シオン×鈴 『奥』
シオンが一人楽屋に戻ると、鈴が床に膝をついて備品の棚の下を覗きこんでいた。
「鈴ちゃん? どうしたの」
「シオンさん。お疲れさまです。実は……ネックレスのトップが転がっていってしまって」
鈴は棚と床の隙間に手を入れ、ぐっと肩がひっかかるくらいめいっぱい腕を伸ばしてみせた。
「う、うーん……! あ、あとちょっと、で、届きそうなんですけど……っ、うぅっ、ん……!」
せいいっぱい伸ばしているせいか、鈴の顔が苦しそうに歪み、ほんのり赤らんできた。足がぴんと伸び腰が揺れる。Tシャツで四つん這いのポーズでは、余計に身体のラインがわかってしまう。
シオンははあ、とため息をついた。無防備かつ、見られているという意識がなさすぎる。
衣装デザイナー、という他人に見られるものを仕事にしているくせに、鈴は自分のこととなると無頓着なところがある。Tシャツとショートパンツ、レギンスといういつも変わり映えのない服装をしているのもそのひとつだ。きっと頭の中はシオンも含めKISSMEメンバーの衣装のことでいっぱいで、自分を見つめる余裕がないのだろう。
「ごめん、鈴ちゃん。オレがやるよ」
「え」
シオンがすぐ傍に片膝をついたので、鈴は慌てて身体を起こした。
シオンは靴べらの湾曲した部分を上側にして差しこんだ。彼の腕は鈴よりも長いが、太すぎて棚の下に入りこめないから、確かに道具を使うのは理にかなっている。
「すみません、シオンさん。ありがとうございます」
「うん。ちょっと待っててね。取れるから」
シオンの動きに合わせて彼のブラウンの髪がさらさらと流れ、華やかな香水がほのかに香る。鈴は傍に座ったまま、ぼんやりと彼の横顔を見ていた。
「はい。これでいいんだよね」
靴べらで引き寄せたものをつまみ、手のひらに載せてシオンが差しだしてくれる。その上には確かに鈴の落としたネックレスのトップ――真珠があった。球形だったから奥まで転がっていってしまったのだ。
「ありがとうございます!」
「鈴ちゃん、きっと高いところに置いたもの取ろうとしても椅子とか使わないでしょ。ひとつのことに集中して周りが見えなくなっちゃうタイプ」
「う、は、はい……」
「そして一人暮らしね」
「え? あれっ、お話ししましたっけ?」
「自分一人で解決しようとしたでしょ。オレがいたんだから、頼ってほしかったな」
シオンの手はまるで食虫花のように、近寄って来た鈴の手を掴む。捕らわれた鈴はびくりと肩を震わせて彼を見た。
シオンの表情は穏やかだ。なのに、なぜだか誘惑する花の美しさと甘い香りが鈴を不安にさせる。
「オレなら。きみの足りないところを補える」
「シオンさん……、あの、それって」
「どういう意味か、なんて考えなくていいよ。そのままの言葉を覚えててくれればいい」
余裕たっぷりに笑い、シオンは鈴の手に真珠をぎゅっと握りこませる。手の甲を指先でくすぐるように撫でて離れていく。




