第1話 無能のゾーゴと、その他の面々
無限のMPを持ちながら、魔法が一切使えない――
そんな致命的な欠陥を抱えた貴族の少年、ゾーゴ。
周囲からは無能と扱われ、
一番認めてほしい相手からも、ただの「子供」として扱われる日々。
強くなりたい。見返したい。
偶然ゾーゴが出会った、無能な魔法使いたち。
その寄せ集めの無能たちは、
やがて噛み合い、思いもよらぬ力を発揮していく。
それは、
誰かを利用することと、信じることの境界線を乗り越える行為でもあった。
これは、無能のゾーゴと呼ばれた少年が、
人々と繋がり成長していく物語。
そよ風が気持ち良い、草原の真ん中。
青空の下、5人の冒険者達が武器を手に立っている。
彼らの前には一匹のスライム。透明の粘体を揺らしながら、冒険者たちににじり寄る。
冒険者のリーダーの男がひとり女に怒り、叫ぶ。
「こらシャルロット!てめえ役に立たねえじゃねえか!魔力操作の天才って自分で言っていただろうが」
怒られたのはシャルロット・ドレイク。
金髪碧眼の美少女。
中身はおっさん。
シャルロットがヘラヘラと答える。
「すまん。うっかり言い忘れとったわ。魔力操作は得意でも、マジックパワー自体があんまりないんや」
リーダーがますます怒り出す。
「なっ!?一番大切なところだろっ!なんで討伐クエストでそんな大切なことを言い忘れるんだ。お前、絶対にわざとだろ」
「まあまあ。ウンタラカンタラ(詠唱)…ウォーター!ほれ、この透き通った水。すごいやろ?雑味一切なしの軟水やで。これでお茶をいれたら絶品や。どうや?いれたろか?」
「そんなもんがモンスター退治に役に立つか!」
「しかも、すぐにマジックパワー(以下MPと省略)切れするんよ。あっはっは」
「無能!クビだ!帰れ!…うわぁぁぁ」
怒るのに夢中になっていたリーダーの背後にスライムがやってきた。
スライムはリーダーを足から飲み込む。
他の冒険者達が騒ぐ。
「うわぁ、リーダーがスライムに飲み込まれた!」
「早く助けてやれ!ハゲるぞー」
「弓矢で核を狙えー」
シャルロットが所在なげに言う。
「…あたしはどうしたらええんやろか」
冒険者達がキレる。
「帰れ!」
「報酬は?もらえへんの?」
「うるさいっ!帰れ!無能!」
「消えろ!このブタ野郎!」
シャルロットがシュンとなる。そしてつぶやく。
「ブタ野郎か。ひどい言われようやな…スカンピンやのに、これからどうしよう」
バトルに盛り上がる冒険者達を後ろに、シャルロットは王都へとのんびり歩き出す。
少しだけ落ち込む。
しかし、すぐに明るい表情になる。
「…まあ、金は天下の回りもの。何とかなるやろ」
そして、青い空を見上げてつぶやく。
「…MPさえあればなぁ」
王都、貴族学校。貴族の師弟と有能な平民を集めた学校。
その前庭で、3人の女が騒いでいる。
「イネコ!なんとか言いなさい」
「ト、トモエル様、いじめないでよぅ…」
地面に正座をしてうなだれているのは、イネコルナ・クスノミア。
黒髪短髪の美少女。
素直なアホ。
それを見下ろしなじるのは、トモエル・フォン・ペンドラゴン。
金髪のスタイルが良い美少女。
融通の利かない努力家。
トモエルが言う。
「この無能イネコ。無詠唱ができても、肝心のMPがないんじゃ何の役にも立たないですわ。学校を辞めて早く実家に帰りなさい。それでも学校に残るというならもっと努力をする覚悟を決めなさい!」
「そーよそーよ!トモエル様の言うとーり!トモエル様が正しい!よっ!色男!」
太鼓持ちをしているのはソーカ・フォン・ドラコニア。
赤毛の美少女。
スクールカーストが気になるタイプ。
イネコが泣きながらトモエルに言う。
「ううう。領主様に奨学金を打ち切られて、もうお金がないんです。帰りの旅費すら貰えないなんてあんまりですよぅ」
トモエルの表情に同情が浮かぶ。そして言う。
