19.浮かれるヴィンセント
冒険者になったおれはすぐに院長に報告をした。
「これでおれも一人前です」
「あらあら、良かったわね」
孤児院のガキどもにもおれが冒険者になった証を見せてやった。
「うわだっせ、F級かよ」「そんなもんより差し入れ持って来いよな」「いい大人がその程度で浮かれてみっともねぇ」
まったく、ここのガキどもと来たらひねくれていて困ったものだ。
だがおれは大人だし今は気分がいいので見逃してやる。
「みんな差し入れ持って来たヨ」
「うわぁ、クレアお姉さんありがとう!」「クレアさん遊んでよ」「クレアさん」
ガキどもがクレアに群がった。その差し入れはおれも金を出したんだぞ。
「ねぇ、ヴィン。冒険者になったのならもう街を出て行くの?」
「そうですね。クレアと話して依頼を受けながら育成校に入るつもりです」
「え、ヴィンセントが街を出るの?」「ど、どうせすぐ院長に泣きついてくるさ」「そうだよな。ヴィンセントだもん」「F級だしね」「うん……」
ガキどもめ。
「ヴィンは人気者だね」
「どこがだ?」
子供は嫌いだ。失礼だからな。
その日はガキどもにアレコレと話をするようせがまれた。
しつこい奴らだ。
おれは仕方なく迷宮での戦い、勇者との決闘、冒険者試験のこと臨場感たっぷりに話した。
院長に教育に良くないからと怒られた。
やっぱり子供は嫌いだ。
「やれやれ、もうこんな時間か」
「ずっと話してたの?」
孤児院を出るとクレアが待っていた。
「すまん」
「いいよ。夜空を見てた」
「ここよりもっときれいな場所があるぞ」
「ふーん、じゃあいつか連れてってね」
彼女を待たせてガキどもに自慢話をしていたとは、馬鹿だな。
たかがF級だ。
「ちょっと調子に乗った」
「いいんじゃない。たまにはそういう日があっても」
「いや……おれなんかが話すより、お前の話の方があいつらのためになる」
それは虫が良過ぎるか。
だが、この街の外の話をあいつらに聞かせてやりたい。
おれにギルドマスターの代わりはできないからな。
「私はなんやかんやで家族には恵まれてたからね。あの子たちに寄り添う自信が無いというか後ろめたい気分」
「そんなこと気にするな。あいつらはおれよりお前の方が好きだろうよ」
「ううん。みんなヴィンの前では素だもん。それって信用してるってことだと思う。ヴィンは意外と裏表ないから子供に好かれるのかもね」
「なんだそれ。おれは裏表あるぞ」
「どうかな」
クレアはおれ以上におれに詳しい。見透かされているというか。
逆にクレアは意外と謎めいている。
おれにはクレアの行動や考えが読めない。
もっとクレアのことを知りたい。
「いつかお前の家族も紹介してくれ」
「ほぉぉ~う、うん……」
なんだ?
「私の家族ってちょっと変わっているというか……ママはまともなんだけどね。お父さんが容赦ないんだ。お義姉ちゃんたちの恋人だった人でひどい目にあった人が結構いて」
ひどい目ってなんだろう。
娘はやらん的なやつか。
「クレアは義理の姉がいるのか」
「うん。たくさんいるよ。全員ママが違うけど」
「ふ~ん? え?」
「まぁ、獅子族は一夫多妻だから。あ、だからってヴィンは他の女の子に目移りしたら嫌だからね」
「しないよ。しないに決まってる」
「そう? ならいいんだけどね」
そう言いながらクレアが身を寄せて来た。
心臓が大きく脈打つ。
夜風の中身を寄せ合うと彼女の温もりが際立つ。
「ヴィン、うー」
「え?」
クレアが目を閉じて唇を突き出して来た。
「チューしていいよ。合格したご褒美」
彼女との時間は常に不意討ちの連続のように、衝撃的だ。
まるでおれの油断と緊張のスキマを狙っているみたい。
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
思いっきりいった。
「……ほらね、ヴィンは裏表ない。私のこと大好きだってわかるもんね」
「――おれも、クレアの気持ちが分かった、気がする」
「自信もって。それ、間違いないから」
『トゥワイス』が起こるようになってから、逆に不確かで曖昧な道を進んでいるような気がする。
ああ、そうか。
おれは今、特別な地図を埋めているんだな。
「あ、ヴィン言い忘れてた」
「ん?」
「冒険者試験合格おめでとう」
「ああ」




