18. VSギルドマスター
おれは一人、ギルドにやって来た。
他の冒険者も今日ばかりは声を掛けない。
おれの緊張が伝わっているのだろう。
おれの冒険者試験をギルドマスター自ら執り行うというのだ。
ギルドマスターは元B級冒険者で『鉄拳』と呼ばれていた。
演習場には待ち構えるギルドマスター。
引退してしばらく経つがあのデカい筋肉を見ると、まだまだ現役でもいけるのではないかと思う。
「彼女に鍛えられたようだな。一週間前とは体つきが違う。それにいい面構えだ」
「覚悟してきた」
『トゥワイス』を駆使すればチャンスは二回ある。
だがそれはしない。
この現象は便利ではあるが、時に覚悟を鈍らせる。
すでに昼寝を挟み試験前に二回目にしておいたのだ。
わざわざギルドマスターが試験官を申し出たのはおれの覚悟を見極めるためだ。
ステータスが上がっても、『デジャブ』のみで上に昇るのは困難であることに変わりはない。
「自覚はあるようだな。A級の彼女と訓練をしたなら以前よりハッキリ気づいただろう。高みに昇ることの難しさ、途方の無さに」
「それでもおれはやり切る。信念を持ちやり遂げる。そうすれば結果は自ずと付いて来る」
「わかってるじゃないか。ではその信念とやら、見せてもらおう!」
◇
10歳の時、おれは捨てられた。
アルトリンデン辺境伯。
父はおれのスキルを使い、自分に襲いかかる危険を取り除こうとした。
危機回避のための訓練をさせられた。
二択を迫られ、間違えたら死ぬ。
毒見役、裏切り者の判別、賭け事や決闘、なんでもやらされた。
だが『デジャブ』で分かることには限界があった。
おれは判断を間違え折檻されることも多かった。
そんな時、領地内で様々な問題が起きた。
魔獣、凶作、内乱、流行病――
おれの力など遠く及ばない事態だ。
そんな時、当主である父は流行病の治療のため来訪していた『聖女』から託宣を受けた。
『領地の度重ねる不運は運命を捻じ曲げた報いです』
おれの『デジャブ』が本来訪れるはずだった不運を回避させた結果、それらが領地に蔓延したのだという。
父は領民の怒りの矛先をおれへと向くようにした。
断罪し処刑するためだ。
おれは『デジャブ』を用いて何とか領地から逃げた。
その後運よく冒険者に助けられ、この街へとやって来た。
ギルドマスターの紹介で孤児院に入れられた。
おれは誰も信用しなかった。『デジャブ』で判断し、おれを騙そうとしていないかいつも誰かを疑っていた。
おれを利用し続けた挙句、殺そうとした両親。
適当なことを言っておれに罪を着せた聖女。
それを信じおれを糾弾した領民たち。
『全て敵だ。一人で戦うしかない』
おれは孤児院を脱走した。だがすぐに行く当ても、生きる術も持たないことに気が付いた。
少し前まで貴族だったのだ。
おれは『デジャブ』の使い方以外何も教わらなかった。
すぐに見つかり、連れ戻され院長にきつく叱られた。だが当時のおれに院長の言葉は響かなかった。
『ついてこい』
ギルドマスターが見かねておれをギルドに連れて行った。
『こいつがお前を助けた冒険者だ』
見せられたのは資料だった。
彼はすでに死んでいた。
『ここは最近発見された迷宮の探索をするためにできた街だ。まだ迷宮内部については謎が多い。地図はまだほとんどが白紙だ。彼も迷宮内で命を落とした』
ショックだった。
恩人の死に対してではない。
この世界は自分よりはるかに生きる術を持ち合わせた者でもあっさりと死んでしまう。
その事実、現実の厳しさに恐怖した。
おれにとって世界の全てが迷宮と同じ。
地図には何も書かれていない。
どう進めばいいのか、どこに向かえばいいのかわからなかった。
『わからないなら調べればいい。考えればいい。足りないものは補え。できないことは人から学び、練習しろ。だが何のためにやるのかをまず自分で決めろ。お前はどうしたい? どう生きたい?』
おれは自分が生まれてから一歩も先に進んでおらず、ずっと立ち止まっていたと知った。
両親や聖女に復讐する道、過去を忘れ孤児院で安寧に暮らす道。
おれは自分で別の選択をした。
ここから自分は生きる術を見つけるのだと、できることは何でもやることにした。
自分の存在価値を認めさせ、成功者になる。
そのためにおれは冒険者になる道を選んだ。
◇
「うぉぉぉ!!!」
訓練通り、おれは攻撃の回避と共に相手の態勢を崩し、『デジャブ』による有効打を狙った。
だがギルドマスターのスキル『鋼鉄化』の前に、おれの攻撃の一切は無駄だった。
「そこまで!」
試験の合否を判定する職員が試験を止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ――」
おれは『鉄拳』を食らいボロボロだ。
一方ギルドマスターは一切ダメージが――
グラついている。
鬼の形相のように見えた顔はダメージで歪んだ苦悶の表情だった。
「ぐぅ……強くなったなヴィンセント。お前の攻撃はしっかり効いている」
おれは判定員を見た。
「ステータスは申し分ない。地図作成、救援への協力、迷宮攻略の方法を無料公開などからその人格に疑う余地はない。そして、勇者との決闘、元B級冒険者のギルドマスターと戦いでただの一度も膝を屈することがなかった。その力にも疑いの余地はない。よって、ヴィンセント・アルトリンデンを冒険者として認めます」
「ヴィンセントおめでとう。これでお前は冒険者だ」
おれはやっと自分の地図の一枚目を埋めることができた。
「おめでとう、やったなアマチュア!!!」
「お前ならいつかやると思ってたぜ、アマチュア!!」
「これからは同じ冒険者だな、アマチュア!!」
「おい、迷宮攻略がどんなだったか話せよアマチュア!!」
「皆でアマチュアの試験合格を称えようぜ、よっ、アマチュア!!」
「アマチュア!」「「アマチュア!」」「「「アマチュア!」」」
「「「「アマチュア!」」」」「「「「「「アマチュア!」」」」」」「「「「「「アマチュア!」」」」」」
「「「「「「「「「「アマチュア!」」」」」」」」」」
「うるせー!! アマチュアじゃねぇぇぇぇ!!!」




