第21話 フェザーンベルとの商談
アモリア邸での茶会を終え、ゾーゴは自分の邸宅に戻る。
応接で変異体スライムの核を眺めて時間を潰していると、アズがやってきて言う。
「坊っちゃん、お客様が参られました」
「ありがとう。通してくれ」
「はい」
変異体スライムの核を箱にしまう。
やがて、来客者が部屋に入ってくる。
フェザーンベル・ドラベルク。
心は若い中年男。
小柄なスキンヘッド。
フェザーンベルは深々と一礼し、大仰に両手を広げゾーゴに媚を売る。
「お初にお目にかかります。フェザーンベル商会の社長をしております、フェザーンベル・ドラベルクと申します」
「ゾーゴ・フォン・ムラタリアだ。かけてくれ」
「では、失礼いたします」
アズがお茶を持ってきて、ふたりの前に置く。
アズが退室すると、フェザーンベルが言う。
「タカス室長からご高名をお伺いしております。ゾーゴ様はスライム核研究の旗手であると」
「うん?タカスは何か詳しいことを言っていたか?」
「研究に理解が深く、献体の寄付をなさってくださるとお伺いしております」
「そうか」
ゾーゴは安心する。イネコ汁で手に入れた高品質スライムの核や、聖水(シャルロット汁)などの情報は口外していない様子だ。
世間話はやがて終わり、フェザーンベルが袋を取り出しゾーゴに渡す。そして言う。
「さて、本日はスライムの核をお持ちしまして、ぜひ見ていただければと」
袋の中身を確認すると、スライムの核が7つ入っていた。ゾーゴは品質を確認する。イネコ汁で手に入れた核と比較すると、品質がはるかに落ちる。
「タカスの研究室で買い取ってもらえなかったのか?」
「はい。予算が削られているとの事です。以前ほど必要とされなくて」
「よし、買ってやる。ひとつは置いていってくれ。残りはタカスの研究室に届けておけ」
「ありがとうございます!」
大喜びするフェザーンベル。揉み手でゾーゴに笑顔を見せる。
「さてゾーゴ様は宝石に興味がおありではありませんか?私共は宝石も取り扱っておりまして。オークションでは王子に負けず装飾品を勝ち取り、愛する女性に贈られたとききましたが」
「なに?」
どうやら、話がねじ曲がって噂になっているようだった。
ゾーゴは呆れて言う。
「オークションではスライムの核を手に入れたんだ。宝石ではない」
「そうですか…宝石をご入用の貴族様がおられたら、ぜひともフェザーンベル商会をご紹介ください」
「そういえば、アモリアの父親が今日、宝石がどうこうと言っていたな」
「アモリア様というと、チオル伯爵家の?」
「そうだ。アポを取ってみるといい。会ってもらえるかどうかは先方次第だがな」
フェザーンベルが平身低頭で頭を下げる。
「ゾーゴ様、ありがとうございます!あと、スライムの核を手に入れたらまたお持ちしますので」
「ああ、そうしてくれ」
タカスが帰ると、ゾーゴはアズに言う。
「アズ、ちょっと出かけてくるよ」
「…はい」
アズは不満そうである。そして言う。
「例の女性ですか?」
「え?いや、違う。ていうか、別に付き合ってなどないし」
「そうですか…ムラタリア家の嫡男として節度ある振る舞いをお願いします」
「だから違うってば。シャルロット汁を貰ってくるだけだよ」
アズの表情が緩む。そして喉を鳴らす。
「え?…ゴクリ」
「あとでふたりでシャルロット汁の紅茶を飲もう。そうだ、ケーキも買ってこようか?」
「ぜひ、お願いします」
「じゃあ、楽しみに待っておいて」
「かしこまりました」
機嫌が直ったアズをみて、ゾーゴは胸をなで下ろした。
再び冒険者ギルド。
いつものテーブルにシャルとイネコがいて、ふたりで楽しそうにトランプをしている。
イネコがゾーゴに気づき手を振る。
「アニキー。やっほー」
テーブルに座りゾーゴが言う。
「ふたりとも元気が出たみたいだな」
「サワガニ食べたら元気出たよー」
「金は天下のまわりもんや。また稼げばええだけやしな」
「よしよし。さて、お前たちはデュラハンの墓場を知ってるか?」
「なにそれ?知らなーい」
「観光地やろ。行ったことないけど知っとるで…スライムの多発地帯やったっけ」
ゾーゴが頷く。
「そうだ。出張に行くぞ。2泊3日だ。スライムをたくさん狩って、ギャンブルの負けを取り戻せばいい。あと、スライムせんべいを食べて、観光もしよう」
シャルロットとイネコの顔が輝く。
「やったー。スライムせんべい!アニキ、ありがとー。」
「観光か!ええなぁ、楽しいなぁ。最高や」
ゾーゴは喜ぶふたりを満足気に眺める。
