすぐにわかった。
待ち構えるゴブリンたち。
「本当に30匹以上もいたのか? ゴブリンファイターもいたんだろ。よく無事だったな」
「ああ、待ち伏せされてたからな」
「待ち伏せ!? 大丈夫だったのかよ?」
「まぁ、おれたちから奇襲をかけたからな」
「は?」
煙で姿を隠し、敵が狼狽えている間に背後から奇襲をかけた。
待ち伏せを出し抜き、完全に優位に立った。
リーダーであるパウロはごく自然に指揮をヴィンセントに明け渡していた。
なぜなら誰よりも的確に素早く事態を把握し、的確に対処していたからだ。
「攪乱し、分断し、罠にかけて、一網打尽だ。ゴブリンたちはわけも分からず逃げ惑い、収拾がつかなくなって慌てたゴブリンファイターも罠に掛かって、後は簡単だったな」
「いや、おかしいだろ。罠なんていつ設置したんだ?」
「ゴブリンが設置した罠だ」
「は?」
ヴィンセントはゴブリンが設置した罠の目印をズラしていたのだ。
設置したポイントがどこかゴブリンが見分ける目印は簡単なもの。
罠の位置を全て把握していたヴィンセントにとって多少の工作をするのは造作もなかった。
ゴブリンファイターは三体いた。
罠に掛かった隙にレネーの『ライト』を食らわし、視界を奪った。
「彼はゴブリンファイターと素手で撃ち合い、圧倒したんだ」
「なんで素手? というかそいつこれまでの話からして盗賊とかだろ?」
「そういうわけでもないらしい。というかあれは相当戦い慣れてたな。動きは拳闘士、それも獣人が得意とするヒットアンドアウェイでな。ゴブリンファイターの拳をこう、ギリギリ最小限の動きで躱して、打ち終わり際に反撃するんだよ」
「なんだそりゃ、当たったら死ぬかもしれねぇのに……イカれてるだろ」
まずヴィンセントが一匹目を瞬く間に打倒した。
動きが止まったタイミングで準備していたレネーが魔法で仕留めた。
残りの二匹、パウロ達が一斉に攻撃し体力を削る。
「おれはゴブリンファイターのスピードとは相性が悪かった、それに重装備では森の中の不安定な足場でバランスを失いやすい。何とか連携で攻めることができたが、一対一なんてとても無理だと思った」
「それが普通だ。上位個体なんて滅多に遭遇しねぇしな。単純に怖えーよ。ホブでも嫌だぜ」
「おれたちは必死に立ち向かっていた。だが奴らはヴィンセントに意識が向いていた」
「そりゃ仲間を倒した奴を警戒するだろうな」
「いや、ヴィンセントは消えたんだ」
「は?」
戦いの最中。
ヴィンセントは消えた。
接近戦に特化した魔物と接近戦をして打ち勝てる者が、姿をくらました。
「奴は隙を伺っていたんだ。気が散ったまま闘うゴブリンファイター共におれたちは一気に攻勢に出た。当然ゴブリンファイターは反撃しようとする」
その瞬間、背後からヴィンセントが二体を襲った。
無防備な背中にクリティカルヒット。
大きく怯んだ隙にパウロ達がその首を切り落とした。
「な、なんていうか拳闘士の風上にも置けない戦い方だな。一番いやな戦い方だ……いや、ゴブリンにとってはの話だけどよ」
「だが彼が戦いを支配していたおかげで優位に戦えたよ」
「一体、何者なんだ?」
「さぁな。だがクレアさん程の冒険者が一緒にいる理由が分かった。彼は最近冒険者になっただけで、おそらく元は何かのスペシャリストだったのだろう」
「宮廷魔導士や騎士って感じじゃないよな」
「どこかの国で奴隷闘士だったとか、暗殺稼業だったとかな」
パウロは自分で言っていてゾッとした。
暗殺稼業が妙にしっくりくる。
「なにビビってんだよ、試験に通ったんだろ。なら人格的に問題ないってことだ」
「ああ。そうだな。それにおれは彼に恨まれるようなことはしていない。暗殺されるならレネーだな」
「ちょっと、ひどい!」
「うぉ、レネーいたのか!」
年相応に不貞腐れる少女がいた。
「リーダーが報告終わらせるの待ってあげてたのにぃ!! ふぅーんだ!!」
「おい、悪かったよ」
「うはは、ガンバレリーダー!」
むくれて先を行くレネーを慌てて追うパウロであった。




