【お見舞い編2】4人 『彼らの本気』
「風邪の時にグッドな食べ物。食べやすいもの。消化しやすいもの。エネルギーになりやすいもの。抗ウィルスのために身体を温めるもの。だって」
「こっちには、なによりも生姜やネギって書いてある」
本日の仕事も無事に終了し、シオンが運転する車で四人は平良に聞いた鈴の家へ向かっている。孝司が助手席に、後部座席にはスマホとガラケーで風邪にいい食べ物を検索中の美有貴と宗佐が座っている。
「あ、あるよね。喉にネギ巻けってやつ。えっと、ミカン治療? なんだっけ、おばーちゃんのちえぶくろみたいな感じのやつ」
「もしかして:民間療法」
「そうそうそれそれ。ミカンリョウホウ。お見舞いのシーンでよくあるのはー、リンゴを剥くシーンだよね。あとはタマゴスープ、おかゆ、うどんでしょー? はちみつレモンにゆず湯にー」
「身体を冷やしたり、炎症を抑えたりするものは場合によってはNG……だって」
「フーン。なんかめんどくさいね。オールラウンダーのやつないのかな。サバゲーで言うと小回りが利いて発射性能がそこそこよくて、飛距離があって威力と射撃速度がいいかんじの銃。狭いトコでも開けたトコでも活躍できるよみたいな、初弾当たればとりあえず打ち負けないって感じの優等生のやつ」
「……探してみる」
美有貴の例えに一瞬考えるように無言になってから、宗佐はカチカチカチとおそろしいスピードでガラケーを操作し出した。
二人の噛み合ってるようないないような会話が止まり、孝司は疲れたようにため息をついた。
「宗佐は今ので例え分かんのかよ。意味分かんねえんだけど。っつか、風邪にいい食べモンってそんなにあんのか? どれ買えばいいかわかんねえじゃねえか」
「孝は風邪にいいもの何だと思ってたわけ?」
「しらね。ビタミンCじゃね? おれが風邪ひいたら、ラーメン食ってグレープフルーツジュースガブ飲みして薬飲んで寝てる。すぐ治るし」
「ラーメンってお前……。まあ、小麦粉だからエネルギーにはなるのかな。鈴ちゃんには絶対試させないからね」
「わーってるよ。うっせーな。聞くから答えただけだろ」
シオンにきっぱりと否定され、孝司は心外だと口元を歪めた。孝司だって風邪で寝込む彼女に勧めたくて自分なりの風邪の治し方を口にしたわけではないのだ。
「……オールラウンダーの食べ物、よくわからなかった」
「んー。そっか。ないのかもね! ねえねえ、どーする? 孝ちゃんとシオくんはどー思う?」
「全部買っちゃえばいいんじゃない? 大抵のものならスーパー行けば揃うでしょ」
「あー? スーパーってどこにあるんだよ」
「え、なにそれどういうこと? どこにでもあるでしょ。都心だって駅の近くに必ずあるよ」
「しらね」
「孝はいつもどんな食生活してるわけ……? あ、答えなくていい。なんかすごく聞きたくない」
シオンは思わず前方から助手席にちらと目をやったが、孝司は真剣な顔をしていた。まさかスーパーに行ったことがないんだろうか。普通にあり得そうだ。
親元にいた時は親が作ってくれただろうし、一人暮らしをしてからは仕事漬けの毎日。きっと外食ばかりしてるに違いない。健康と美容に悪そうで、シオンとしては許し難い行為だ。
「んだよ、料理なんて撮影でしかやったことねーって言っただろ」
「孝ちゃん、ぼくと同じだー。ぼくも、撮影と、あと家庭科の授業でちょっとやるくらい」
「え、嘘。ああ、そうか。お前らそういうやつだったっけね……。だから番組で料理する機会少ないんだよ? わかる? 宗は、たしか器用にできてた記憶があるんだけど」
「あ? 宗佐もそんな出来ねえだろ」
「ううん。俺は、十年は、自炊してる」
「えー、すっごーい、秦っち」
「ホラ見ろ。お前らとは違うんだよ」
「なに!? 自炊!? マジかよ。どうせカップ麺くらいだろ?」
「得意料理は焼き肉丼とソーセージエッグ丼」
「すっげー! なんかちょーうまそう! ぼく食べてみたーい」
「そうだな、うまそうだな。今度おれにも食わして」
「……あれ? これオレが鈴ちゃん家で料理担当になるしかないってこと?」
味方だと思っていた人間はどうやら敵だったらしい。孤立無援の状況をシオンは嘆いた。
いや、料理初心者ほど何をするか分からないやつらはいない。ご飯をとぐときに洗剤を入れる可能性があるのだから、鈴の命を守るためには自分が取り仕切るしかないのだ。