「そ、そうなの?でも、原因はあなたですわよ。努力して這い上がろうという気概がないから、あなたは何時までたっても無能なのです。授業中も鼻をほじってノートに落書きばかりして。でも、今からでも遅くないですわよ。人生に遅すぎる事なんてありませんわ。さあ、奮起しなさい!」
イネコがズーンとなり言う。
「ズーン。でもでも、私だって好きでこんな所に来てないのに。帰って普通に農業したいよぅ。家族と一緒にご飯を食べたいよう。カエルのおケツにストロー差しこんで、パンパンにふくらませて遊びたいよう」
トモエルがキョトンとする。
「へ?ななな何?おケツ?ストロー?」
「はい。カエルおケツにストローを差し込んだらふくらむんです」
「はぁ!?」
「そして一気に息を吹き込んだら、カエルがパーン!」
「ヒィィィ!」
トモエルが怯えた。
しかし、すぐに立ち直り、懐から銅貨を1枚取り出す。
イネコの前にポイと放り投げる。
「さあ!自尊心がなければ、この銅貨を犬のように這いつくばって拾いなさい。そう、犬のように!ふふふ、できないでしょう?そこら辺があなたが這い上がれない弱さなのよ!いっそここでは、自尊心を捨てる勇気を持ちなさい!そして今日から臥薪嘗胆の覚悟を持って勉強を奮起…」
イネコが銅貨に飛びつく。
「ウヒョー。銅貨だー!やった!これでパンを食べられるー!」
「ええ!?躊躇なく拾うの!?」
「ワンワン!もっとお金が欲しいワン!ペロペロ」
「ヒィィィ」
そこにソーカが割ってはいる。
「アホイネコ、平民の分際でなによ!トモエル様の靴をペロペロ舐めないでよ。ご無礼よ!不敬よ!」
トモエルがジト目になった。
そして、言う。
「ソーカ…あなたもMPがなくて、ドラゴンの尻尾の先っちょしか召喚できないでしょう。あなたも努力が足りないんじゃなくって?」
「え?私?あれ?」
キョドるソーカ。
それを聞きながら、イネコがこっそりと笑う。
「ニチャア」
「…イネコ!?今笑ったでしょ!?平民の分際で!貴族の私を笑ったでしょ!?」
イネコが顔を上げ首を横に振る。
「いえ、笑ってないですよぉ(笑)」
「キィィィ!」
「ふたりとも、努力が足りないのです!努力しなさい」
「ニチャア」
「キィィィ!」
イネコとソーカが心のなかでつぶやく。
「…MPさえあれば」
王都の一等地。貴族の邸宅。
その寝室で、邸宅の主であるゾーゴは目を覚ます。
ゾーゴ・フォン・ムラタリア。
黒髪、童顔。
平凡な少年。
昨晩は勇者の冒険譚の本を読みふけり、寝不足である。
理力の剣を片手に、勇者が姫を救う物語。ゾーゴお気入りの物語だった。
ゾーゴは身だしなみを整え、自室を出て食堂へ。
そこにはメイドのアズが朝食の用意をしていた。
アズ・サリエル。
灰色の美しい女。
クールで生真面目な性格。
ゾーゴが言う。
「おはよう、アズ」
「坊ちゃん、おはようございます」
アズのその、坊っちゃんという言葉に、ゾーゴはため息をつく。憧れの女性にいつまでも弟扱い、子供扱いしかされないからだ。
自分を一人の男として名前で呼んでほしい、と思う。
でも、口には出さない。
頼んで呼び方を変えてもらうのは、みっともない。自分で自分を許せなくなるのがわかっているからだ。
ちっぽけなプライドだった。
食事をしながらゾーゴは考える。
「ありあまるMPがあっても魔法が使えない俺は、どうやって強くなれば良いんだろうか」
ため息をつき、自分好みに焼かれた目玉焼きをほおばる。
「領地の家臣達に、もう無能のゾーゴと馬鹿にされたくない。強くなりたい。そして…」
見返したい。
強くなり、自分を無能と馬鹿にしてきた者たちを見返したい。
そして、アズに…。
ボソリとつぶやく。
「MPだけじゃ、駄目なんだ」
「…坊ちゃん、何か言いましたか?」
「別に。何も言ってないよ」
これは
MPが余っている無能と、
MPが足りない無能の、
無能達の物語
新連載です。
ストックが切れるまで毎日17時更新でいきます。
よろしくお願いします。




