4人と鈴 『パーティドレス騒動』
スターライト事務所の社長が主催するクリスマスパーティは、毎年十二月末の忙しい時期に行われる。
もちろん年末年始の特別番組の収録は十一月から始まっていて、十二月に行われることといったらカウントダウンライブの調整だとか、生放送の音楽番組の打ち合わせだとか、そういうものが中心になってくる。だがそれによって忙しさが緩和するかといったらそんなことは全然ない。お付き合いのある他業界の進行によってスケジュールが決まって来るし、年末年始休業の会社なんかもあるわけで確認を怠れば予定が狂いに狂うし、つまるところこの時期は普通に忙しい。
だがクリスマスやら忘年会やら納会やらは普通に企画される。まるでそれに命を賭けている者でもいるかのように。社内規模ならまだいいが、クリスマスパーティというものは誰に向けるわけでもない見栄を張って、著名人を募り盛大に行われる。事務所所属の者はほぼ全員参加である。
パーティは社長の自宅に何故かあるでかいホールで行われ、ステージで事務所所属のタレントたちがパフォーマンスする時間もあったりする。業界の方々が来るので顔見せの意味もあるんだろう。華々しい会になること間違いない。行けるだけで羨ましがられるものだ。
だが。――悩める女子一人。
「はぁ……どうしよう」
鈴はため息をついて、25日に印をつけた卓上カレンダーを見つめた。スターライト事務所に雇われているデザイナー兼スタイリストだ。男性四人組のアイドルグループ『KISSME』専属であり、クリスマスパーティに参加することが決まっている。
去年は『KISSME』新年コンサートの調整の騒動に巻き込まれて不参加だった。一昨年は『KISSME』衣装準備に力を入れ過ぎて風邪を引いて休んだ。
今年が初めてのクリスマスパーティ参加なのだ。パーティといえばドレスコード。いつもの仕事用服セット――カットソーショーパン黒タイツ、が使えない。
衣装担当の端くれとしてこだわりがなさすぎる感はあるが、現場でも動きやすいかつ汚れても構わないベストな格好だ。そもそも自分の服を省みるくらいなら少しでも四人のことを考えていたいと思っている。だが、流石に人目のあるところで下手な格好をして、あんなダサい衣装担当者がいるなんて、と噂にでもなったなら、四人の仕事にも影響が出るかもしれない。それはいけない。
「でもどんな服着てったら浮かないんだろう……。二渡は忙しくて連絡がつかないし、園山さんには会えなかったし……はぁ」
「ため息ついて、どうしたの? 鈴ちゃん」
「鈴ちー、頭でも痛いの?」
頭を抱えて机に蹲ったところへ、ぽんと肩を叩かれた。振り返ると、スタイルのいい男と可愛らしい顔の男の子が並んで立っていた。二人とも、心配そうな顔をしている。
「シオンさん! 美有貴くん!」
「悩みがあるなら聞こうか?」
「一人で抱え込んでるより、話してスッキリしたほうがいいよ!」
女性なら誰でもうっとりするようなシオンの笑顔と、美有貴の無邪気な笑顔に励まされ、さっきまでの憂鬱な気持ちがどこかへ吹き飛んでいくような気がした。女性としてちょっとだけはずかしかったけれど、鈴は勇気を持ってうちあけることにした。
「ありがとうございます。あのう、じつは……」
「し、シオンさん……っ、やっぱり恥ずかしいです! む、無理です。これはっ……!」
「無理じゃないよ。鈴ちゃんに、とーっても似合うと思うな。オレの言うことが信じられない?」
「そ、そんなことないですけど……」
「じゃあ、諦めて着る着る。この後ヘアサロンの予約もしてるからね。時間無いよー? 予定詰まってるよ」
「うえっ!? いつの間に!?」
シオンにほとんど脅迫されて、鈴は片手に持ったそれに視線を落とし、ぐぅっと喉を鳴らした。シオンチョイスのセクシードレスである。頭の中で自分に着せかえただけで頭が痛くなってくる。自分で選んだ無難なコンサバ風ドレスと、美有貴チョイスのキュートなドレスも控えている。
これから試着だ。たぶん満場一致で無難ドレスになるに違いないと踏んでいるのだが、もし意見が割れた場合鈴には二人を説得できる気がしない。というかざっくり胸元と脇腹が開いているドレスはもうまず試着後を見せるのすら恥ずかしいわけで、ぜひとも辞退したい。