そして、水筒を2本取り出す。
「そうだ、今日は早く帰らないといけないんだ。シャルロット、水筒2本分を頼む」
「なんやアニキ、今日は忙しいなぁ!」
「ああ、さすがにヘトヘトだ」
そして、ゾーゴは冒険者ギルドを後にする。
帰宅したゾーゴを、アズは笑顔で迎える。ゾーゴはシャルロット汁の水筒をひとつと、ケーキを手渡す。
そして、紅茶とケーキをテーブルに並べ、ふたりの時間を楽しむ。
ゾーゴが言う。
「そうだ、次の連休はデュラハンの墓場に行ってくるよ」
「デュラハンの墓場ですか。たしか、観光地でしたよね」
「うん。スライムでも有名だよ」
「距離があるはずですが…」
「2泊3日になるね」
「危険ではありませんか?」
「まあ、冒険者を雇って護衛をさせるよ。大丈夫」
アズの表情が曇る。しばらく考えて、言う。
「…例の女ですね」
「え?いや、俺一人だけど。冒険者と俺だよ」
「そうですか…私もお供いたします」
「え?それは、ちょっと」
「ムラタリア家の嫡男が羽目を外してはいけませんから。私がお供いたします」
「…はい。分かりました」
「合計、何人の旅になりますか?」
「4人です」
「では、4人乗りの馬車を手配いたします。宜しいですね」
「…お願いします」
そしてゾーゴは自室に戻る。
机に座り、ため息をつく。
「とりあえず、シャルロットとイネコには、他人のふりをして俺と接しろって言うかな。そして、現地ではふたりでスライム狩りをさせておけはいい。ふたりは仲がいいから、放っておいても楽しんでくれるだろう。その間に、俺はアズとふたりで観光地巡りをするか…いや、全然悪くないな。アズと観光旅行だ。スライムせんべいを2人で食べよう。すごく楽しみだ」
一瞬、リズの顔が頭に浮かぶ。しかし、努力して忘れようとする。
そして、フェザーンベルから買い取ったスライム核を机に置く。
そして、水筒のシャルロット汁を少しずつかけていく。
スライムの核は徐々に光を帯びていき、10滴目でかなりの輝きを帯びだした。
「これ以上は無理だろうな。MP過剰吸収で破壊されてしまう」
実験は終了した。
そろそろ寝ようと思い、スライムの核がまぶしいので袋に入れる。
忙しい1日が終わった。
ベッドに潜り込み、すぐに寝息を立て始める。そして、泥のように眠る。
さて、ゾーゴが忙しい1日を過ごした日の昼頃。
研究室では、タカスがリズに出張を言い付けていた。
「リズ、今年のデュラハンの墓場のフィールドワークなのだが、予算節約のため、ひとりで行ってきてくれないか?」
例年、タカスとリズはデュハンの墓場へフィールドワークに出かけていた。
スライムの発生件数が多い原因の調査と、現地のスライムの核の買い付けの為である。慰安の意味合いもある。
「予算も削られてきて、うちの研究室の購買力が落ちている。儲からなければ、いずれフェザーンベル商会も顔を出さなくなるかもしれないからね。予備の仕入れ先として、デュラハンの墓場の商人と会っておくに越したことはない。あと原因調査は、冒険者への聞き取りをメインに行ってくれ。調査項目はリスト作成しておいた」
リズが答える。
「そういうことなら、私よりも室長が行った方がよくないですか?」
「最近、膝が痛いからなぁ。できれば動きたくない」
「なるほど」
「ついでに観光もしてきたらいい。手当てを出すからスライムせんべいでも食べてきなさい」
「はい」
リズもまんざらでもない。
久しぶりの旅行が楽しみだった。
王城。
レインハルト・ヴェンリス王子の自室。次期国王となる男。
机に向かい、公文書の決裁を行っている。
そこに父である、現国王がやってくる。
「息子、精が出るな」
「なんだよ、いきなり」
国王は机の横に立ち、息子が処理した公文書をながめる。
そして言う。
「先の大雨で、デュラハンの墓場の川が氾濫した」
「知ってる。人的被害は特にないし、問題ない。あそこは農地に向いてないからな」
「うむ。で、視察に行ってこい」
「…なんで?」
「王子だからな。見識を広めることも大切だ。観光地がどのようなものか見てくればいい」
王子は背伸びをして、言う。
「わかったよ。行ってくる」
「お前に護衛は必要ないが、付き人としてマシェロを連れて行け」
「ひとりでいい。あのバカの世話は面倒くさい」
「マシェロがかわいそうだろう。放ったらかしにせず、少しは付き人らしいことをさせてやれ」
「はいはい」
「マシェロに旅の手配をさせなさい」
「…あいつにまともな仕事ができるかなぁ」




