第5話 スライム討伐
ゾーゴ、シャルロット、イネコの3人は草原を歩く。
青い空、一面の緑。心地よい風が吹いている。
スライムを発見するのは比較的簡単だ。
地面を注意深く見て草が倒れていれば、そこがスライムの通った跡である。あとはそれを辿れば、ダラダラ前進するスライムに追いつく事ができる。
ゾーゴが地面に座ってぼんやりしていると、遠くから声が聞こえる。
「ゾーゴ様ー。スライムがおったでー」
「連れてきたよー」
見ると、シャルロットとイネコがこちらにのんびり歩いてくる。
後ろにはスライム。人の背丈ほどもある、粘体の塊。もぞもぞとうごめきながら、ゆっくりとふたりを追いかけてきている。
やがて、シャルロットとイネコがゾーゴの近くにくる。ゾーゴは立ち上がり、シャルロット達と並んで歩きだす。
三人をスライムがもぞもぞと追いかける形になった。
シャルロットが言う。
「で、ゾーゴ様。このスライムをどうするんや?」
ゾーゴが答える。
「お前たち、魔法で退治しろ」
「おっ!ゾーゴ様、腰の小剣がお見事でんなー」
「うん?ああ、お気に入りの一品だ」
「こんな見事な小剣見たことあらへん」
「言い過ぎだ」
「いやいや。こんな見事な剣なら、スライムなんてイチコロやで。見てみたいなー。ゾーゴ様の活躍。さあ、スライムをバチコーンしてみてや」
「よし、見てろよ、お前たち!俺がバチコーンと…とは、言わない。ほら、お前たちが退治しろ」
シャルロットがモジモジしだす。
「あのー、ソーゴ様ぁ。実は私たち、魔法使いなんやけどぉ。なんていうかぁ…魔法が苦手やねん。MPがないねん。無能やねん」
「ズーン」
隣のイネコがズーンと落ち込んで下を向く。
シャルロットがえへへと笑う。
「えへへ。スライム退治にはファイアーを高出力または長時間維持をせなあかんのやけど、そういうのが苦手やねん。でも見捨てんといて。お金ちょうだい」
ゾーゴがニヤリと笑う。
「とりあえずやってみろ」
「…はい」
三人は立ち止まり振り返る。
スライムを見据えて、シャルロットが詠唱を始める。
「ウンタラカンタラ(詠唱)…ファイヤー!」
空中に青い炎の、完全な球体が生まれる。
そして一瞬で消える。
シャルロットが胸を張る。
「ゼェゼェ。どや?普通の魔法使いなら、温度の低い赤ファイヤーしかできへん。でも、あたしは高温の青ファイヤーで、しかも完全な球体の…」
「…もう、いい」
「ズーン」
シャルロットがうなだれる。
ゾーゴはそれを満足気に眺める。
次に、イネコに言う。
「イネコ、やれ」
「はい!…なにをやりましょうか」
「え?そりゃあ…」
スライムの弱点は炎である。だからファイヤーが定石である。イネコは、そこまで指示しないと分からないのか。アホだ。
しかし、とゾーゴは思う。
目の前のスライムは粘体である。つまり、水だ。
スライムにイネコのウォーターをぶつけたらどうなるだろうか。
毒は効くのか。
好奇心に負けて、ゾーゴが言う。
「…ウォーターをやれ」
「はい!」
素直にイネコが答える。
イネコの指先から水が出て、地面に流れ落ちた。
「ゼェゼェ。そろそろしんどいよぉ」
ゾーゴが指示を出す。
「…ふたりとも、後ろに下がれ。スライムがウォーターの上を通るように誘導しろ」
「へーい、分かりましたー…ゾーゴ様は、一体何をする気や?」
やがて、スライムがイネコのウォーターの上を通る。
イネコがつぶやく。
「…なに、これ?」
イネコのウォーターを取り込んだスライムは茶色く変色していく。
そして粘度を失い、徐々に形が崩れていく。
シャルロットがつぶやく。
「イネコのウォーターのせいなんか?毒にやられたんか?」
やがてスライムは完全に崩れ落ち、地面には茶色い水たまりと、スライムの核だけが残った。
3人はしばらく呆然とその馬に立ち尽す。
シャルロットが感心して言う。
