4人と鈴 『アンケート』
「うー、うー、うー」
「美有貴くん……どうかしたんですか?」
頭を抱えてうーうー唸っている美有貴に、鈴は気の毒そうに声を掛けた。
「鈴ちー。もー難しいよぉ~、見てよぉ」
美有貴は泣きそうな顔になりながら、紙を鈴に向かって放り投げた。
慌てて受け取ってみれば、とある雑誌の取材前アンケートだ。これを元に取材が行われたり、書いたものがそのまま雑誌記事になったりする。アンケートひとつだって、気が抜けないのである。
「テーマは……『メンバーでもし家族をつくるとしたら、家族構成は?』ですか」
「ああ、やっぱりそれで迷ってるか……」
「難しい問題だ」
「『もしも女の子だったら、メンバーで彼氏にしたいのは?』も難しいけどね~」
鈴がアンケートを読んでいると、わらわらと孝司・宗佐・シオンも集まってきた。三人も、その問いだけ答えが出ていないらしい。
「『彼氏にしたいのは』ってすごい質問ですね。みなさんはどなたを選んだんですか?」
「え? それ聞いちゃう?」
シオンがものすごくイヤそうな顔をした。孝司もなんとなく顔を歪めている。
「はいっ! ぼくはねー、秦っちを選びました! 理由は、気が合って、たのしそーだから!」
「俺も、同じ理由で、みーのこと選んだ。気遣わなくていいし」
「なるほどー、そうですよねぇ、お二人とも仲いいですもんね。それで……あの……霧森さんとシオンさんは?」
「オレは、まあ、孝を」
「へえー……。あの、シオンさん? 自分で答えたんですよね? なんでそんなにイヤそうなんですか?」
「いや、始めは違ったの。『このメンバーの中にいるわけないじゃない、自分がいいよ』って言ったんだけど、それじゃダメって言われて。じゃあもう、選ぶ方法は消去法しかないよね」
「それで、霧森さんだったんですか」
「だって、女の子からしたら、みーくんみたいなカワイイ子と並んで歩きたくないし、宗は何考えてるかわかんなくて不安になりそーでしょう。鈴ちゃんはそう思わない? この二人は嫌だなーとかさ。そんなわけで、孝ならマジメだし、マシかなって」
「は……はあ……」
すっごく女の子の気持ちになって考えたんですね、とは鈴には言えなかった。
「それで、霧森さんは」
「……ノーコメント」
「あははー、オカさん命令でオレの名前書いとけってことになったらしいよ」
「えっ!? そんな命令いいんですか?」
「うーん。イイとは思わないけどねぇ。まぁ、イメージ戦略のひとつなんじゃない。オレの名前だけ書いてないと、男から見て良いトコ無いヤツっぽいし。気ぃ利かせてくれたんだと思う」
「災難だ」
「いーじゃない、相思相愛じゃない」
「うぜえ、死ね。なんでお前のこと『女の子なら大事にする奴だから』とか言わなきゃいけねぇんだ」
「それはお前が自分から書いたことでしょー? オレは知らないよ」
「絞り出した結果だっつーの」
「……あはは……」
舌戦を繰り広げる二人だが、いつものことながら、孝司が一方的にイジられているように見える。口のうまさからいって、孝司が圧倒的に不利なのだ。何度負けても、すぐカッとなってしまって戦いに挑んでしまう孝司には負けず嫌いの気質があるのかもしれない。
鈴も、宗佐も美有貴ももう慣れてしまって、二人の言い合いはもはやBGMに等しい。三人は頭を突き合わせて、改めて『家族問題』に取りかかることにした。
「それで、家族構成の話だけど。これって、別に四人がおんなし答えを出さなくってもいーんだよね」
「個人宛のだから、たぶん、そう」
「『お父さん』・『お母さん』・『お兄ちゃん』・『弟』が基本的な四人家族でしょうか。これにあてはめて考えてみて……」
「そーなるよね。でもさ、でもさ、もしぼくが、お父さんとしてひっぱってくぞっ、って思っても、奥さんをこの四人の中から選ばなきゃいけないんでしょ?」
