第3話 冒険者ギルドにて
ゾーゴは自身の邸宅に帰宅した。
玄関を開き、奥に向かって声をかける。
「ただいま」
メイド姿のアズが調理場から出てきて笑顔で返事をしてくれる。
「おかえりなさいませ、坊ちゃん」
「ただいま」
「今日は学校はいかがでしたか?」
「普段通りだよ」
その後、自室で服を着替えて食堂に向かう。
アズの給仕により、テーブルにスープ、サラダ、肉料理、パンが並ぶ。
ゾーゴは上品にそれらを食べる。
アズが言う。
「坊ちゃん、お味はいかがですか?」
「おいしいよ。ありがとう」
ニッコリとアズが笑う。それを見てゾーゴは思わず顔を赤くした。
ゾーゴは話題を変える。
「そうだ、ダチネルが言ってたんだ。今度、オークションがあるらしいよ」
「そうですか。坊ちゃんの興味がある品はあるのですか?」
「あるよ。理力の剣」
「…!」
言って、しまった、と気付く。
アズが固まる。
それを見て、ゾーゴはうろたえる。
「まあ、興味があるだけだよ。別に欲しいわけじゃない。そもそも、本物の理力の剣なんてこの世にあるわけないじゃないか。変な噂が一人歩きしているだけさ」
「…領主様に申し上げて、資金を用意しますか」
平静なアズの表情。
被害妄想のせいか、ゾーゴはその中に自分の無能に対する憐れみを感じる。
領地の家臣たちに無能のゾーゴと陰口を叩かれて腹を立てている、自分の劣等感を見透かされている気がする。
ゾーゴは首を横に振る。
「いや、それはやめておいてくれ」
「そうですか…」
「そうだ。後で散歩してくるよ」
気分直しに、趣味である冒険者ギルドの見学に行くつもりだった。
ゾーゴは黙々と料理を食べる。
「道に金が落ちてへんかなぁ」
シャルロットが地面を舐め回すように見ながら歩く。
「もう冒険者としても食っていけへんしなぁ。冒険者仲間の間で、あたしが無能って噂が立ってしもうた。こうなったら普通に働くしかないけど、普通に働いてと、ギャンブルの借金は返せへん。なんかええ儲け話はないかなぁ」
いくら地面を見ても、やはり金は落ちていない。
ジャルロットはため息をつき、顔を上げる。
そこには冒険者ギルドがあった。
「あーあ、仕方ない。行きたくないけど、行ってみるか」
サルーンドアを押し開け、中に入る。
ギルド内を見渡す。右手に受付カウンター、左にクエスト掲示板。
奥にレストランがある。食事と酒を出すカウンターと、沢山のテーブル。冒険者達が稼いだ金を巻き上げるシステムになっている。
そこに、先日シャルロットがクビになった冒険者パーティーの面々がいた。
シャルロットが笑う。
「うわぁ。リーダーの髪の毛がスライムの粘液で溶かされてハゲになっとるわ。おもろいなぁ」
冒険者のリーダーがシャルロットに気付き、立ち上がった。
そして、憎々しげに叫ぶ。
「おい!この無能のブタ野郎!」
「ビクッ!」
たまたまクエスト掲示板を見ていたイネコ。
突然のブタと言う単語に、反射的にビクッと反応した。
恐る恐る振り返り、答える。
「わ、私の事ですか?」
リーダーがキョトンとする。
そしてイネコに言う。
「ええと、なに?ていうか、あんた、誰?」
「え?無能な、ブタです?」
「あれ?」
「あれ?」
リーダーがオロオロする。
「くそ、みんな帰るぞ」
その冒険者パーティーの面々は、シャルロットを睨みつけて外へ出ていく。
それを見送ったあと、シャルロットはイネコに話しかける。
「あんた、よう分からへんけどかばってくれたんやな?ありがとさん」
「はい?」
「どや、そこでメシでも食わんか?」
「ご飯ですか!?食べます!」
ふたりでテーブルに座り、給仕に料理を注文する。
すぐに料理が運ばれてくる。
山盛りの料理を貪りながら、ふたりは楽しそうに会話をする。
「あたしはシャルロット。冒険者や。いや、元冒険者って言うべきやろな。シャルって呼んでや。むしゃむしゃ」
「私はイネコル。イネコって呼んでねー。貴族学校を退学になったばかりなんだ。もぐもぐ」
「なに?貴族学校を退学?どういうことや?」
「それは無能魔法使いだからだよ。無詠唱ができるんだけど…MPが少なくて」
「マジか!?あたしも同じ感じや。魔力操作は得意やけど、MPがほとんどない無能魔法使いや。冒険者仲間からもそっぽ向かれとる。どうしたもんかなぁ。むしゃむしゃ」
「それは大変だねー。私は実家に帰る資金を得るために、冒険者になって稼ぐ為にここに来たんだ。実は手持ちのお金がもうなくなっちゃって。もぐもぐ」
「一文無しなんか!そっかぁ、あたしもスカンピンなんや!あたしらは、ホンマによう似とるなぁ。無能だけじゃなくて、一文無しや!」
「本当だね!ウヒヒヒヒ!」
「ガハハハハ!」
ふたりは腹を抱えて大笑いする。
目から汗が出てきて、つう、と頬を流れる。
「ガハハ。ところでやで。ここの支払いは誰がするんやろなぁ。むしゃむしゃ」
「ウヒヒ。わかりませーん。もぐもぐ」
「…」
「…」
ふたりは真面目な表情になる。
シャルロットが言う。
「…さて。イネコは食い逃げしたことあるか?」
「…今日が初めての経験になりそうです」
そこに、突然ひとりの少年がテーブルの席に座る。
ゾーゴだった。
ゾーゴが言う。
「冒険者ギルドで食い逃げはやめておいたほうがいいぞ。後が怖い」
シャルロットがゾーゴを睨みつけて言う。
「げっぷ。あんたは誰や?ナンパか?それとも喧嘩を売っとるんか?喧嘩なら他所で売ってくれんか」
「俺はゾーゴ。喧嘩なんて売っていない。俺は冒険者に興味があるだけの人間だ」
シャルロットの目つきがますます鋭くなる。
「で、そのゾーゴさんがあたしらに何の用や。まさか、見返りなしでメシ代を出してでもくれるっちゅうんか?」
「そうだ。おごってやる」
シャルロットとイネコの態度が一変した。
「ゾーゴ様!肩を揉ませて頂きます!おやー、凝ってますなぁ。ゾーゴ様は働きすぎっ!」
「おごり!?すいませーん。肉の煮込みを追加でくださーい。あと黒パンもー」
シャルロットに肩を揉まれながら、ゾーゴが言う。
「あとな、俺は道楽で冒険者をやってみたいと考えているんだ。それに同行してくれる冒険者を探している。よければお前達ふたりを雇いたい。今日の宿代もないなら、当面の宿代を出してやるぞ」
「ははぁ。ありがとうございます。ぜひよろしくお願いします。あ、ゾーゴ様の靴が汚れとる!舐めます!」
「な、舐めなくていいっ!自分で拭くから」
「串焼きもくださーい」
三人はそれぞれ、心のなかでつぶやく。
ゾーゴ「…こいつらは使える。愉快なアホどもだ。憂さ晴らしに楽しんでやる」
シャルロット「金づるやでー。世間知らずの貴族のアホ坊ちゃんやでー。食らいついていくでー」
イネコ「あとは、デザートも頼まなきゃ。ていうか、この人って統治学部のゾーゴ様だよね…無能の」




