16.スパルタ
ギルドマスターとの冒険者試験に向けて、おれはクレアに戦い方を教わることになった。
だがその前に戦闘スタイルの方向性を決める所から始めなければならない。
普通は――例えば……
スキル『剣術・初』『筋力・小』
↓
天職:【剣 士】
↓
職業に合わせた武装:【大剣・長剣】
――と言う風に生まれ持った才覚によってある程度の進路が決定するものだ。
一方おれは――
スキル『デジャブ』
↓
天職:わからん
↓
武装:決めようがない
自分で決めるしかない。
「ヴィンはアイテムを使って補助や攻撃をしたり、スキルで危険を察知できる。支援型だと思う。斥候・盗賊とか」
「おお、じゃあ短剣とか弓とか?」
「う~ん、使い慣れてない武器を持っても無駄かな。駆け出し冒険者によくあるんだ。剣とか弓って持っただけじゃちゃんと扱えないから」
A級冒険者。
それもSSS級冒険者を両親に持つだけあって、クレアには確かな知識がある。
それに比べておれは聞きかじった程度の知識だ。
彼女はおれの頭の中にある「冒険者と言えばこう」というイメージを矯正した。
必要の無いものを如何に省き、如何に自分の特性、役割に沿った準備をするか。
街からほとんど出たことが無い上に、冒険と言えば迷宮に潜っていただけのおれは完全に彼女の生徒だ。
「じゃあ、アイテムを素早く取り出せるベルトポーチと動きを損ねない革鎧が妥当か。でも武器はいるだろ」
「手甲かな」
「手甲?」
「たぶんヴィンのスキルと一番相性がいいのは拳打で戦う拳闘士スタイルだと思う」
なるほど~。
おれは三十歳だ。
武器を一から学ぶのは時間が掛かる。
一か八か武器を試していくよりもステータスに沿った戦法を選択する。
スキルとの兼ね合いも考えると確かに、『デジャブ』による行動予測を生かすには速さが重要だ。
武器を持っては速度を殺すだろう。
実に合理的だ。
「ヴィンって格闘技習ったんだよね?」
「ああ、まだ自分にスキルが発現すると信じていたガキの頃にな。といっても手伝いをする代わりにその辺の冒険者に適当に教わっただけだ」
「そ、そう……ヴィンは戦闘系スキルこそ持ってないけど相当センスいいよ。だからこれからは私が教えるね」
「え? 拳闘士の動きをか?」
「うん。お父さんが拳闘士だから大体わかるし、育成校に行くまでの間にね」
本当に、おれの彼女は何でもできるな。
斧で攻撃、防御し、『ヒール』で回復役……獣人だし『加速』もあるから斥候・盗賊役もこなせる。
彼女にとって必要な存在になれるのか不安になってくる。
「短い間でも『二回目』をうまく利用できれば、単純に二倍の効率で成長できるよ」
「ああ、頼む!」
◇
おれはクレアと対峙している。
さっそく訓練を始めることになった。
「まずは基礎の基礎。対人の基本的な動きからね。『トゥワイス』は経験値の蓄積だから、一回目はできるだけ技術面を、二回目は体力トレーニングに充てよう」
実に合理的なプランだ。
一回目で死ぬほど走っても、筋トレしても肉体自体は二回目で元に戻ってしまうからな。
おれは戦闘系スキルが無い。
だから訓練で戦い方を身につけなければならない。
A級冒険者から直に教わるなんてありがたい話だ。
でも……
「なぁ、なんでクレアは武器を持ってるんだ?」
「そりゃ、実戦的な基本を覚えるためだからね。一から組手でもすると思った?」
ツーハンドアックスを二本構えるクレア。
迷宮ボスとの戦いで刃は潰れているが、当たったらただでは済まない。
「ダイジョウブダイジョウブ。当たったら私が『ヒール』で治すから」
「――……わかった」
「あ、ちなみに反撃してもいいヨ」
訓練とは言え、女を殴れな――
「今、訓練とは言え、女は殴れないと思ってますゥ?」
クレアはよくおれの考えを読む。
そういうスキルでも持ってるのか?
「ヴィンはアマチュア。私はプロ」
「わかってるよ」
「ヴィンはアマチュア。私はA級」
「しつこい」
「さて、他に私とヴィンの違いはあるかな?」
これは……!
試されている。
「男と女……いや、体格。それと当然ステータスだろう」
「う~ん、まぁ正解だけど、理解はできてる?」
「なんだ?」
「やってみた方が早いか。ちょっと腕相撲しよう」
おれの【膂 力】はCだ。
彼女はおれよりも膂力が上なのか?
「言っておくけど私の膂力はヴィンと同じCだよ」
「そうか」
ステータスに大差がないなら――
「はい、私の勝ちー」
「……は?」
全く勝負にならない。
なんだこれは!?
