26.ゴブリン退治一回目3
「くっ、早い!!」
細身でありながら贅肉が無く、手足が長い。
両手には荒々しい鉄のグローブ。
これが『上位個体』、ゴブリンファイターか。
「逃げろ、ヴィンセント!!」
と言われても、おれの背後には魔法少女がいる。
この距離ではおれは良くても足の遅い彼女は瞬殺だ。
迷っている間に、ゴブリンファイターが一気に間合いに入った。
おれはクレアとの地獄の特訓を思い出した。
ゴブリンファイターのしなるような腕の動きから繰り出された拳。
[キィシャァ、シャァ、シャァ、シャァ!!!]
それをおれは避けた。
避け続けた。
そうするように訓練された通り、身体が半ば勝手に動いた。
「ヴィンセント!? よし、待ってろ!!」
盗賊先輩がナイフを投擲した。
しかし、逃げる隙にまでは至らない。
おれはとっさに、反撃しようと試みた。
「うらぁぁ!!」
ぶっつけ本番、最初の一撃は、なんとも無様な空振り。
「ええ、ちょっとぉ!?」
「――ぐっそッ!」
しまった。
気負って力が入り過ぎた。
やられる!!
だが腕をぶん回した後、ゴブリンファイターは顔を歪め、やや距離を取った。
警戒したのか?
当たれば効く!?
「くそ、こっちに来い!!」
盗賊先輩がヘイトを上げようとナイフを投擲する。
だが盗賊先輩が投げる投擲ナイフはかすりもしない。
これは、スキルを使ったのか!?
「マズイ、『身体強化』だ!!」
「きゃあ!」
恐怖からだろうか。
背後にいた魔法少女が脚を取られ転んだ。
思わずおれは気を取られ、意識を目の前の魔物から外してしまった。
しまった。
やられる!!
[キェッ!!]
殺意の籠った一撃。
その恐怖が、訓練の時のクレアを思い出させた。
「「――え?」」
盗賊先輩と魔法少女から驚きの声が漏れる。
「え?」
驚きの声はおれ自身からも発していた。
[ゴホッ……]
首をねじり、口から血を吐きながら、よろけた。
おれではなく、ゴブリンファイターの方が。
手に残る感触。
「い、今のは――おれがやった、のか?」
[キィィ、キェキェ!!!]
ふらつきながらこちらを睨むゴブリンファイター。
唸り声をあげて飛び掛かってくる。
「光よ照らせ『ライト』!!」
魔法少女が抜群のタイミングでアシストしてくれた。
光が森を覆う。
[キィィァァ!!]
背後から照射された光はおれの正面にいるゴブリンファイターの眼を確実に潰し、大きな隙を生んだ。
「うぉぉぉ!!!」
とにかく、連打だ!!
殴り続ける!!
「な、なんてラッシュだ!!」
「すご、イケるわ!!」
視覚が回復しないうちに勝負をつける!!
だが当然、ゴブリンファイターは守りに徹した。
くそ、おれには敵を殺す技が無い!
ここまでおぜん立てされて倒せないとは……
ゴブリンファイターがにやりと笑う。
おれに決め手がないと悟ったのだ。
[キィィア!!]
「――うぉ!!」
「おじさん!」
反撃された。
『ライト』の効力が切れたか。
[キィ…‥ギィギィ]
いや、まだだ!!
殺せはしてないが、弱らせることはできた。
おれはここぞというタイミングで『デジャブ』を発動した。
仮想的な一瞬先の未来世界。
その幻惑の空間で、進行したのは三発の拳を受けるという一種の自殺行為。
これによって、おれは敵の動作をより正確に知ることができる。
あえて失敗を試みるのだ。
単純な「直進」という行為に対しどういう動きをするのかがこれで分かる。
いつもなら、死を体験する行為。
しかし、今回は違った。
三発きれいに急所に食らったはずなのに、おれは意識を保っていた。
行動は全て記憶と化す。
一歩、無防備に脚を踏み出した。
奴の拳は既知なる軌道をなぞった。
[――ッギィャ!!]
これに、カウンターを合わせる。
「喰らえ!!」
これまでの訓練でやったこと、全てを出した一撃だ。
手応えがあった。顔面を破壊した感触。
「よし、やった!!」
だが、それはまだ立っていた。
「――は?」
これが人と魔物の違い。
訓練と実戦の違い。
思わず、身体が硬直した。
「うおぉぉ!!」
トドメを刺したのは盗賊先輩だった。
脳天にナイフを刺され、ゴブリンファイターは絶命。
「――た、助かった……」
「いや、助かったのはこっちだ。ヴィンセントがあそこまで戦えるとは」
「こ、怖かったー!! ありがとうおじ――ヴィンセント!!」
「いや、おれでは倒せなかった。『ライト』助かったぞ、魔法少女先輩」
「何言ってるの? 素手で倒せるほうがおかしいわよ。あと変なあだ名で呼ばないで」
素手……あ、そうだった。
あれ?
C級魔物を素手で倒せそうだったってすごくないか?
「おーい、おーい、大丈夫だった? まぁ、ヴィンが居るから万が一はないと思ってたけど」
「クレア、無事だったか」
「え? うん」
クレアは一人で二体のゴブリンファイターを倒していた。
二体とも頭から真っ二つに割られていた。
「うわぁ、どうやったらこんなことできるのよ」
「ヴィンセントもすごかったがさすがに桁違いだ……」
うん、おれすごくないわ。
すごいってこういうことを言うんだな。
待ち伏せを攻略したおれたちは先に進むか引き返し報告するかで話し合おうとしていた。
その時、村の方から鐘が鳴った。
それはおれたちがゴブリン共の罠にはまったことを報せる凶報であった。
奴らの狙いは村ではなく、おれたちがやって来た宿場だったのだ。




