宗佐と美有貴 『コスプレ』
美有貴の格好を見て宗佐はぶっと吹きだして笑った。
「みー、似合う」
「まーね。似合うからこそ、用意されてんだもん。見てて見てて」
美有貴はくるくると回って一度ジャンプしてからばっと腕組みをしてポーズをとる。声変わりしても高いままの声をさらにわざと高くして、『ブラック・フォース!』と叫び、木の棒の先端を宗佐にびしっと突き付けた。
もちろん、そこから激しい閃光が放たれることも、全てを飲み込むブラックホールが出現することもない。
「もー、秦っち、今のは食らってくれなきゃ。ウワァアアとか言って」
「ははははは」
身体の線を隠すローブを羽織り、生足に半ズボンとブーツを履いた美有貴の姿は、男装の美少女魔道士という設定で、勇者と一緒に旅をしているヒロインキャラを完璧に再現している。男装とはいえ男が女キャラのコスプレをしているというのに、違和感はほとんどない。美有貴の小柄な体型かつユニセックスな見た目もあって、似合うのだ。
「秦っちもポーズ決めてみてよ」
美有貴に言われ、宗佐はパイプイスから立ちあがった。上半身裸に禍々しい黒と藍の鎧をつけ、床すれすれまで長いマントを羽織っている。右腕だけの異形の肌を再現しているのは特殊メイクだ。見るからに妖しいその姿は、もちろん味方キャラではなく敵キャラのコスプレである。なぜ勇者でないのかは誰にもわからない。用意されていたのだから仕方がない。
宗佐はマントを翻し、異形の腕で魔道士の胸元に掴みかかる。ローブを掴まれるすんでのところで、美有貴はバックステップで回避する。
「ちょちょちょ、タンマタンマ。皺できちゃう」
「あ。ごめん」
「秦っちはキャラに入っちゃうからなぁー仕方ないけどさぁー。気をつけてよね。アレって原作の3巻のシーンだよね、腕だけで持ち上げるやつ」
「うん。あれが、印象的だったから、つい」
「つい、でやんないでよー、本番でやるならまだいーけどさー」
このコスプレはただの趣味ではなく、もちろん仕事である。二人がMCを務めるCS放送のアニメチャンネルのナビゲート番組での、一クールに一度のお遊び企画だ。二人がそのクールイチオシのアニメ作品のコスプレをして番組進行をするというだけなのだが、『KISSME』のファンのみならず、アニメファンにもなかなかウケがいい。衣装の再現度が高いのと、二人が大盛り上がりでロールプレイをするからかもしれない。もちろん、批判もあるのだが。
「せっかく鈴ちーに作ってもらった衣装がダイナシになるとこだったじゃん」
「それは、そうだな。悪かった。鈴……いないから、なおせないし」
「てか、破いたりしたら、鈴ちー悲しむもん。ぼくそんなのヤダ」
宗佐は美有貴の言葉に、衣装をデザインし制作した彼女の顔を思い浮かべる。いつも楽しそうに仕事をしている彼女は、いつもあたたかく微笑んで宗佐たちを支えてくれている。
「俺も嫌だな。あのひとは……笑ってるほうがいい」
「ね。ぼくもそー思う。カワイーもんね!」
「うん」
「ちょーがんばろーね。がんばって、そんで破れたら、笑って許してくれるだろーし」
彼女がこの現場に来ないのは残念だが、オンエアを見てくれるのは確実だ。彼女が胸を張っていい仕事をしたと言えるように、二人は今自分にできることをやるのだ。
「俺が、鈴を笑わせる」
「違うもん、ぼくが先」
「先でもいいけど。俺のほうを、より好きになってもらうから」
「やーだ。ぼくだよ。いくら秦っちでも譲れない」
宗佐が彼女を愛おしく思うように、美有貴もまた彼女のことが好きだ。二人がともに何かを気に入るのは初めてのことではないが、争わずにいられたのは、マンガやアニメや音楽といった共有できるものだったからだ。今回ばかりは争わずにはいられないだろう。恋人になれるのはどちらかひとりだからだ。
「女装」
「変態」
「変態じゃないだろ、魔界の貴公子だぞ」
「魔界の貴公子(笑)でしょ。(笑)重要だよ。てゆーか、ぼくだって女装じゃないもん、男装してる女の子なんだから、男装してるぼくはフツーだもん」
「はっ、どう見ても女装だから」
「じゃー貴公子(笑)は上半身裸の露出狂で変態だもん。ロリコンだし!」
「キャラクターの設定は俺には関係がない」
園山マネージャーに二人が怒られるまで、そう時間は掛からなかった。




