4人と鈴 『昨夜のこと』
大きなあくびをしながら食堂に入った宗佐は、そこに小柄な女性を見つけた。
「鈴」
「宗佐くん。おはようございます。よく眠れましたか?」
「ううん」
「えっ? 寝てないんですか?」
「美有貴とシオンが……」
「おっはよー! 鈴ちー!」
「おはよう、鈴ちゃん」
どすっと宗佐の背中に衝撃があった。美有貴が飛び乗ってきたのだ。
シオンは自然に鈴の隣に移動して微笑んでいる。
「お二人とも。おはようございます。あの、昨日何かあったんですか?」
「あー、なに? 聞いちゃった?」
「いえ、宗佐くんが寝てないって……」
「話そうとしたらお前らが来た」
「じゃあじゃあぼくが話してあげるーっ!」
はいはーい! と手を上げて美有貴が声を張り上げる。耳元で声を張られて宗佐は顔をしかめたが、美有貴には通用しないだろう。放っておく。
今日は福岡で行われる『KISSME』のライブ2日目である。KISSMEメンバーとともにスタッフ陣も同じ旅館に泊まっていた。ちなみにKISSMEの部屋割は、飲酒組である宗佐とシオン、未成年組である孝司と美有貴に分かれている。
美有貴の話は、昨夜、宗佐とシオンが部屋でビールを飲んでいるところに、美有貴がやってきたところから始まる――
「秦っち! シオくん! ぼく今日ここに泊まるっっ!!!」
「ぐっ!?」
「どうしたの、みーくん」
うわーん、と涙目で宗佐にタックルをかました美有貴に、シオンが心配そうに尋ねた。
「孝ちゃんが、孝ちゃんが、すっげーこわい話するんだよぉおおお!」
「……は?」
「こわい話?」
シオンと宗佐は互いに顔を見合わせた。なんで孝司がそんなことを? と不思議に思ったのだ。
「ぼくと孝ちゃんが部屋の中探検してたらさ」
「いやいやなんで探検するの」
「楽しいからじゃないか?」
「マジか、オレの感性がおかしいの?」
「二人とも聞いて! 掛け軸の裏とさぁ、額縁の裏とさぁ、エアコンの横にさぁ、お札があったんだ。こわくない!? こわくない!? そんで、孝ちゃんが、『そういえばこういう部屋にはな……』って言うんだよー! めっちゃこわくて、ダッシュで逃げてきたっ!」
「みー、まだこわい成分ないけど……」
「だからっ、おーふーだ!」
「いや……孝司のこわい話は」
「途中で逃げてきたから知らないもんっ」
ぴーぴー喚く美有貴に、何かを思いついたかのように、楽しそうにシオンが笑った。
「じゃあ本格的にこわい話をしてあげようか?」
「なんでえ!?」
「あるタクシードライバーから聞いた話なんだけどねぇー、ある夜、高速道路を……」
「ひいい!」
ぎゅうーっと宗佐にしがみついて、美有貴は目を瞑った。
そして夜は更け、空が白み、朝が来て――
「……ってかんじで、夜通しこわい話してたんだーっ」
「あれっ!? 美有貴くん、こわい話がニガテだって話じゃなかったんですか?」
「泊まる部屋のことじゃないなら大丈夫だったっぽーい」
ケロっとして言う美有貴に、鈴もシオンも宗佐も脱力する。
「でも、そういうことだったんですね」
「そういうこと?」
何か気になることでもあったのか、と宗佐が聞くと、実は、と鈴が笑って言う。
「昨夜、わたしの部屋に霧森さんが来て――」
「はっ!?」
「ええ!?」
「なんでっ!?」
「おはよう。どうしたんだ、集まって」
そこへ、首にタオルを掛けた孝司がやってきた。朝のランニングを終えて、朝食を摂りに来たのだ。
ぎっと三人が孝司を睨む。
「孝ちゃんの変態!」
「はぁっ!?」
「孝。ひどい男だね、おまえは」
「な!?」
「……夜這い?」
「なんの話だよっ」
三人に詰めよられて、孝司は瞼を瞬かせた。変態扱いされる覚えはないのに、三人の目は血走っている。
「美有貴くんが来てないかって聞かれただけ……なんですけど……。みなさん?」
あのー、と呼びかける鈴の声は、孝司を連行していく三人には聞こえてはいなかった。




