コートの洗礼(中盤)
「よっしゃ、それじゃあ3本先取のシートノックから行くばい! 1年は如月兄弟、コート入りんしゃい!」
鳴海コーチのハツラツとした声が体育館に響き、煉と裂はそれぞれのポジションへと散った。ユニフォームに着替えた二人は、やはりどこか目を引くオーラを放っている。
セッター定位置に入った煉は、精密機械のように指先を軽くすり合わせ、リベロの位置に構えた裂は、獲物を狙う野獣のように腰を低く落とした。
ネットの向こう側から、3年の裏エース・皇凱が放った鋭いスパイクがコートの隅を襲う。
「オラァッ!」
野生児の如き反射神経で、裂の身体が床を滑った。
ズドン、と重い音が体育館に木霊する。通常のレシーバーなら弾かれてしまうような強烈な回転がかかった打球だったが、裂の腕に当たったボールは、驚くほど滑らかな軌道を描いてセッター定位置へと跳ね上がった。
(……なんちゅう反応速度や。しかも球の威力を完全に殺しとう)
ベンチで見守る長谷部陸がゴクリと息を呑む。
だが、驚愕はそれだけで終わらなかった。そのわずかにブレた弾道を、如月煉は一歩も動かずに、まるで空間ごとボールを静止させたかのような柔らかい指先で捉えたのだ。
「キャプテン、いけ」
煉の冷徹な声と同時に、バックトスが放たれる。ネット際、鬼塚が最高点へと跳び上がるその寸前、ボールはまるでそこに最初から待っていたかのように、鬼塚の右手の平へと吸い込まれていった。
ドガァッ!!
鬼塚の放った豪快な大砲が相手コートの床をぶち抜き、激しい炸裂音が体育館に響き渡る。
誰もが息を呑むような、完璧な1本。3年生の先輩たちですら「うわ、今のトスえぐいな……」とざわめき立った、その刹那だった。
「おい、裂! なんね今のレシーブは! 左右のブレはなかったばってん、高さがコンマ数秒足りん! 俺がほんの少し右足を引いて合わせんといかんかったろうが!」
煉が鋭い眼光でリベロの弟を睨みつける。すると、裂もカッと顔を真っ赤にしてネット際まで突っ込んできた。
「なんば言いよるとや煉! あれだけの変化球を、一発でセッターの頭上に返したっちゃぞ! お前がその自慢のへなちょこ指先で、もっと優しくアジャストすればいいだけの話っちゃろが!」
「俺の指先にへなちょこっち言うな! お前のレシーブの球の回転が甘いけん、こっちはミリ単位の修正を強いられとうとや!」
「ミリ単位とか細かくてキモいっちゃんね! もっと『ドンッ』と上げて『バァン』と上げろ!」
「擬音で喋るな野生児が!」
コートの真ん中で、胸ぐらを掴み合わんばかりに福岡弁で怒鳴り合いを始める双子。せっかくの超一流のプレーが、一瞬でただの泥沼の兄弟喧嘩へと変貌していく。
「あーあ、入る前からあんなに派手に割れとるなんて、聞いてなかばい……」
2年の控えセッター、小鳥遊紡が額を押さえて天を仰ぐ。1年生の神楽坂や駆、骸、弦の4人も、あまりの騒々しさに引き気味で二人を見つめていた。
「はいはいはい! そこまでにしときんしゃい!」
険悪な空気の中、3年の九条栄治がタッタッタッと軽い足取りで二人の間に割り込んだ。いつも通りの柔和な笑顔で、二人の肩をぽんぽんと叩く。
「二人とも、プレーは満点ばってん、喧嘩は赤点ばい。ほら、ボールまだ回っとうよ? 鬼塚キャプテンの顔、見てみんしゃい」
九条に言われて双子がハッとネットの向こうを見ると、そこには引きつった笑顔で拳をバキバキと鳴らしている「鬼隊長」の姿があった。
「お前ら……、俺の最高点のスパイクより、喧嘩の方が熱量高いとはどういうことや、あぁン?」
「「すんまっせん……っ!」」
九条の笑顔の仲裁と、鬼塚の圧倒的な威圧感の前に、先ほどまで吠え合っていた煉と裂は、バッと気まずそうに距離を取ってそれぞれのポジションへと戻っていった。




