表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/68

【お見舞い編】美有貴×鈴 『おくすり味のりんご』

「わ、すごい。おいしそうです!」

「えへへ、そうでしょー? ぼくも手伝ったんだよー」


 ベッドの上でぱちぱちと手を叩いて喜ぶ鈴に、美有貴はふふーんと胸を張る。


 鈴が絶賛したのは、コンソメベースの卵がゆと、デザートのすりおろしりんごという簡単な料理だ。

 一流料理人なら褒められるまでもない簡単レシピだが、美有貴は嬉しかった。褒められるのは大好きだ。例えそれが自分だけの手柄でなくても。むしろ、一人だけ褒められるより、みんなと一緒に作ったものを褒められるほうが好きかも知れない。

 風邪をひいた彼女のために、宗佐がレシピを探し、シオンがそれを再現し、孝司と美有貴が手伝った。みんなで作ったとは言いづらい気もしないでもないが、細かいところに目をつむれば、何も問題はない。


 鈴は一口食べてひとしきり褒めちぎったあと、ゆっくりと味わって食べていた。おいしそうに顔を綻ばせる鈴を見ていると、美有貴も自然と笑顔になった。


「ぼく、鈴ちーの食べてるところ見るの好きだな。すごくおいしそーにたべるよね」

「はい! おいしいですから。自分の家で自分以外の人が作ったものを食べるのも久しぶりです。待っているだけであたたかい料理が出てくるって、懐かしい感覚です」

「自分以外? それって、鈴ちーのお姉ちゃんがいたとき以来ってこと?」

「うーん。そうかも。家に来るのって、家族以外は二渡とか高校の友人だけですから」


 美有貴はテーブルに腕をつき、ふーん、と相槌を打った。十六歳で、いまだに実家暮らしの美有貴には、一人暮らしの感情は理解できなかった。


「お姉ちゃんかぁ。お姉ちゃんって、どんな感じ? ぼく兄弟いないから、わかんないんだよね」


 鈴は口元を手で隠して口の中に頬張ったものをもぐもぐと咀嚼しながら、考えるように首を傾げた。


「そうですねえ。うちの姉限定かもしれないですけど、わたしで遊ぶんですよ。妹だからって何してもいいとか思ってるんでしょうね、きっと」


 皮肉の籠った言い回しだが、言葉の端々には親しい人に対する親愛の情がはっきりと表れていて、一人っ子の美有貴が興味をそそられるに充分だった。


「例えば例えば?」

「子どもの頃はファッションショーを真似してよく遊ばれてました」

「すっごー。ぼくたちにしてるみたいなかんじ? おねーさんがモデル一号だ?」

「それが、わたしも姉も着せる方が好きなんで、わたしが着せられる方だったんですよ。あれ着て、この靴履いて、この鞄持って、ポーズ取ってって、すごく遊ばれてました。今でも買い物行く時、姉はわたしのものばかり選んでますよ」


 そのほかにも、幼少期に積み木でお店屋さんごっこをしていたら姉のお城建設に巻き込まれたとか、かくれんぼをしていたら姉は友人たちとおままごとしていたとか、中学時代に勝手に姉が制服を借りようとしてサイズが合わなくて喧嘩をしたとか、姉妹関係の思い出話は大量にあるようだ。

 鈴の姉は、神奈川県に引っ越したが、都内にあるアパレルメーカー本社で通販業務をしているという。子どもはまだいないが、マンションを購入したことから出産・子育ても視野に入れているのだろう、と鈴が教えてくれた。

 幼少期の話や兄弟の話を聞いていると、羨ましいなと思う反面、けして自分は手に入れられないものだなという諦念で、美有貴は寂しい気持ちになった。


「いいなあ、楽しそう。ぼくも、兄弟欲しかったな」

「そうですか?」

「うん。ぼく、おぼえてないくらい、ゲーノーカイにいたからさ。お知り合いのおねーさんとかおにーちゃんとかは多かったけど、みんな大人だったんだよ」


 十にも満たない頃は遊ぶのが仕事だった。自分の生活が皆とは違うってことだけ、漠然と理解していた。『普通の家庭』を演じさせられる上で、アニメやマンガや小説に触れ合う中で、あるいはインターネットで他人の生活を覗きこむ中で、美有貴は理解してきた。

 いつしか仕事というものが分かって来て、美有貴は『子役』ではなく『アイドル』になった。幼少期のスタンスと比べると基本的には変わっていないように見えるが、金銭が絡んでいることを知っているのといないのとではやはり根本的に意識が違う。喜んでもらおうという意識が強くなり、自分から望んで仕事をしている。


「子どもの頃にすっごい嬉しかったことがあってさ。それがね、風邪ひいたときだったの」

「美有貴くん……」

「えへへ。そんな顔しないでよ。だって、鈴ちーもあるでしょ? 風邪ひいて学校行けなくて、お昼の番組見れるのが嬉しいみたいな感じ。同じだよー。風邪ひいたら、おしごと……っていうか、そういう考えあったか忘れちゃったけど、とにかくスタジオとか稽古場とか、おにーちゃんおねーさんのいるトコに行かないの。ベッドに寝てても怒られなくてさ、隣にずっとお母さんがいてくれてさ。わくわくどきどきだったよ」


 美有貴には風邪を引くことにネガティブなイメージはない。たしかに身体は辛いし、医者の診察と注射は苦手だったけれど、喜びのほうが大きかった。

 だから誰よりも早く、鈴のお見舞いに行きたい、と提案したのかもしれない。風邪を引いた時に隣にいるのが普通だから。隣に居てくれるのが風邪を引いた人間にとってどれだけ嬉しいか知っているから。


「すりおろしりんご食べるんだけど、そこに薬入れてみたりしてね。すっごい怒られちった」

「えっ、りんごに直接混ぜたんですか!?」

「うん。くすりの味がぼくすきなの。子どもの頃はカプセルじゃなくて粉末だったからー、こしょうとか、しおとか、さとうとかいれる感じ? 味付けチックなアレ、アレ」

「調味料扱いってことですね……! おそろしい」

「そうそれ、ちょーみりょー。えへへ。変でしょ」


 美有貴はすりおろしりんごの器と、薬の個包装を一緒に差し出した。「掛けてみる?」とおどけてみたが、「遠慮しておきます」ときっぱり断られてしまった。

 「ぶーっ」と不満をアピールすべく唇を突き出したら、鈴も同じような顔をしていたので、お互いに笑ってしまった。


「鈴ちーが風邪ひいたら、これからぼくが、絶対ぜーったい、お見舞いにくるからね。一緒にすりおろしりんごたべよー? ね?」


 ひとしきり笑った後、びしっと宣言すると、鈴がびっくりしたように目を丸くした。


「絶対? 毎回?」

「絶対! 毎回!」

「じゃあ、わたしは風邪引かないように体調管理しっかりしないといけないですね」

「えーっ! なんでだよー。いっしょにりんご食べようよ!」

「それ、美有貴くんも風邪ひいてませんか?」


 おかしそうに、ぷっと吹きだした鈴の顔が、とても嬉しそうだったので、美有貴も嬉しくてたまらなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