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貴美江の秘密  作者: 宏巳
3/11

東京タワーにて

ここは東京タワー。

師走の平日にもかかわらず観光客でいっぱいだった。

それもいつもとは趣が異なり、例のマジシャンが今日の白昼に手品をすると態々手紙を送ってきたからさあ大変。


「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

タワーの窓越しに大勢の観客が見守る中、女マジシャンが赤い鉄骨の上をするりと宙返りしてみたりバレリーナの真似をしてみたりと曲芸を披露した。

「貴美江さん!素敵!」

応援の団扇を持ったファンが叫んだ。


あの事件以来、貴美江のもとにテレビや雑誌の出演依頼が殺到し、もはやテレビで見ない日はないほどの引っ張りだこになっていた。

言うまでもなく彼女に憧れた者も少なくなく、全国の女子学生の間で貴美江ブームがやってきた。

猫も杓子もあの黒髪のウェーブを真似て誇らしげに街中を歩いている。


その頃、たまたま聞き込みで新宿を歩いている新堂と同僚の時任はその様子に驚いた。

「なんだ、あのへんてこな髪形は。まるで海藻じゃないか」

時任が通りがかりの女子高生に声掛け、それを聴いた。

新堂のところに帰ってきた彼は浮かない顔で言った。

「あれ、貴美江って女マジシャンの髪形だって。知らないの?ってバカにされちったよ」

「近頃ずっとあの会議室で缶詰だったからすっかり世間知らずになっちまったな」


すると小物屋のラジオから彼女の手品の中継が流れた。

「さてさて、東京タワーに予告状を叩きつけた貴美江さん。今回は250メートルの展望台の外から華やかなパフォーマンス。まるで仙女のようです」

それを聴いた新堂は目を丸くし、時任に言った。

「ここから東京タワーは近い。いまなら間に合いますよ行きましょう!」

「仕方ないな、少しだけだぞ」

二人は地下鉄に乗り、現場に向かった。


やはり展望台だけでは収まらず、東京タワーの下も黒山の人だかり。

貴美江の姿を一目拝みたいがため、新堂は隣で望遠鏡を覗いていたカップルからぶん取り、小さな物体に焦点を当て、拡大した。

「こ・・これは!」

マスクで顔は見えないが、滲み出る気品色気、しなやかに動く手足・・堪らず溜息が出た。

「こら、独り占めするな!」

時任も彼から取り上げ、覗いた。

「いいなあ・・この世にこんないい女いたんだな」

鼻の下を存分に伸ばして、のぼせてしまった。


一通り芸をした貴美江はにんまりとほほ笑んだ。

「さあ、皆様お待ちかね、奇想天外、テレポティションだよ」

彼女は身に纏っていたマントを翻し、またも一万円札をばら撒いた。

するとマントだけになり彼女の姿は消えてしまった。

タワーから数千枚の一万円と緋色のマントがはらはらと落ちてきた。


会場は騒然となり新堂たちはもみくちゃになった。

「なんだあれは!」

やっとのことで混乱から抜け出せた二人はぼろぼろになり、新宿のバーで呑みに行くことにした。


新宿の夜はどっぷり更けても幽霊の居場所が一ミリもないくらいに明々としており、ネオンの海を二人で酔いどれながら渡り歩いた。

「新堂さん、行きつけのいいところ知ってるから寄ってみましょうよ」

「おっ、いいですねぇ行きましょう」

いい具合に顔を真っ赤にした新堂は時任に連れられ場末のバーで三件目の晩酌にすることにした。


小奇麗なバーの雰囲気をぶち壊すように二人は同期の桜を声高に歌いながら店に入った。

「あら時ちゃん、いらっしゃい。今日はお友達と一緒なのね」

上物の着物を着こなしたやけに色っぽい中年女がカウンター越しにぽつりと立っていた。

「おうよ、こいつは同僚の新堂。そうだ、いつものおくれ」

二人は椅子に座り、時任はにやにやしてママの項を見ていた。

「ママさん、貴美江って知ってるかい?あのマジシャンの」

ママは二人にブラッディ―マリーを差出した。

「あら?知らないわ。近頃流行りに疎くってね」

二人は嬉しそうに顔を見合わせた。

「ほら、やっぱり俺たちだけじゃなかった。今日ね、その貴美江を見てきたんだ。まあその女が別嬪さんでよ、お釈迦さまみたいに輝いていらっしゃった」

時任はふざけて手を合わせた。

「ところが、ええと・・テレなんとかってやつ。それを使ってぱぁっと消えちまったんだよ」

新堂の隣の席にいた女はきゃっきゃ笑った。

「何よそれ。面白いわね」

調子に乗った時任は有頂天になって話し続けた。

「ところでこの連れの人、やけに男前じゃない。名前はなんていうの?」

女は時任の話にうとうとしている新堂の背中を撫でた。

「おいおい、俺じゃないのか。こいつは新堂 亮太。俺の同僚」

「へぇ・・」

女はやけに色っぽい目で彼の寝顔を舐めるように覗いた。

「やめろよ。こいつは同棲している彼女がいるんだ。いくらお前さんが綺麗でもこいつは靡かねぇよ」

彼女はぽつりと呟いた。

「・・余計気になっちゃう」


彼女は時任の話に朝方まで付き合い、ついに彼も話疲れてすっかり眠ってしまった。

「あらあら、どうしましょう。時ちゃんはお家わかるから連れて帰れるけど・・」

困ったママに女は応えた。

「その人は私が適当なビジネスホテルに連れてくよ。大丈夫、何もしないからさ」

「そう?じゃあお願いするわ」

女は意識がまだ朦朧としている新堂を連れて外に出た。

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