「ヴィンも男の子だから少しは鍛えたんだろうけど、そんな細身の身体じゃ話にならないよ。気づいたと思うけどステータスが同等なら、勝負の分かれ目は力を引き出す技術、力を込める技術、力をためる技術、力を持続させる技術――要するに効率よく力を使う技能だね」
おれはステータスによる恩恵を100%引き出せていないということか。
いや、伸びしろを上げ切っていないと前向きに考えよう。
「あと、ヴィンはヒュームで、私は獅子族とのハーフ。獣人の方が身体的能力は高いからその差もあるね」
「おれに勝ち目はないってことか」
「いや? スキルを使ってもいいよ。私は使わないけど」
こうして濃密な訓練を受けることができた。
クレアの動きは勇者とは比べ物にならない。
『加速』無しでも素早く、強烈だ。
それに戦略性で全く敵わない。
『デジャブ』を使い、クレアの動きをあらかじめ知って行動する。
だが一回では歯が立たない。
なぜなら、彼女はスキル無しでもおれの動きに対応する。
これは経験則だ。
だから『デジャブ』を重ねて発動しようとする。
しかしその隙をクレアは与えてくれない。
「スキル発動が遅い! 闇雲に発動しない! ステータスで発動回数は変わるんだから体感で魔力量を自覚しなさい!!」
「くっ……」
戦闘ではやはり『デジャブ』後のフリーズが問題だ。
相手の動きを知っていても自分が止まっていては意味がない。
並の冒険者相手ならこの一瞬の隙で致命的な事態にはならないのだろうが、本物のA級には通用しないのか。
反撃どころじゃない。
避けるのも無理だ。
おれは何度も吹っ飛ばされた。
「身体を鍛える、戦略性を持つ、スキルの練度を上げる……か」
「初日でそれだけわかれば上出来だよ」
おれには自分より強い相手と戦う戦略がない。
戦略が立てられないのは軸になる知識や技術が足りて無いからだ。
◇
二回目。
教わったことを意識してひたすら戦う。
だが一回目と違うのは……
「なんだこの砂袋は!」
「重しだよ。冒険者は装備や荷物、それに仲間を背負って行動することだって想定される。最初は軽くしといたヨ。ダイジョウブダイジョウブ」
クレアの訓練は壮絶を極めた。
容赦なくおれを攻め、実際に攻撃を当ててくる。
「どれぐらいのダメージで戦闘続行か、逃走するか判断できるようにもなってね」
基本的に骨が折れて無ければ続行。
逃走と言ってもクレアは獣人だ。
隠れてもすぐ索敵される。
限界まで身体を酷使させられる。
「もうだめだ……動けない」
「よし、じゃあ重しを取っていいよ」
「ああ……」
「はい、立って。訓練を再開します」
「えぇ!!」
最終手段で荷を捨てて行動することを想定した訓練。
重しを取っても身体は限界だ。
「限界は自己防衛本能からくる感覚だ。でもその限界を無視して動かないと死ぬ場面があるのが冒険者。訓練で出来ないことは実戦でもできないぞ!!」
「ひぃぃ……」
「ホラホラ、ガンバレ! がんばったらご褒美にぎゅっとしてあげるよ」
「いよっしゃぁぁ!! やったらぁぁぁ!!!」
◇
二日目以降も(地獄の)特訓は続いた。
一回目はひたすらミスを指摘され、おれの動きを実戦向きに矯正された。
とにかく、おれが格上と優位に戦うには『デジャブ』で先を読むしかない。
しかしその隙を作るには別の作戦がいる。
そして先を読んで反撃を決めるには戦闘経験が足りない。
二回目は重しを付けて限界まで戦わされ、重しを取ってさらに追い込まれた。
最初のころはただ必死に食らい付いていった。
なんども斧でぶっ飛ばされ気を失った。
二回目になると気を失っても『トゥワイス』は起きないと判明した。
それからは遠慮なしだ。
「いや、色男さん。私と踊りませんか?」
「ヨロコンデ」
水をぶっかけられ強制的に起こされた。
「たくさん食べる男の人って気持ちがいいね」
「お、おかわり‥‥‥」
食べても胃が受け付けないが、それでもとにかく食わされた。
変化は一週間ほどで現れた。
と言ってもおれにとっては二週間。
重しを取った後なら避けるだけでなく、反撃も可能になっていた。
回避成功後、相手は次の攻撃を繰り出そうとする。
だからそれを止める、早く小さい攻撃を当てるようにした。
ダメージを与えるのではなく、隙をつくる攻撃の前の攻撃だ。
隙を作ったら『デジャブ』を使う。
相手がどう攻撃してくるのか、それをどう掻い潜り、反撃するか。
理想は二回連続発動。
最適と思える動きをして潰される記憶を得た。
それを元に戦略を立てる。
最適な動きに対応された相手の動きに対応する。
『デジャブ』無しでも相手の動きを読むことで攻撃決定率が大きく上がる。
フェイントを駆使し、斧の攻撃を掻い潜り、組み付いた。
「おぉ~」
「よ、よし!!」
「抱き着いてくれるのはうれしいんだけどね」
「ぐぅあああ」
絞められた。
「ここまできたら押し倒してくれないと」
「はい‥‥‥」
接近出来た後の攻撃もまだまだだ。
「うん、無駄な動きがだいぶ無くなったね。判断も早くなったし、全体的に身体能力も上がった。スキルのタイミングも上手くなったよ」
「はい! ありがとうございます!!」
訓練のおかげですっかり関係性が出来上がってしまった。
クレアは彼女というより先生だ。
「ガンバレ、合格したらご褒美にデートしてあげるから」
「よっしゃぁぁぁ!!!」




