20.デート
待ち合わせの場所でクレアを見つけた。
「おはよう、ヴィン」
「おはよう、クレア」
やはり美人だ。
周囲の視線を総なめ。男が何人か側溝にハマってコケていた。
クレアは結構なおしゃれで、毎日違う服を着ている。
冒険者はいつも同じ装備を着るものだと思ったが上級冒険者ともなると違うらしい。
ちなみに今日はおしとやかなロングスカートと清楚な白いシャツの組み合わせだ。ギルドの受付嬢のような感じだな。
もちろん、ギルドの受付嬢より断然かわいくて美人だけどな。
今日はこれからデートだ。
「それで、どっち?」
「二回目だよ」
「むぅ‥‥‥ズルいなぁ。じゃあ、私がどこに行きたいかも全部知ってるってことでしょ?」
「いいや。クレアはおれが行きたい場所をって言ったから」
今は‶二回目〟だ。
クレアにはズルいと言われたが、一回目もデートをしたいと言ったのは彼女だ。
一回目は寝てしまえばただの夢へと変わってしまう。
これはコントロールできない。
せいぜい二度寝をして、一回目を短く終わらせるぐらいだ。
だとしても一回目も現実だ。
おれにとっても、彼女にとっても。
だから会ってまず、彼女へ一回目か二回目を伝える。
それが日課だ。
「二回目だからって飽きないでよね」
「そんなことあるはずないだろ」
「ふ~ん。じゃあとりあえず、一回目の私とどんなことしたか教えて」
「ああ」
さぞ奇妙な気分だろう。
自分がまだしていないこと、言っていないことを知っている男が居る。
そもそもおれが本当に一回目か二回目かなんて、彼女にはわからないのだ。
だからこそきちんと説明はする。
すこしでもクレアが不安に思わないように。
「なんだか、他の女とのデート自慢をされている気分だよ」
「それは違うだろ! どっちもお前なんだから」
「でも~、なんかヴィンから聞く私って女の子女の子しすぎっていうか‥‥‥誇張してない?」
してない。
自覚無いのか?
自分がかわいいこと。
「クレア、これは一回目のお前には言わなかったことなんだが」
「なになに!?」
「院長ってきれいだろ?」
「‥‥‥マ、マザコン!?」
「やめろ。客観的に見ての話だ」
ハイエルフという種族自体珍しい。
そしてその美貌は伝記や説話で出てくるくらい有名だ。
要するに、ハイエルフである院長が美人なのは常識だ。
「クレアはその院長に引けを取らない」
「えぇ~私あんなに綺麗じゃないよ!!」
「個人的には、クレアの方がかわいいと思っている」
「あ、ちょ‥‥‥」
「何でなのか、クレアの魅力について一度真剣に考えたんだが、聞くか?」
「い、いえ、ダイジョウブです」
「うん、まずその天真爛漫な表情と元気いっぱいな動き。これがたまらない!! こう―――」
「ヤメテ!? 聞いてないから!!」
照れて耳がぱたんとなるところとか、感情豊かなしっぽの動きまで愛おしい。
例えるなら……
「だめだ、クレアを例えるられるかわいいものが浮かばない」
「ヴィンは大げさだよ!!」
「自分の魅力に全く気が付かないわけないだろ!? 見てみろ! 街中の男が絶対にお前を見て振り向いているんだぞ!!」
「えぇ~、私がA級だからでしょ?」
「‥‥‥なら聞いてみるか」
「何を?」
おれは道行く男に声をかけた。
クレアをA級だから見ていたのか。
かわいいから見惚れていたのか。
「なぁ、おれの彼女、どう思う?」
「か、彼女だと!?」
「ふざけんなよ!!」
「なんでそんな野郎がぁ!!?」
「羨ましい!!!」
「死ねぇい!!!」
おれは街中の男たちの反感を買ったらしい。
「ほらな」
「恥ずかしいからもうしないでね?」
おれたちは場所を変えることにした。
‶二回目〟のデートは全く別のルートを辿り、別の場所に行く。
カフェだ。
冒険者の街で数少ないデートスポットには大勢のカップルがいる。
ここなら妬まれることも無いだろう。
「もう~、せっかく街を救った英雄なのに、もう嫌われてるじゃん」
「別にいいさ。街中の男に嫌われても。おれも嫌いだからな」
「へぇ~。じゃあ女の子はどうなの?」
「あ?」
「結構人気出たでしょ? 受付嬢さんとかに誘われたりしてない?」
これは浮気調査だな。
まったく、そんなこと気にしていたのか。
「誘われるもなにも、おれを誘う理由が無い」
「そんなことないよ! ヴィンはかっこいいよ?」
「それこそ過大評価だ」
「なら確かめよう!!」
クレアが給仕係の少女を呼んだ。
「はい、ご注文お決まりですか?」
「あの、私の彼、どう思います?」
「‥‥‥彼? え? あなたの、ですか???」
「そうですけど」
店内がざわつき始めた。
「ど、どうでしょう‥‥‥」
おい、社交辞令ってものがあるだろ。
本気で困るな。
「頭いいし、頼りになるし、勇敢だし、目つき悪いけどよく見ると凛々しい顔してるし、迷宮攻略してるし、人だってたくさん助けてきたし、冒険者だけど汚くないし、臭くないし、食べ方もきれいで、ぶっきらぼうに見えて実は優しいところとか―――」
「ク、クレア、もういいから!!!」
「そ、そうですね‥‥‥素敵だと、思いマス」
「でしょう!!!」
「出よう、クレア」
「えぇ、もう?」
「ああ、お客様!」
「あの子、変わってるね」
「どうかな?」
普通にまともだと思う。
「初対面の相手に、勇敢だとか言ってもわからないだろ?」
「……ヴィンのかっこよさは見た目じゃないから」
「それで励ましているのか?」
「大丈夫、これから私がいい男にしてあげるから」
自信たっぷりに笑うクレア。
クレアに出会って無精ひげを整え、散髪し、戦闘訓練に時間を割いた。
少しは身体も鍛えられたはずだ。
ステータスが大幅に上がったのに、彼女には全く敵う気がしない。
伝説の勇者パーティに所属していたSSS級冒険者『黒拳』。
クレアはその娘だそうだ。
クレアはその父の教えをおれに教えてくれている。
つまりはおれはSSS級の特訓を受けているのだ。
これで期待に応えられなかったら男じゃないな。
「お、武器屋だ。そろそろ手甲を見て行こう」
「ダメです」
「なんで!?」
デート中だからか?