「そ、そうなんじゃないですかね?」
「……やだな」
「ね! ぼくもやだもーん」
「ええ!? もしかしてそういう理由で決まらないんですか?」
「そーだよ。ぼく引っ張っていきたいもーん」
「美有貴くんなら、弟役を選ぶのかと思ったんですが」
ぶんぶんっと美有貴は頭を振った。
「ケンカする孝ちゃんとシオくんが兄弟で、秦っちがおじーちゃんってどうかなって思ったんだけど」
「おじーちゃん?」
「秦っちこわっ! ニラまないでよ。休日本読んでまったりしてるのが、ぼくのおじーちゃんみたいだなって思ったんだもん~」
「……なら、いい」
宗佐と美有貴のケンカは一瞬で鎮火した。未だにぎゃあぎゃあ騒いでいる二人とは大違いである。
「美有貴くんがそれでいいなら、いいんじゃないでしょうか? 岡部チーフに判断仰ぐのもいいと思います」
「はー。だよねー。フザけてんのかって怒られるかなぁ。フザけてないのになぁ~。ぶー」
「あはは……宗佐くんは?」
「これ」
「あ、えっと……なになに」
宗佐から渡されたアンケート用紙を読んでみると、『父:自分、母:空欄、子ども:孝司・美有貴、親戚のおじさん:シオン』とある。
「親戚のおじさんって……。宗のオレのイメージどうなってんの」
いつのまにか鈴の背後に立っていたシオンがそのアンケート用紙を覗きこみ、がっくりと肩を落とした。
「孝とみーにちょっかい出して、笑ってる感じ」
「あれ? いつものシオくんじゃない? シオくんって親戚のおじさんだったんだ」
「やめなさい、オレいじりはやめなさい」
「ええっと、ええっと……話を変えましょう。じゃあ、シオンさんの回答は、どんな感じなんですか?」
「オレ? んー、オレはね。オレ一人暮らし、隣の家の子どもたちが残り三人」
「それぜってー家族じゃねーだろ!! 家族崩壊にも程があるっつーの!」
シオンとの戦い(?)で疲弊し、息を切らしながらも、孝司が全力でツッコんだ。
「だってさあ、オレまだ家庭持ちたくないんだよね。好きな子とイチャイチャしてたいもん。子どもを持つのは、イチャイチャ期間をたっぷりとった後がいーんだよね」
「アンケートの主旨はそうじゃないような……」
「でも、わかる」
「秦っち分かっちゃうの!? ぼくは早く欲しいけどなー」
「子どもに取られるって、言うから」
「はっ! なるほど。うー、うー、そうか……難しいアンケートだなぁ……」
「少子化問題お前らが推進すんじゃねーよ」
「あはは……霧森さんは、どうですか? この回答」
「ああ? おれ? あー、いや、……全く書いてねえけど」
鈴に顔を向けられて、孝司はさり気なく目を逸らしアンケート用紙を隠した。
ちょうど目の前に孝司のアンケート用紙を突きつけられた宗佐がそれを盗み見ると、そこには『父:宗佐、母:シオン、子ども:自分・美有貴』とある。一番アンケートの主旨を捉えていて真面目な回答なのに、孝司が誤魔化したのは、単純に答えた自分が恥ずかしかったのだろうか。
「でも、美有貴くんや宗佐くん……というか、みなさん、相手役の方は空欄にしているんですね?」
ふと、不思議そうに鈴が聞いたので、四人はきょとんとした顔になる。
「いや、だってそれは……」
「ぼくはかわいーお嫁さんが欲しいからだよ~! メンバーとか、もしも話でも、やっぱヤなんだもん!」
「うん、俺もそう思う」
「オレだってねえ、誰でもいいわけじゃないんだよ」
元気に美有貴が宣言し、それに宗佐とシオンが同意する。孝司は言いたいことを全部言われた形になって、ぐっと押し黙った。
「へえ、そうなんですか。みなさん、いい相手の方が見つかればいいですねえ」
四人ががっかりしたのを鈴は知らない。
それどころか、みんな理想があるんだなあ、と能天気なことを思っていた。




