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貴美江の秘密  作者: 宏巳
8/11

交点

遂に小平は死んだ。

昨晩六本木の料亭で酒を煽るように飲み、帰り道に電車が通る歩道橋から落ちたらしい。

終電間際の深夜急行が彼を轢き、朝方の今でも現場は目も当てられない状態になっている。

他の被害者と唯一違うのはあれだけ悲惨な死に方をしているのに安らかな顔をしていたことだ。


新堂と時任は遺体の前で手を合わせた。

課長は血走った目で怒り狂った。

「ついに政治家にまで手を出すとは!榎本を緊急指名手配しろ!」

遂にあの絶世の美女の顔が全国のあらゆるところに貼り出された。


忽然と姿を消した貴美江が怪しいとツチノコを探すように日本全国の誰もが謎の女を探した。

だがあのブームのせいで貴美江に似た女が誤って次々と捕まり、捜査はさらに困難を極めた。


新堂は今まで引っかかっていたことがあり時任に話した。

「やっぱり村に行くよ。もう一度調べなきゃいけないことがあるんだ」

その足で機関車に揺られながら一路、遠畑村に向かった。

東北の夏の終りは早く、まだ盆が明けて間もないがひんやりとした風が吹いていた。

「あれから随分ここに来てないけど、何も変わってないな」

遠畑駅で降りた彼はおんぼろの小さな改札を出て、約束の時間に少し早く来てしまったのでそこらを歩くことにした。

目が痛くなるほど深緑の山奥のテレビすらないしんとした村で、ただ蜩が遠くで鳴き煙草屋の風鈴が寂しく鳴った。

「久しぶりにわかばでも吸おうか」

新堂は煙草屋でわかばを一箱買い、一服した。

深く吐き出した煙が夏の空に溶けていく様をぼんやり眺めた。

まだ舗装されていない地面で蟻の行列が蝉の死骸を運び、上空では鳶が弧を描いている。


新堂はこの村で唯一の高校に足を運んだ。

夏休みなのに生徒が部活の練習をして賑わっていた。

門の前で小柄な中年女性が立っていた。

彼は軽く会釈をした。

「元中先生、御無沙汰しております。お元気そうで何よりです」

「あらお巡りさん、貴方も元気そうでよかったわ」

元中とは富子の元担任で現在はこの高校の校長をしている。

彼女に案内され、木造の校舎の軋む廊下を進んでいった。

廊下ではトランペットで吹くカノンが響き渡っていた。


校長室で元中は新堂にお茶を出した。

「あれから顔を見なくなってどうしたかと思ってたところよ」

「いやぁ、県警本部に異動になりましてね・・何の報告もなくすみません」

「いいのよ。ところで今日は何のご用かしら」

新堂は熱いお茶を一口飲んだ。

そして例のモンタージュを元中に見せた。

「ところで、この顔に見覚えはありませんか?」

その顔を見るなり彼女はひどく驚いた。

「あら、これ貴美江ちゃんじゃない。古河 貴美江」

「えっ・・」

「やっぱりラジオで言ってた貴美江ってあの子のことだったのね。昔から美人で有名だったもの」

新堂は冷や汗を垂らした。

「彼女とはどんな繋がりで・・」

「富子ちゃんのクラスメートよ」

元中はアルバムを取出し、写真を指差した。

髪形こそ変わってはいるが、それは紛れもなく貴美江だった。

(古河 貴美江・・ついに繋がった!)

新堂はわなわなと震えた。

「あの事件から全然学校に来なくなっちゃって・・でも生きててよかったわ」

「貴美江についてもっと教えてください!」

そして彼は元中に事細かに教えてもらった。

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