第6話 ゾーゴミーツガール
貴族学校。
前庭のテラス。緑あふれる前庭にテーブルが並べられ、丈の高い帽子を着たコック達が、慇懃に貴族達に給仕をする。
テーブルの上にケーキと紅茶を挟み、ゾーゴとダチネルが座っている。
ゾーゴが懐からスライムの核を取り出しダチネルに手渡す。
ゾーゴが言う。
「これ、なんだと思う」
「宝石だろ?」
「違う。スライムの核だ」
ダチネルはしげしげとスライムの核を見る。そして言う。
「はじめて見た」
「きれいだろ?かなり質が良い品らしい」
「まさに宝石だな。アズ姫へのプレゼントか?」
「いや、これは自分の宝物にする。戦利品なんだ」
「戦利品?」
「そう。戦利品」
ダチネルからスライムの核を受け取り、ゾーゴは太陽にかざす。きれいだ。思わず笑顔がこぼれる。
そこに、一人の女が近寄ってきた。
白衣を着た女。
「ええと、失礼。それはスライムの核じゃないですか?」
ゾーゴが女を見る。
「…アズ?」
「アズ?いえ、私はリズです。リズベル・アルテナ。魔法学科の研究員です」
背格好、髪型、そして目元がアズに似ていた。
ゾーゴは赤面する。
「失礼。俺はゾーゴ・フォン・ムラタリア。こちらはダチベル・フォン・ケイミルト。ふたりとも統治学部の学生だ」
「ゾーゴ様?…ええと、恐れ入りますが、そちらのスライムの核を見せていただけませんか?」
ゾーゴは言われたとおりに、スライムの核をリズに渡す。
渡す時に手が少し触れた。蔵五が恥ずかしそうな表情になる。
リズは気にせず、スライムの核を確認する。
感心して、言う。
「すごいですね。これだけの品質のスライムの核は見たことがありません」
「そ、そうか?」
「はい。一切の劣化が見られませんね。あと、この透明度はまだ新しく、MPに満ちている証拠。徐々にMPは失われ、ただの石ころに変わっていきますが…ゾーゴ様、よろしければこちらを譲っていただけませんか?研究に使いたいのですが」
ゾーゴは赤くなり、答える。
「いいよ。リズにあげよう」
「え?いえ、無償という訳にはいきません。研究室の予算から正当な対価を支払います」
「金には困っていないんだ」
言って、しまった、と思う。
裕福であることを鼻にかけいると思われたのではないか。
慌てて付け加える。
「いや、金の問題じゃない。魔法学科の研究の役に立てるなら、同じ学徒として無償で譲る事もやぶさかではない。学術の発展に寄与することは俺としても嬉しい。つまり、そういう事だ」
「なるほど…では、ありがたく頂戴します」
リズが深々と頭を下げだ。
はにかみながらゾーゴが言う。
「リズ、よかったら、またスライムの核を手に入れようか?」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ」
「では、遠慮なく頂戴します。私はたいてい研究室に詰めておりますので、いつでもお呼びください」
リズが一礼してその場を立ち去った。
やりとりを呆然と見ていたダチネルが、我に返って言う。
「いいことだぞ」
「…何がだよ」
「アズ姫以外の女に興味を持ったんだろ?母離れ、姉離れの時期が来たんだ」
「よせよ」
ゾーゴがしかめっ面になる。
しかし、妙に頭と体がフワフワとしていた。
翌朝。
ギルドのテーブル席で、シャルロットとイネコがゾーゴ待ちで待機している。
シャルロットが言う。
「どや、イネコ。MPは回復したか?」
「うん。バッチリ!シャルは大丈夫?」
「なんとかな。ファイアーはやっぱり燃費が悪いわ。結局、3日間もゴロゴロする羽目になった。あ、マスター串焼きと黒パンちょうだーい」
「私は肉煮込みと黒パンとポテトスープと白チーズと…」
「ようさん食うなぁ」
「ゾーゴ様のおごりだもんね。食いだめしておかないと」
シャルロットがニヤリと笑う。
「ええカモを見つけたよなー。ありゃあ、金持ちの貴族の坊ちゃんに違いあらへんで」
イネコがキョトンとして言う。
「うん。貴族だよ」
「え?イネコは知っとるんか?」
「うん。貴族学校の魔法学科じゃあ、有名だもん。MPがすごいのに魔法が使えない、無能のゾーゴ様」
「無能の…?ちょっ、シー!」
シャルロットはイネコの口を押さえて周囲を見渡す。
「あかんあかん。誰が聞いとるか分からへん。金ヅルの悪口は下手に口に出したらアカンのや。誰かに告げ口されて嫌われたら、メシが食えなくなる」
「え?それは困るよ」
「なら黙っとけ…ていうか、ゾーゴ様がなぁ。そんな陰口叩かれとるんか。ふーん」
シャルロットが腕を組んでウンウンと頷く。
イネコが首をかしげて言う。
「シャル、なんかうれしいの?」
「そやで。うれしいんや。いやな、ゾーゴ様はいけ好かん金持ちのボンボンとしか思うてなかったけど…そっか。当たり前やけど、あの坊ちゃんにも悩みはあるんやなぁ。なんか親近感が湧いてきたわ」
「ふーん?」
そして運ばれてきた料理を食べ始める。
そこにゾーゴがやってくる。
満面の笑顔である。
シャルは慌てて立ち上がり、ゾーゴの為に椅子を引く。
「いやぁ坊ちゃん。お待ちしておりましたで。げへへ」
「うん。俺も楽しみにしていた」
「ほんまでっか!気が合いますなぁ。マスター!こっちの色男に空のコップを持ってきてんかー。さあ、今日は過去最高に濃いシャルロット汁を絞り出したんでー。坊ちゃんを、シャルロット汁でないと満足できん体に改造したるでー」
ゾーゴが慌ててそれを止める。
「いや、シャルロット汁はまだいい」
「へ?」
「後で、水筒に2つ汁を入れてくれ」
「女やな!また女やな!女なんやな」
「ふふふ。男ではない」
「ちゅうことは、女なんやな!しかも2つ!もしかして、女は2人なんか?」
「ふふふ。ひとりではない」
「うひょー!2人なんやな!じゃあ3人か?3人でやるんか?坊ちゃんは3人でやるんか?」
「え?やる?」
ゾーゴがモジモジしだす。
「アズとリズと俺の3人でやる…ニチャア。オホン。3人で何をやると言うんだ。シャル、言ってみなさい。ふふふ」
シャルが冷静に答える。
「え?そりゃお茶会やろ?」
「あれ?」
「え?」
「…」
「坊ちゃん?もしかしてエロい想像しとった?」
「…」
「…」
「…」
しばらく気まずい沈黙がふたりの間に滞留した。
その間も、イネコは無心に料理を貪り食う。
やがてゾーゴとシャルロットは全てをなかった事にする。
「さて坊ちゃん。今日の目的はどないでっか?やっぱりスライム?」
「うん。スライムの核を集める事にする」
「よっしゃあ!坊ちゃんの作戦で、イネコ汁がスライム殺しって判明したからなー。楽勝やでー」
「うんうん。その通り」
そしてゾーゴはイネコの方を見る。
「イネコ、腹いっぱい食え。今日は活躍を期待しているぞ」
「いいの!?やったー!マスター、デザートを持ってきてー」