あ、これはスパルタ教官モードのクレアだ。
このモードの時一切妥協してくれない。
だが神妙な面持ちのクレアは仕事の出来る大人の女といった感じでとても魅力的だ。
「武器は補うモノではなく高めるモノです!」
「そりゃ駆け出し装備ばかりで安価なものが多いが、無いよりましだ。やだぞ、ずっと素手で戦うの」
「まず素手に慣れて。素手の状態でどこまで戦えるか自分で完全に把握してからじゃないと。A級とかになると装備の力も大きくなるからね」
「ああ、わかった」
素手でどこまで、というのは素手で何なら破壊できるかだ。
おれは拳闘士や武僧のクラスではないから岩とかは無理。
殴ると痛い。
手甲があればできるかもしれないが、装備に依存するともし手元にない場合、破壊された場合に迷いが生じる。
とりあえず武器を揃えれば、なんか強くなった気になる。
駆け出しが陥りやすい罠だ。危うくハマるところだった。
「そんなにしょげないで。途中にある迷宮でいいものが手に入るから」
「しょげてないです」
冒険者育成校は王国の都にある。
ここは王国でも外れの方。
その道中にあるメジャーな迷宮内でレアアイテムとして手甲が出るらしい。
「それってどんなものなんだ? わざわざ取りに行くほどのものか?」
「まぁね。ヴィンにピッタリだと思うよ」
自信満々に胸を張るクレア。
だが聞き出そうとしてもったいぶってなかなか教えてくれない。
おれにサプライズを用意したいらしい。
かわいいやつめ。
「あ、あんたら―――」
武器屋を見物しているとさすがに冒険者たちに見つかった。
クレアだけでなく、おれにも声をかけて来る奴がいた。
こっちは知らないのに、相手に知られているのは妙な気分だ。
「お前ら街を出るんだって?」
「どこ行くの?」
「なぁ、迷宮の二階層ってさ‥‥‥」
これじゃデートにならないな。
「ほら、ヴィン人気者だよ」
「あれはすり寄って来ているだけだ」
「そうかな?」
「違うか?」
「まぁ、そういう人もいるけど、冒険者は実力の世界。ヴィンはこれだけの冒険者に実力を認められてるってことだよ」
そういう考えは無かったな。
おれはずっとソロだったが、そもそも冒険者はパーティを組むのが一般的。
評判は大切だ。
鬱陶しいが、そこそこ評価されていると思うことにしよう。
丁重にそっとして置いてもらうか。
「なぁ、お前ら」
「今ヴィンとデート中だから後にしてね」
さっきまで好意的だった奴らの眼が死んだ。
まるで葬式のように静まり返った。
「ヴィンセント」
誰かに肩を掴まれた。
「お幸せに」
「ああ、ありがとう」
彼は血の涙を流していてとても怖かった。
ただ歩き、話しているだけであっという間に時間が過ぎていく。
ただ歩き、話しているだけで喜び、笑うクレア。
その間おれは冒険や迷宮のことを忘れていた。
そんなことこれまで無かった。
「やっぱりズルいよな」
「何が?」
「『二回目』だよ」
この現象が起こす奇跡は、悪夢を晴らして道を切り開いてくれた。
それだけではない。
「幸せが二倍だ」
「それはズルいねぇ~」
「だろう」
「なら私も共犯だね」
「え?」
「ヴィンを二倍幸せにできたってことでしょ? なら私は100倍幸せだよ」
「そりゃズルい。けど、クレアを幸せにするのはおれだぞ」
「え?」
どうやら気が付いたようだ。
口をポカンとしてしてる。
ははは、いい反応だ!
先におれのサプライズが効いた。
彼女の瞳はささやかな夜景と満点の星空に彩られ、キラキラと輝いている。
街を一望できる丘の上。
夜景と満点の星空を独り占めできる、穴場だ。
「うわぁぁ……えぇ、もしかしてヴィン……サプライズ!? こんなロマンチックな場所にそれとなく連れて来るなんて!」
「連れて来るって約束しただろう」
「わぁーい!」
前に夜空をずっと見ていたからな。
暗闇を照らす星空と街の光を見て少女のようにはしゃぐクレア。
そんな彼女の姿を見て、おれは例えようのない幸福に浸った。
◇
あれ?
目が覚めると、一回目と別の場所で寝ていた。
というかクレアが泊まっている宿だ。
横を見ると布団から黒いケモミミだけ出てピコピコ動いている。
「――クレア?」
「きゃ~」
布団をめくると手で顔を覆った彼女が丸くなっていた。




