コートの洗礼(前半)
重い鉄扉をくぐり、九条に促されるまま体育館へと一歩足を踏み入れた如月煉と裂は、その広さと、床から立ち上るワックスと汗の匂いに一瞬だけ視線を泳がせた。
すでにコートの脇には、彼らと同じ墨ヶ丘高校の制服を着た4人の新入生が、緊張した面持ちで一列に並んでいる。
「お、如月。やっと来たばい」
一番端でそわそわと足を動かしていた刹那駆が、双子の姿を見つけて嬉しそうに声を上げた。中学時代からその俊足で名を馳せていた駆は、チームのムードメーカーらしく、双子の険悪な空気など意に介していない。
その隣では、外面の良さそうな笑みを浮かべつつも、鋭い視線で双子の体格を値踏みしている神楽坂宗太。
さらに、1年で最も高い体躯を誇る御堂骸が、不気味なほどマイペースな無表情で突っ立っており、その影に隠れるように、冷徹なポーカーフェイスを崩さない氷室弦が静かにノートを胸に抱えていた。
これで、今年の男子バレー部に入部する1年生、計6名が揃った。
「おう、外で随分と賑やかにやりよったな」
体育館の奥から地を這うような太い声が響き、ネットの前に腕を組んで立っていた男がゆっくりと歩み寄ってきた。
主将であり、チームの絶対的エースでもある3年の鬼塚錬成だ。その圧倒的な体躯と、鋭い「鬼隊長」のオーラに、先ほどまで軽口を叩こうとしていた駆の身体がピキリと強張る。
鬼塚は煉と裂の前に立つと、2人の手からシワシワになった入部届をひったくるように受け取った。
「如月煉に、如月裂か。中学界隈じゃあ『伝説の双子の再来』っち、随分ともてはやされとったらしいね」
鬼塚の三白眼が、じろりと双子を射抜く。完璧主義の煉は小さく顎を引いてその視線を受け止め、野生児の裂は負けじと鋭い眼光を返した。不敵に口元を歪めた鬼塚は、入部届をマネージャーの七瀬瑠璃へと放り投げる。
「バカ言え。ウチは周りから『過去の栄光、モノクロの王者』っち揶揄されとう古豪やぞ。そんな夢みたいな幻影に縋っとる余裕はなか」
(……モノクロの、王者)
煉の胸の奥で、その言葉が静かに跳ねた。
「お前らがどんだけ天才だろうが知らん。ウチのコートに立つなら、名前負けせんだけの泥臭さを見せてもらうばい。九条、鳴海コーチ。さっそくこいつらのメッキを剥ぎ取ってやって」
鬼塚の豪快な発破に、隣にいた副主将の逢坂巧が
「また最初から飛ばすねぇ、キャプテンは」
とドSな笑みを浮かべる。
九条が
「はいはい、それじゃあ着替えてコートに集まってー」
と手を叩くと、体育館の空気は一気に戦闘モードへと切り替わった。