「こんなスライ厶の倒し方があるなんて…ゾーゴ様、あんた天才とちゃうかか?」
「ピクッ」
天才と褒められ、ゾーゴがピクッとなる。
しかし、すぐに思い直し無表情で返す。
「ただの思いつきだ」
イネコがトコトコとスライムの残骸に近付き、核を拾う。
近くの乾いた砂と葉っぱを使って、スライムの水分を落とす。
「シャル、これどう?すごく状態が良いよー」
「どれどれ、見してみ…傷ひとつないやないか。こんだけ状態のいいスライムの核は、ギルドでそこそこの値段で売れるでー。貴族学校の魔法学部で実験に使うらしいなぁ。知らんけど」
シャルロットはゾーゴに言う。
「ゾーゴ様、これどないする?ゾーゴ様の戦利品なんやけど。ギルドに売る?」
「ピクッ…。よし、俺が買い取る」
「(自分の服で)フキフキ。ゾーゴ様、キレイにさせていただきました。高く買って?」
「う、うん」
ゾーゴはスライムの核を受け取り、しげしげと眺める。
太陽の光に透かす。光を七色に反射して、美しい。
「戦利品か…シャルロット」
「はいっ!なんでっしゃろか」
「ウォーターはまだ出せるか?」
「あと1回はいけまっせ。いま出そか?」
「今はいい。後で水筒に入れてくれ。土産にする」
ゾーゴは、アズにシャルロットの聖水を飲ませてやろうと思う。
アズは喜んでくれるだろうか。
ゾーゴの顔に優しい笑顔がこぼれる。
シャルロットがそんなゾーゴを見て、ニンマリする。
「ゾーゴ様、もしかして女か?女へのお土産か?」
「ゴニョゴニョ…まあ、男ではないな」
「女やな!女なんやな!つまりは女やな!」
「ふ、ふたり分の紅茶の量だ。いけるな?」
「任しとき!よっしゃあ、腕が鳴るでー。最高のシャルロット汁を搾り出してやるからなー」
「シャ、シャルロット汁!?搾り出す!?」
「ゲヘヘへ」
ゾーゴは水筒片手に自分の邸宅に戻る。
玄関を開けると、アズが奥から出てきて出迎えてくれた。
ゾーゴは水筒をアズに渡す。
「アズ、お土産だ。シャルロット汁だ」
アズが固まる。
「…はい?」
「いや、シャルロットの聖水だ」
「…」
「いや、省略すると、表現が妙に汚くなるな。ごめん、シャルロットと言う魔法使いが魔法で作った水だ。これで紅茶を淹れてくれ。2人で飲もう」
「…はい」
ゾーゴは食堂のテーブルに座る。
しばらくして、アズが紅茶のセットを持ってきた。
ゾーゴが言う。
「さあ、座ってふたりで飲もう」
「はい…坊ちゃま、私が先に毒見を致します」
「毒見?う、うん?頼む」
「では、頂きます…」
一口すすり、アズが目をカッ!と開く。
「これは!クリアーかつミネラルあふれた水質が紅茶の香りを幾層にも膨らませ、オーケストラのごとく鼻腔をくすぐる!まさに芳醇!これは芳醇のデュランダルやー!」
「…アズ?」
「はっ。すいません、つい勢いで…」
「いや、いいんだ。おいしい?」
「はい、とても。ありがとうございます」
「…よかった」
ゾーゴはアズの笑顔に赤面して、微笑む。
そして、自分の紅茶を一口飲む。
ゾーゴの目がカッと見開く。
「これは!あふれ出る香りが(以下略)」
自室に戻ったゾーゴは、学校の教科書を開く。
今日の冒険ばかり思い出してしまい、勉強に集中できない。
大切に箱にしまっておいたスライムの核を取り出し、しげしげとなだめる。
「初めての冒険。期待以上に無能たちが楽しませてくれた。イネコのポイズンウォーターとシャルロット汁。くっくっく」
ここで、ふと気付く。
「…あれ?本当に奴らは無能なのか?」
スライムを一撃で倒し、核を万全な状態で回収するポイズンウォーターの使い手、イネコ。
人の感情を激しく揺さぶる美味のシャルロット汁。
汚い感情が湧いてくる。
どす黒い、嫉妬。慣れることのない、自分を疲弊させる感情。
見下すために使った奴らが、有能だったのか?無能ではなかった?
苦しい。
ゾーゴはそんな自分が大嫌いだった。




