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第2話 理力の剣

貧民街。

辺りにはゴミが散乱し、道の端には浮浪者が寝転がっている。


スライム討伐パーティーから追い出されたシャルロットは、余裕の表情でゴミ溜めの街を歩く。

酒瓶片手の浮浪者が言う。


「よう、べっぴんさん。俺が買ってやるよ。いくらだい?」


シャルロットは余裕綽々に答える。


「あたしは高いでー。大商人でも貴族様でもあたしを買えへん。あんたみたいな男前は、まあ、ギリギリ無理ってトコやな」


その言葉に浮浪者は喜ぶ。


シャルロットは一軒の宿屋に入る。

そして、受付に立つ表情のない男に言う。


「焼肉定食ひとつ」

「…焼き加減は?」

「がんばって焼いてくださいっ!」


合言葉を確認して、受付の男は無表情のまま黙ってあごをしゃくり奥を示す。

シャルロットは奥の扉を開けた。階段がある。薄暗い地下に降りていく。


そこは賭場だった。

暗がりの中、サイコロやトランプがテーブルの上を舞う。男達が下品に笑い、舌打ちをする。

奥ではスキンヘッドの男が金を勘定している。ボスだ。

誰が勝とうが負けようが、金はボスの元に集まる仕組みになっている。碌でもない場所の、さらに碌でもない存在。


シャルロットは辺りを見渡し笑う。


「何回来てもええ店やで」


シャルロットは真っ直ぐボスのところへ歩く。

やがて、ボスがシャルロットに気づき、言う。


「どうした、シャル。また負けに来たのか」

「今日は違う」

「そりゃそうだ。借金も払わずに更に賭け事なんて、カスのやる事だ。利子くらいは持ってきたか?」

「ふん」


ボスの目の前にはウィスキーのロック。シャルロットはその上に手を差し出し詠唱を始める。


「利子はこれやで。ウンタラカンタラ(詠唱)…ウォーター」


指先から水が注がれ、ロックが水割りになる。

ボスがにやりと笑い、それを口に運ぶ。


「シャルよ、こんなもんで借金を…」


一口飲み、カッ!と目が開かれた。


「美味い!シャルのウォーターは一切の雑味がなくしかしその透明感がむしろウィスキーのスモーキーな味わいをよりクリアーにする!無味のなかに美味がある!これは美味のドラゴンナイトやー」


