微かな可能性
ここは捜査一課。課長の前で新堂は今までのことを報告した。
「なに!蜘蛛女に会っただと」
課長は持っていた書類を握り潰した。
「なんのことだ?」
「ほら、あの女ですよ。時さんの行きつけで会った・・」
「しまった・・あの女か!あのとき捕まえておけば」
彼の隣にいた時任は地団太を踏んだ。
「まぁ、あのとき気づいたとしても証拠がないからどうしようもなかったですよ。これからどうします?」
係長は緊張感のない二人のやりとりにとうとう痺れを切らせた。
「無論、榎本 富子を見つけ次第任意同行しろ!」
「はい!」
二人は敬礼をした。
二人は資料室に行き、十三年前に起こった例の殺人事件の資料を探した。
時任は重たいバインダーを取り出したり仕舞ったりした。
「何で課長に言わなかった。あの榎本って女、十三年前の事件の被害者かもしれないんだろ?」
一ページもれなく読みながら新堂は応えた。
「・・そうは言っても当時の榎本の顔と似ても似つかないんだ。いろんな可能性はあるが、あの事件の関係者であることは間違いない」
新堂は器用にページをめくった。
「確かここらへんだったな・・あった!」
「どれだ?」
時任は顔を寄せたので、白黒の写真に指差した。
「これが榎本 富子だ」
彼は酷く驚いた。そう、今目にしている女はあの男を弄んだ蜘蛛女の美貌の欠片もない醜女だったのだ。
「嘘だろ?仏さんには申し訳ないが、こりゃ別人だな。彼女の訳がない」
「仏さん、顔のことでずっといじめられていたそうだ。美醜なんか皮を剥がせばみんな一緒なのにな」
新堂は物憂さそうに呟きながら写真の彼女の顔をなぞった。
「何か言ったか?」
「・・なんでもない」
時任は暗くなっている彼の肩を叩いた。
「俺が思うに、今回の事件はどうやらお前が言っていたように十三年前の事件が絡んでいる。本部の中でそれを誰よりも知っているのは新堂、お前だけだ。時効は過ぎてもあの事件はまだ終わっちゃいないんだよ!」
「時さん・・」
「榎本の浮かばれぬ思いを救ってやろうじゃないか。俺も協力するぜ」
二人は固い握手をした。
その頃、貴美江はホテルで一人、牛革のソファーにマスクをしたまま裸で腰かけ、遠くを眺めていた。
「なんでこうなっちまったのかね・・」
シャワーから上がったままの濡れた髪は乱れ、蒸れた背中には真珠水晶のような水滴がしたり落ちソファーを生々しく湿らせた。
するとチャイムが鳴った。
「いいわよ。お入り」
ぴくりとも動かず気怠そうに応えた。
ドアを開けたのはあの小平だった。




