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宗佐×鈴 『檻』

「わあっ!?」


 視野の外から手のひら大の何かが飛んできて、鈴は思わず隣にいた宗佐の腕を掴んだ。


「鈴。大丈夫だよ。猿だ」


 猿、といっても体長が8センチ程度の手乗り猿だ。身軽に宗佐の腕に飛び移り、頭の上まで駆けあがっていく。正体がはっきりした鈴は、ほっとして宗佐から離れた。


「ああ、びっくりしました。かわいいですねえ」


 小猿が満足そうにチチチっと鳴いた。宗佐の頭を自分の縄張りに決めたらしい。がっしりと頭部にしがみついている。

 慌てたブリーダーがやってきて、小猿を引き取った。しきりに頭を下げる責任者だったが、宗佐は少しも気にしたところはない。


「俺、慣れてるんで。大丈夫です」

「犬とか飼っていらっしゃったんですか?」

「……いや。小さい子どもが、頭によく乗ってくるから」

「は、はあ。確かにありますよね。座っている時とかに、膝によじ登られたり。ははは」

「うん。立ってても、気づいたら腕にぶら下がってる。人間アスレチックなんだ、俺」

「そうですか。今日の収録は大丈夫そうですねえ」


 ブリーダーと宗佐の会話は、成立しているようないないような、微妙なところだ。ブリーダーは早々に話を切り上げて帰っていった。

 今日は動物番組の収録に来ている。動物の生態に関する簡単なクイズであったり、スタジオで実際に動物と触れ合う番組である。舞台の告知が目的であるため、宗佐一人のゲスト出演だ。


「宗佐くん。衣装直しますね」


 直すといってもパーカーにTシャツというラフな格好だから宗佐に指示を出せば事足りるのだが、鈴は生真面目に背伸びまでして後ろから前まで自分の手で行う。

 宗佐は鈴の頭頂部が視界の端でちょこまかするのをじっと見つめた。


「あの猿。可愛かった?」

「はい。小さい身体をしきりに動かしていて可愛かったですよー」

「うん。それがかわいい」

「ですよね! がしって宗佐くんにつかまってましたよー」

「はなれてくのが、寂しかった」

「あはは。もう一回触れ合いに行きますか? お願いすれば遊ばせてもらえそうです」


 宗佐は曖昧に返事をしておいた。動物全般を好きだとか嫌いだとか考えたことはあまりない。もし動物にとって頼る人間が自分しかいないとなれば世話をしてやるだろうが、それ以外では宗佐は積極的に関わろうとはしないだろう。

 宗佐は小猿のことなんか、これっぽっちもかわいいなんて思っていない。宗佐のために猿の行き先をきょろきょろと探している鈴のほうがかわいいと思っている。


「あ」


 鈴は先ほどのブリーダーが小猿を檻に入れているのを見つけた。ハムスターのゲージよりも一回り大きく、頑丈そうだ。毛布やクッション、木の枝なんかが入っている。


「あんなにかわいいのに、飼うならやっぱり檻が必要なんですね。さっきみたいに逃げてしまうこともありますし、危険に晒さないようにしているんでしょうけど、ちょっとかわいそうです」

「危険な生きものを檻に入れるほうが、いい?」

「うーん。そうですね。ライオンとか、トラとか、すぐ傍にいたらこわいですから……」

「じゃあ、俺も入ったほうがいいかもしれない」

「えっ? ああ、お肉が好きだからですか?」

「うーん、肉食だっていうのもあるけど。俺、獰猛だから」

「えー、獰猛なんかじゃないですよ。マイペース癒し系じゃないですか」

「……」


 宗佐は頷かなかった。

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