シャルロットが満足気に笑う。


「ニチャア。褒め過ぎや…ていうか、美味のドラゴンナイトって何や?」

「勢いだ。よし、借金はもうちょっと待ってやろう。さて、今日は何の用だ?」

「あのな、金になる話はあらへんか?実はあたし、一文無しやねん」


ボスが首を横に振る。


「危ない話は今は無理だ。時期が悪い」

「どういうことや?」

「貴族のオークションが予定されている。闇稼業は静まり返っている」


「だから、どういうことや?」

「理力の剣とか言う、すごい武器がオークションに出るって噂だ。この機会に、貴族どもは俺達ゴミ溜めの人間を掃除しようとしている。今は目立っちゃならねぇ」


シャルロットがキレる。


「だから、どういうことやって言うとるやろが!」

「え?いや、だからオークションが…」

「金になる話はないかって聞いとるねん。オークションの情報とかは別に要らへんがなっ」

「あ、そうか。ごめんごめん。金になる話はない」

「結論から話せや。ったく」


ボスが下卑た笑顔で言う。


「じゃあ、俺の愛人にでもなるか?お前さんくらいの美少女なら、いくらでも金を積んでやるぜ」


シャルロットはため息をひとつ付き、言う。


「あたしは高いんや。大商人でも貴族様でもあたしを買えへん。あんたみたいな男前は、まあギリギリ無理ってトコやな」






貴族学校の食堂テラス。


緑あふれる前庭にテーブルが並べられ、丈の高い帽子を着たコック達が、慇懃に貴族達に給仕をする。


今日の学科を終えたゾーゴは、食堂で友人とケーキを食べていた。

友人の名前はダチベル・フォン・ケイミルト。

小太りのにこやかな少年。

貧乏地方領主の息子で、七人の妹を持つ。

ダチベルが言う。


「どうしたゾーゴ?不機嫌じゃないか」

「え?いや、別に普段通りだけど」

「アズ姫と喧嘩でもしたか?」


ゾーゴがムスッとする。


「アズ姫ってなんだよ」

「親友の想い人だ。敬称で姫くらいつけても差し支えないだろ」

「ふん」


鼻を鳴らし、ゾーゴがふと向こうを見る。






ゾーゴの視線の先にはトモエルとイネコの姿。

トモエル・フォン・ペンドラゴン。融通の利かない努力家。

イネコルナ・クスノミア。素直なアホ。


トモエルがケーキをひとりで食べている。その表情は気まずそうである。

その前で、イネコがケーキを羨ましそうに見ながら座っている。口からはよだれが垂れている。

イネコが言う。


「トモエル様、おいしそうですね…ケーキっておいしいですか?」


トモエルがキョドりながら答える。


「え、ええ。おいしいですわよ…ところで、あなたはなぜそこに座っているのかしら」

「私はケーキなんて食べたことないです」

「いや、だからあなたはなぜ…」

「どんな味ですか?」

「え?ええと、今日はなぜか味がしませんわ。不思議ですわね。気持ちの問題かしら」


イネコがふふふと笑いながら言う。


「ふふふ。私の昨日の晩ごはんは水でした」

「そ、そうなの?」


「今日の朝ご飯は水でした」

「え…」


「今日の昼ごはんは空気でした」

「…」


「ケーキ、おいしいですか?」

「ズーン」


ズーンと空気が淀む。

トモエルがうなだれる。死んだ魚の目になった。

そして、フォークをカシャリと置く。


「…急に食欲がなくなりましたわ」

「ええっ!?じゃあ私がこの残飯を食べてもいいですか!?」

「ざっ、残飯!?」


イネコはケーキをかっさらい、むさぼり食う。


「うひょー!ケーキって甘い!砂糖に砂糖をまぶしたみたいに甘い!残飯サイコー!トモエル様!残飯を食べさせていただいてありがとうございます!残飯を下さる優しいトモエル様!」


トモエルが周囲をキョロキョロ確認しながらオロオロする。


「やっ、やめなさいっ!残飯って、ブタじゃないんだから。それに、私があなたに無理やり残飯を食べさせてるみたいに聞こえるでしょうがっ!言い方っ!」

「私はブタです!トモネル様の残飯を貪り食うメスブタです!」

「自らブタ宣言!?」






それを見ていたダチネルが舌打ちをする。


「ひどいもんだ。平民女をいじめてやがる。ああ言うのは好きになれない」

「ふーん」

「なんだ、興味ないのか?」

「まあね。他人事だよ。放っておけばいい」


無関心にゾーゴがトモエルとイネコを眺める。




ここでトモエルが叫んだ。


「この無能のイネコ!恥をさらすなら、早く家に帰りなさい!もしくは努力を…」





「ピクリ」


無能と言う言葉に、ゾーゴがピクリと反応した。

一瞬、目に力がはいる。肩がこわばる。

猛烈な怒りが湧き上がり、思わず立ち上がろうとする。






そこに、イネコが叫ぶ。


「トモエル様!もっと残飯を!このメスブタに残飯のおかわりをください!」

「ヒィィィ」






ハッとなり、怒りの炎は霧散する。

一つ深呼吸をして、ケーキを口に運ぶ。


ダチネルはその感情の乱れに気付かず、ただゾーゴの無関心にため息をつく。

そして言う。


「ところでさ、オークションの話は知ってるか?」

「ああ、聞きかじった程度だけどな」

「理力の剣が出品されるらしいぞ」


ゾーゴの手が止まる。口に運んでいたケーキがぽとりと落ちる。


「今、なんて?」

「理力の剣。知ってるだろ?お前の好きな勇者の物語で、勇者が持つあの剣だ。使用者のMPを糧に光の刃を生み出す魔法剣」


ゾーゴの手が震える。


「それがあれば…」

「まあ、お前の実家がいくら裕福でも、さすがに買えないだろ。ていうか、噂話だろな。そもそも、物語の剣が本当にあるわけないし⋯」


ダチネルの声はゾーゴの頭に入ってこない。

ゾーゴはボソリとつぶやく。


「本当に理力の剣がこの世にあれば⋯俺を無能と馬鹿にした奴らを見返すことができるのに」

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