4人と鈴 『ゲームのこと』
「げっ、毒った。美有貴、解毒」
「ええ!? 孝ちゃんさっきから毒りすぎでしょ!」
「宗、こういうのどうすんのが正解なの? なんかオレの攻撃効いてないよね?」
「シオは……そのまま距離とって攻撃と回復補助。俺がこいつの弱点部位露出させるまで待って」
「了解」
失礼します、と言ってKISSMEの楽屋に入ると、四人が何やら盛り上がっている。四人の手元を見れば、携帯用のゲーム機だ。カチャカチャ……と、激しくボタンの連打音がする。
「おはようございます。みなさん、何をやってるんですか?」
「んっ? あ、おはよう、鈴ちー! ゲームだよ」
「おはよう、鈴ちゃん。みーくんと宗が前やってたゲームを四人でやってるんだ」
「……はよ。おいっ、おれ回復間に合わねえっ」
「おはよう。鈴。……孝司、下がってて、俺フォローするから」
四人それぞれ一瞬顔を上げて律儀に挨拶してくれる。
普段からゲームをやっている宗佐と美有貴が、慣れていないらしい孝司とシオンに逐一指示を出している。真剣な様子の四人に、鈴は声も掛けられない。少し離れた椅子に座り、しばらく見学していることにする。
四人それぞれが戦闘をしているわけではなく、四人が協力して何かと戦っているようだ。「早い!」「うぜぇ!」「当たらないね」とか言っているところを見ると、なかなかすばしっこく小さい敵のようだ。
「やった!」
「ああ、よかったね。意外と早く終わるもんなんだ」
「はー……終わったか」
「うん」
五分も経たないくらいだろうか。四人がそれぞれにため息をついた。充実感にあふれている美有貴と、疲労感いっぱいの孝司との違いがおかしい。
「お疲れ様でした。あのー、お仕事の……」
「あー、悪かったな。待たせて」
「ホントだよ。ごめんね、鈴ちゃん。放置しちゃって」
「あはは、大丈夫ですよ。そんなに忙しいゲームなんですか?」
「そう。始めると、なかなか手が離せない」
「マルチプレイ超楽しいんだよ~。鈴ちーも今度一緒にやらない?」
「えー、わたし、アクションは……。あ! このゲーム知ってます、CMで見ました。武器とか防具とかの組み合わせがすごくあるんですよね。色も自由に決めれたりって」
「うん、そうそう。『職業』ってのがあってさー、その職業に合った武器が選べるの」
面白いよ、と美有貴はゲーム機を鈴に渡した。他の三人も、それぞれ画面を差し出してくれた。
「ぼくはモンク。僧侶と格闘家の上位職だよ。装備はナックル。ごいーんってやったり、敵の隙を見て仲間のサポやんのがかっこいいんだ~」
美有貴のキャラクターは、細身の少年だ。黄色い髪に褐色の肌をしていて、釣り目で生意気そうな顔をしている。美有貴のイメージとは少し違うが、マスコットのような可愛らしさがあるところは似ているだろうか。
ざっくりと胸元が開いた軽装備で、スタッズのようなものがついたグローブをはめている。
「オレはガンナーで二丁拳銃。二丁とかって、純粋に憧れだからね。現実的に考えて反動を押さえるの難しそうな大きな銃も二丁で撃てるからいいね」
シオンのキャラクターは、尖った耳、白い肌、鼻が高く睫毛が長い、絵に書いたような美青年。ファンタジー作品でよく見る『エルフ』だ。
ナポレオンふうの軍服スタイルで、細身に白のベストがよく似合っている。フリンジの肩章の色は金だ。両腕に抱えているのは、砲身の長い大きな銃ふたつ。種類は鈴にはわからなかった。
「おれはサムライで刀装備。初心者用だって美有貴と宗佐が言うから」
孝司のキャラクターは、黒髪の青年。ベーシックな、特徴的なところのない日本人寄りの顔つきだ。あまりキャラクター制作に時間を掛けなかったのかもしれない。
装備は古き良き鎧。簡略化されていて、全体的にやや細い印象を受ける。渋い色合いの表面に、質感たっぷりの鈍い光沢がある。エンジ色の鞘を腰に提げている。
「俺はバトルマスター。両手剣とバトルアックスメイン。近接重量武器全般で、攻撃力が一番高い。削り担当」
ラストは、重量級ボクサーのようなゴツイ宗佐のキャラクターだ。目つきの悪い、極悪人のような顔をしている。
金属製の胸当てと腰蓑だけをつけ、筋肉の盛り上がった肉体を晒している。キャラクターの図体からはみ出すほどの、巨大な斧と剣を背負っている。
「はぁー……いろいろあるんですねぇ」
同じゲームをしていても、それぞれの色が出るものなのだなあ、と鈴は思った。小さなことでも好みや性格の違いを発見できて、なんだか嬉しい。
「他にもいろいろあってねー」
感心している鈴に気をよくしたのか、美有貴がどこからともなく、説明書と攻略本とビジュアルブックを取り出してくる。
ぱらぱらと一ページずつ指差して解説され、たまに宗佐の追加説明も受けて、へえと頷いているだけだった鈴は、あるページで「わあ」と声をあげた。
「この職業の服、カッコイイ。聖者っていうんですか? すごい、再現できないかなぁー。この女の子の服もかわいい」
「やっぱり服に食いつくんだねえ。さすが鈴ちゃん」
「職業病ですかねー」
「再現とかできるかぁ? これ構造どーなってんだよ」
「ゲームやアニメなんかの衣装って、再現不能なかっこよさがありますよね。シオンさんも、銃の反動が、って話をしていましたけど。重要なのは見た目に映えるかどうかってことなんでしょうか。現実にはない表現方法が可能な分、制限もありそうですね。CGグラフィックにしたときに簡略化可能かどうか、とか、使用できる色数とか。面白そうです。二次元ならではの服みたいなのもデザインしてみたいかも」
ぽつり、と鈴が言った言葉に、四人ははっとしたような顔をする。
「いや、ダメだ。お前の仕事はなんだよ。おれらの衣装を作ることだろ」
「きみはオレたちの専属でしょう? 他のことを考えるなんて、嫉妬しちゃうな」
「俺、鈴の服じゃないと嫌だ」
「やだ! 鈴ちーはどこにも行っちゃダメ! 絶対ダメ!」
「えっ!? あ、すみません、ありがとうございます。これからも頑張ります」
自分の仕事が認められているのは幸せだなあ、と鈴は思った。




