17.ギルドマスター
ギルドマスター視点の幕間です
一昔前はなりたい者に名前を書かせ、登録料を払えば冒険者になれたらしい。
だがそれでは死亡率が高くなる。
そこで試験制になった。
ヴィンセントにしてみれば迷惑な話だろう。
そのせいで奴は冒険者にずっとなれなかったんだからな。
この二十年、それこそガキの時からアイツは試験を受けて来た。
受ける度に努力の跡は見えた。
だが合格にすることはできなかった。
致命的なほどに戦えなかったからだ。
戦闘向けのスキルを持っていなかったのだ。
戦士職なら身体能力向上系スキル。
剣や槍などの武器取扱い技能スキル。
魔力混合による攻撃スキル。
『直感』などの感覚強化スキルもあると良い。
魔法職なら魔法技能向上系スキル。
支援型ステータス上昇系。
状態異常系スキル。
詠唱や術式無用の速攻魔法系スキル。
『鑑定』『転移』などの補助スキルなども重宝される。
他にも剣士、盗賊、僧侶、薬草師、錬金術師……冒険者としての職種を担うにはそれに見合ったスキルが必要だ。
だがヴィンセントにはそれが無い。
『デジャブ』というスキルは超常系か感覚強化系に属しながら戦闘では役に立たず、聖職者の『予知』のように先々のことまでは分からない、半端なスキルだった。
その上奴はどれだけ訓練をしてもスキルが発現しない特異体質。
正直言って冒険者には向いていない。
冒険者でなければ賭けでイカサマし放題だ。
冒険者でなければ役人でも商人でも大成できた。
それでも奴はあきらめなかった。
冒険者にこだわった。
トラップだらけの迷宮に潜り、何度も死にかけてセイラを心配させていた。
どれだけ迷宮に潜ろうとも魔物一匹倒せない。
奴のレベルは全く上がることもなかった。
それでも奴は続けた。
冒険者に向いていない?
本当にそうだろうか。
おれはいつからか疑問を抱き始めた。
あいつほどこの迷宮に潜っている奴は冒険者にもいない。
奴にはスキルはないが、知識と経験を積み重ねていった。
ヴィンセントの書く地図は正確で、詳細。
何度も救援に協力してくれた。
命を救われた冒険者は数知れない。
立派な才覚だ。
あいつの本当の力はスキルじゃない。
あの洞察力、観察力だ。
常人では気が付かないところまで、あいつの眼には多くのことが見えている。
恐らく、死や死に等しい危険を『デジャブ』で体感し続けたことで、本能がより多くの情報を得ようと発達したのだろう。
ステータスと戦闘を見る試験、おれはこの制度を変えられないか本部に掛け合った。
あの才能と努力の塊を、切り捨てるのは忍びない。
しかしそれは冒険者の死亡リスクを上げる前例となりかねないと、却下された。
要するに「そういう奴は非正規、アマチュアとして使っていればいい。死んでもギルドの責任にはならない」ということだ。
おれにできることはギルド職員として雇うことぐらいだ。
奴はもう三十歳。
ずっと一人というわけにもいかないだろう。
定職に就いて家庭を持って、人並みの幸せを得た方がいい。
その方がセイラも安心するだろう。
そう考えていた矢先、奴が迷宮を攻略した。
とんだお節介だった。
あいつは自分の力でおれの予想を遥かに超えた。
それだけじゃない。
勇者と決闘して勝っちまった。
A級のクレアがあいつの何かを変えた。
偏屈でずっと一人だったあいつが、彼女のことを心底信用している。
彼女もまたヴィンセントを信用している。
ずっと一人で足掻いて来たあいつが他人を受け入れた。
自分のことのようにうれしい。
よかったなヴィンセント、お前は立派だ。
もうその実力を疑う奴もいない。
不思議だ。
おれに息子が居たら、こういう感覚なのかと想像した。
これから最後の試験だ。
おれはおれの手で、あいつをここから羽ばたかせよう。あいつが夢を叶える瞬間を見届けよう。
ただし、一切手は抜かないがな。