鈴は困った挙句に美有貴の顔色を伺った。けれども返って来るのは笑顔とこんな一言だった。
「鈴ちー、大丈夫だよ! ぼくも鈴ちーが可愛くなるの見たいな! 孝ちゃんと秦っちももうすぐ来るからさ。めいっぱいカワイクなって、どどーんと、驚かしてやろーよ!」
「えっ!? 孝司くんと宗佐くんもくるんですか!? いつの間にそんな!?」
ますます逃げ場が無くなって、人数が増えたタイミングでドレスを晒すよりは、今シオンと美有貴二人だけに晒すほうがまだマシなんじゃないかと鈴は焦った。
「き、き、着て来ます!」
「はい、行ってらっしゃい」
「わーい、たのしみ! やったねシオくん」
慌ただしく試着室に籠り、店員さんに手助けしてもらいながら精一杯急いでドレスを着用した。自分で見た印象としては、完全に服に着られている。身長が低くて、手足がさほど長いとはいえない微妙なスタイルの自分にはやっぱりセクシーなものは似合わないのだろう。
「あのう、シオンさん。着替えたんですが、やっぱり……」
「鈴。着替えたの、見せて」
「え、うわ!?」
「宗佐!? てめ何開けてんだよバカか!」
顔だけを出してどうにか説得しようとしたところを、がばーっと開けられてしまい、鈴は硬直した。シオンと美有貴がいると思ったところには、宗佐と孝司が立っている。
「あ、あ……えーと、ちゃんと着てんのか、ビビったっつの。つか、そのドレ」
「鈴、ドレス似合ってる。綺麗」
「あ、ありがとうございます。そんなあの、いいんですよ。体型的にこれは本当に無謀だったというか着る気はなかったというかシオンさんがですね」
孝司の言葉が終わらないまま、宗佐が割り込んで褒めちぎってきた。見せる気はなかったし、見せたとしてもがっかりさせるだろうと思っていたしで、鈴は真っ赤になってあわてて否定する。
入り損ねた孝司抜きで「似合ってるよ」「そんなことないです」の言い合いが始まったところで、シオンと美有貴が新たなドレスを持ってやってきた。
「鈴ちーかわいい! なんか、どきどきするよー」
「ああ。やっぱりいいね。これで髪の毛を上げてたらとってもいいと思うよ」
「きゃっ」
手に持っていたドレスを宗佐に預け、シオンがすっと鈴の背後に回り、うなじを晒すように髪の毛を持ちあげた。
「てめ、こら! シオン勝手に触んじゃねえよ」
「勝手にって、何? お前に許可取る必要はないよね」
「す……こいつが悲鳴上げてんじゃねえかよ」
「ああ、びっくりさせてごめん。イメージを掴みたかったから。触る前に一言掛けるべきだったね」
「あ、いえ、その……。だ、大丈夫です」
孝司とシオンに前後を阻まれ、胸元を押さえつつ鈴は小さくなった。どうしてこうなった。もうさっさと着替えをして何ごともなく帰りたい気分である。
「鈴ちー、次はぼくの選んだドレス着てね! それからこれも! いっぱい選んで来ちゃった。いつもぼくたちが着せてもらう番だけど、立場が逆だね。楽しいなーえへへ」
「み、美有貴くん……」
「ぜーったいぜーったいかわいいよ! ね!」
キラキラした目で見つめられて、小首を傾げられて頼まれては、もはや鈴には打つ手がない。鈴は甘えと押しに弱いのである。このまま四人の気が済むまで、マネキンと化すのだった。
そんなわけで、とっかえひっかえ様々なドレスを試着させられた結果、最終的に何を購入したのか、鈴はさっぱり覚えていなかった。
最終的には四択のなかから鈴が選ぶことになったような気がぼんやりする。よくもまあ一着に決められたものだと思う。肌の露出はできるだけ少なくだが足は出せという孝司の意見と、セクシーなものがいいに決まっている大人っぽさを出して以降というシオンの意見と、すべすべなものがいいという宗佐の謎のオーダーと、お姫様なら可愛いのがいちばんだという美有貴の主張。四者四様のチョイスだった。
願わくば、選んだドレスなのだから無事パーティで着れればいいなと思った。現段階では、仕事だの体調不良だので不参加になる可能性もなきにしもあらずな訳である。
四人を巻きこんでおいて、披露できないなんて笑い話にもならないのだから。




