4人と鈴 『落下物』
「ぶっ!?」
急ブレーキがかかって、突然鈍い衝撃が立てつづけに鈴の頭を襲った。
「鈴ちゃん!?」
「おい、大丈夫かよ」
「は、はい……なんとか……」
シオンと孝司の声に、鈴はくらくらする頭を抱えながらこたえた。
鈴の座席に一番近い孝司が、落下物を拾っている。それらは保存版の大判マンガやら文庫の小説本やら――ジャンルもサイズもバラバラな大量の本だった。
なぜこんなに大量の本がバスの荷棚に置いてあったのか、と鈴は思った。
現在、KISSMEメンバーと、鈴も含めたスタッフ陣はライブ会場から空港までの貸し切りバスに乗っていた。鈴の雪崩はかなりの音を発生させたが、鈴の近くに座っていた孝司とシオン以外は寝ていて気づいていないようだ。風紀の鬼・チーフマネージャーの岡部でさえ、アイマスクをして熟睡しているらしい。
「おい、美有貴、宗佐。お前らのじゃねーの、これ」
「えっ? なにー? 孝ちゃんどーしたの」
孝司はバスの最後部座席でイヤホン装備で携帯ゲームをしている宗佐と美有貴に声をかけた。
ぱっと顔を上げた二人は、「これ」と孝司が掲げた本を見て、首をひねる。
「落ちてきたんだよ、こいつのとこに」
「ええ!? 鈴ちー、大丈夫?」
バスが次に停車したところで、美有貴と宗佐が鈴、孝司、シオンの近くにやってきた。
「あはは……ちょっと痛かったです」
「痛いのか。俺が代わってやれればいいのに」
「ほんとだよー。ぼくも代わってあげたいっ」
宗佐はシオンの隣に座り、後ろから手を伸ばして鈴の頭を大きな手で撫でてきた。
美有貴は鈴の隣に座って、ぎゅーっと手を握った。
「宗、みーくん。どうしてこんなところに本を置いてるのさ。トランクに入れなよ」
「うわ、シオくん。怒らないでよーう。だって、読みたくなるかもしれないじゃん」
「んなもん持ってくんなっつーの」
「持って来たのは、みーでも俺でもない」
「え? じゃあこれ誰のなんです?」
ツアー遠征中に大量の本を持ちこむ人間なんて、宗佐と美有貴以外にいただろうか。鈴が不思議そうに尋ねると、ニコッと美有貴が笑った。
「オカさんのだよ!」
「……岡部チーフ?」
思いもよらない名前を出され、鈴はびっくりして目を瞬かせた。KISSMEのチーフマネージャーである岡部は、他人にも自分にも厳しいで有名な人である。楽しみたいがためにゲームを山ほど持ちこむ誰かとは違うはずなのだが。
「うん、なんかね、ドラマ化するものとか、映画化するものとか、話題の本とかをごっそりもらってきたとかってー」
「ああ、なるほど。岡部チーフらしいですね! さすがです」
ぱちぱちと手を叩いて感心する鈴に、「お前な……」と孝司は顔をしかめた。そのさすがな岡部のせいで、頭に本が降ってきたことは、もう鈴の頭の中にはなくなってしまったらしい。
美有貴も、だからぼくのせいじゃないよね、と言わんばかりにニコニコしている。話が逸れる前に「ちょっと待て」、と孝司は制止を掛けた。
「おい。持ちこんだのはオカさんでも、この荷物棚に置いたのはお前なんだよな、美有貴」
「うっ! き、気づいちゃった?」
「お前なぁ……」
孝司は、ぺろっと舌を出したいたずらっ子の頭を小突いた。
「何もなかったからよかったけど。今後は気をつけなよ、みーくん。宗も、ちゃんと監視しといてよ、こいつ」
「うん、わかった」
シオンが注意しているのを聞いて、さすが年長者だと鈴は思った。――が。
「ところでこれエロ本じゃない、宗。見てこれ」
「俺に聞かれても困る。知らない」
「えっ!? エロ本!? どれっ!? 見たい見たい!」
「えろっ!? 美有貴くんは見ちゃだめです! シオンさんっ、自分だけで見てください!」
「鈴ちゃん……オレならいいってどういうことなの」
「そのまんまの意味だろ」
「何か言った? 孝」
「ああ……これは……デカい」
「何がっ!? 秦っち何がデカいの!?」
「宗佐くんー、早く隠してぇー! 青少年の教育に悪いですからぁあ!」
「うーわーん、見たいよぉー!」
目覚めた鬼チーフの雷が落ちる5秒前。




