26.ドラゴンの砲撃
ゴブリンファイターを討伐した後、村から緊急事態を報せる鐘の音が響いた。
森を下ると見えたのは宿場町の方角から上がった火の手だった。
村でのゴブリンの出没は囮だったのだ。
おれたちがいない間に宿場町は奇襲を受け、壊滅。
そういうシナリオだったらしいな。
◇
「うっそ……F級がこんなことを……」
おれは『鉄の盾』と共に村に赴き、森に入って三匹のゴブリンファイターを討伐した。
「すごいよ、ヴィンセント!! 想像していた以上だ!!」
実際に討伐したのは盗賊先輩たちだ。
おれの攻撃じゃ倒せないが、パーティでの役割はアシストだからな。
やはり皆スキルによる必殺技を持っている。羨ましい。
「ああ、正直君だけ付いて来ると言ったときはどうしようかと思ったが、まさかこんな実力を隠していたなんてね!」
ハゲリーダーが興奮して詰め寄ってきた。ちょ、近い。
「いや、なんで敵のトラップの場所が分かるのよ。しかもそれを逆手にとるなんて」
魔法少女先輩がピーピーとうるさい。
ゴブリンたちは拙いながらも森にブービートラップを仕掛けていた。
なんでその位置を知っているかって?
二回目だからだよ。
おかげで楽に隙を作り、『デジャブ』からのカウンターコンボを決められた。
「さすがあのクレアさんが認めた男なだけはあるぜ」
「迷いのない行動力と、敵の備えを利用する技術と機転、脱帽でありますな」
賛辞がこそばゆい。
もっとおれをほめたたえて欲しい。
だが、そんな悠長なことは言っていられない。
「よし、ダッシュで街に戻ろう!!」
「「「「「ええ~!!」」」」」
なんとか理屈をこねて、街に戻ることを押し通した。
わざわざこっちの討伐を率いたのは一回目でまんまとゴブリンの罠にハマったからだ。
まさか『上位個体』どころか『特異個体』であるキングゴブリンが宿場町を狙っているなんてわかるはずがない。
おれのこの力がなかったらな。
宿場町の方にはクレアがいる。
それに置き土産も置いて来た。
道中、街の方から巨大な爆発音が聞こえた。
さらに凄まじい爆炎が空に向かって立ち上った。
「な、なんだ!?」
「ド、ドラゴンか!?」
置き土産が起動した、ということはもう始まっている。
「始まったらしい。急ごう!! みんなこれを!」
おれはみんなに強壮丸を配った。
「いい゛~!? こんなもの食えねぇよ。下手したら死ぬんだぞ!!」
『デジャブ』――うん、大丈夫、問題ない。
「一個じゃ死なない。せいぜい勝利の酒が飲めないくらいだ!! いいから飲め!!」
もはや先輩もなにもない。
こうしておれたちは一時間の道のりを半分で駆け、街にたどり着いた。
「あ、おかえり!! 寂しかったよー!!」
おーっはは、そうかそうか。
普通にクレアが迎えに来た。
無事らしい。
「あれ? 大丈夫だったのか?」
「うん。ほら、これー」
わぁ、すごい鮮度のいい生首だなぁ~。
これってもしかして『キングゴブリン』?
辺りにはバラバラになったゴブリンの死体が山になって、焼かれている。
死んだはずの兵士や冒険者たちも、キャキャ、ウフフと元気よく働いている。
「ヴィンが起きてすぐ仕掛けていったトラップ、爆裂方陣札の地雷でゴブリンの部隊はほぼ壊滅したよ」
丘の斜面が抉れて、というか丘が無い。
丘だった斜面の下の方は土砂で埋まって、中でゴブリンが窒息している。街のみんなが作業しているのはその片付けだ。
あんな思い付きのトラップが機能したのか。
「まさか、あのドラゴンの放撃のごとき火柱はお前か?」
「な、なにを仕掛けたらこんなことになるんだ?」
「おれはただ――」
方陣札は魔力を流すと起動する。
ワイヤートラップで地面に埋めた樽の中フタが傾くようにしておいた。
中フタの上にはクズ魔石を置いて、その下に爆薬と爆裂方陣札を仕込んだ。
先頭のゴブリンたちがワイヤーに掛かる
埋めた樽の中フタが傾く
中フタの上に溜まっていた魔力が樽の中を満たす
方陣札に魔力が流れる
方陣札起動
爆破
これだけで簡単お手軽に魔物を一掃できるトラップの出来上がりだ。
丘を埋め尽くす程のゴブリンたちはちょうど斜面に現れてから丸々爆殺された、ということだ。
先頭の方は時差でこの爆発から逃れたようだが、爆風や吹き飛んできた土砂で死んだ。
「いや、あれはすごい衝撃だったよ。私は丘の上の方で待ち伏せてたんだけど、キングゴブリンが丘の上で『突撃じゃー』ってした途端に、全滅だもんね。もうそれはそれは高い火柱ができたよ」
「おお~、さすが金が掛かっただけはある」
「1200万ゴールドの爆発」
「金額を言うな」
念には念を入れて20基設置したがちょっと多かったかな。
「もう後は簡単だったよ。統率とかいう以前の問題。阿鼻叫喚。逃げ惑うキングゴブリン。待ち構える私」
「それから?」
「一撃!!」
すごいな。二人でハイタッチ。
「さすがクレアだな」
「ウー」
褒めながら頭をナデナデナデナデ。
猫なで声を上げてされるがままのクレア。
しばらく堪能した。
「それで、そっちは大丈夫だった?」
「ああ、こっちもばっちりだ」
「そうは見えないけど」
「え?」
振り返ると『鉄の盾』の面々が、あきれた顔でこちらを見ていた。
はぁ、なんなの?
嫉妬?
「おい、何がばっちりだ! こっちはクレアさん抜きでC級魔物三匹相手にしたんだぞ!!」
やいのやいの、「強壮丸飲む意味無かった」だの「なんで黙ってたのか」だの「丘の埋め立て費を請求される」だの文句を言う鉄の盾のメンバーたち。
「ちょっと、ヴィン大丈夫かな?」
「大丈夫だ。全部強壮丸の副作用だろう」
全く、おれが命の恩人だとちゃんとわかっているのか?
いや、知るわけないか。
彼らがキングゴブリンに殺されることはもうないのだから。




