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4人と鈴 『下見』

「うわ、さむいねー」

「大丈夫ですか? コート取って来ましょうか」

「ああ、平気平気。マフラー持ってきたからね」


 はあと吐き出した息が白く染まる。

 シオンが腕を擦ると、鈴が心配そうに声を掛けた。薄着ではないが、シオンの着こなしは肌を多く見せることもあって、寒そうに見えたのだろう。ありがとね、と微笑む。


「鈴は、さむくない?」

「大丈夫ですよー、ありがとうございます。宗佐くん」

「うん。寒かったら言って」


 鈴が後ろからつんつんとつつかれて振り向くと、いつの間にか宗佐が隣に立っていた。ぬっと手が伸びてきて、そっと肩に触れた。たしかに宗佐の手は温かい。まさかとは思うが、宗佐のことだから、「人肌で温める」とか言い出しそうで、鈴は苦笑した。


「孝ちゃんあっちあっち! あっち行こう」

「ああ? あっちってどこだよ。つーか走んじゃねー、っぶねーだろーが」


 美有貴がはしゃぎながら走っていくのを、孝司が歩きで追いかけている。

 美有貴が心を惹かれているのはステージ上のようだ。「のぼっていいよね!」と言いながら、スタッフが返事をするよりも先に、よいしょっと、とのぼっている。


「おい、設営の邪魔すんなって」

「モーさんが今いいって言ったもーん」

「ダメだって言われてものぼってたろうが。ったく」


 孝司は口では注意しつつも、美有貴に倣ってステージにのぼった。宗佐とシオンに挟まれるようにして、鈴が座席の間を歩いているのが見える。

 今日はKISSMEのライブの前日、設営日だ。全員が前日入りしていたために、全体の流れをチェックするという名目で会場の下見をしているのだ。実際のところは、ただ美有貴が見に行きたいといってゴネただけの話なのだが。


「鈴ちー! 鈴ちー! こっちこっちー、こっちだよー」


 孝司の目線を追って、美有貴が鈴に手を振った。遠くで鈴も手を振り返してくれている。

 「孝ちゃん鈴ちー来るってー」と言われて、興味なさそうに「ああ」と返事をしたものの、心が浮つくのを感じて、孝司は顔を背けた。鈴をひっぱってきたのは、その場に彼女がいたからだ。それ以外の理由なんてない……。


「美有貴くん、どうしたんですか?」

「鈴ちーは、ステージの上のぼることあんまないでしょ」

「ええ、そうですね。裏にいますから」

「ねえねえ、じゃあ、今のぼって、こっちからの景色見てみないー?」


 美有貴に言われて、鈴は迷ったが、好奇心には勝てなかった。じゃあ少しだけ、と了承して、階段を探す。


「あれ? これどこからのぼるんですか?」

「あっち! でもジャンプでのぼってもいいよ。ぼくそーしたし」

「じゃ、ジャンプ……? ちょっとわたしには無理かなあ」


 自分の身体能力はちゃんと分かっている。鈴とほとんど身長の変わらない美有貴ができたことでも、鈴には絶対に出来ないだろう。


「鈴ちゃん、ほら、腕上げて」

「えっ?」


 シオンに後ろから囁かれ、びっくりした鈴はステージに手を掛けた状態で硬直してしまう。すると、腰にシオンの腕が回り、宗佐の手が背中に添えられた。


「きゃ! シ、シオンさん!? 宗佐くん!?」

「よい、っしょっと」


 腰と太ももを支点にして、ぐいっと持ちあげられた。暴れるわけにもいかず、シオンの肩に手を置いて、ぎゅっと目をつぶった。

 時間にしてはそう長くはなかっただろうが、自分の身体を自分で支えられないというのはおそろしい。すぐにどこかに下ろされたと分かっていても、しばらくこわくて身体が動かなかった。


「鈴ちゃん、大丈夫?」

「鈴」


 シオンと宗佐に呼びかけられて、おそるおそる目を開けた。ステージの上に乗せてもらったのだ。少し目線を下げたところにシオンと宗佐の顔がある。


「シオン。お前なぁ……回ってくりゃ済む話だろ、なんでそーなんだ」

「なんだよ、孝。羨ましいのか?」

「勝手に言ってろ」


 孝司が「大丈夫か」と手を伸ばしてくれた。ちょっと自分では立てそうになかったから、鈴はありがたく手を借りることにする。


「ありがとうございます、孝司くん」

「ああ。……お前、明日――」

「はい?」

「鈴ちー、見て!」


 孝司の言葉は、美有貴の声によってかき消された。鈴は詳しく聞きたそうにしていたが、孝司は二度は口にしなかった。

 お前、明日のライブ――、誰を見る?

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