第20話 再びアモリア宅にて
冒険者ギルド。
いつものテーブルにシャルロットとイネコがいる。
シャルロットはテーブルに突っ伏し、イネコは放心して宙を眺めている。
そこにやってきたゾーゴ。椅子に座るがふたりに反応はない。そのままの姿勢のままである。
ゾーゴが言う。
「ふたりとも、どうした?」
少しの間。
シャルが顔を上げる。死んだ魚の目をして言う。
「ギャンブルで負けてもうたんや」
「…そんな気はしていた。なんでお前達は懲りないんだ」
「夢でなぁ、大勝ちする夢を見たんや。一攫千金ウハウハの夢でなぁ、いけると思ったんや」
「夢は所詮、夢だろ…」
ゾーゴはイネコを見る。頬に一筋の涙が流れ落ちた。
シャルが言う。
「アニキ、仕事ちょうだい。もしくはお金ちょうだい」
「そうだなぁ。次の連休はみっちりスライムを狩るか」
「次の連休とか言わんと、今からスライム狩りに行こや」
「今日はたまたま立ち寄っただけだ。それにこれから用事があるからな。もう、行く」
「ちぇー」
ゾーゴは席から立ち上がる。
「とりあえずうまいもんでも食べればいい。気が晴れる。そうだ、小川でサワガニでも獲ってきたらどうだ。シャングリラで調理してもらえばいい」
「ピクッ」
サワガニという単語にイネコが反応した。
今日はさほど親しくない人達と会う日だ。ゾーゴにとってストレスが多い1日になるだろう。
だからその前に、シャルとイネコの顔を見ておきたかった。
そして冒険者ギルドを出てしばらく歩き、アモリアの邸宅へ。
今日はアモリア家から招待を受けていた。お互いにオークションで落札した品をお披露目する会である。トモエルとソーカも参加すると聞いている。
アモリア・フォン・チオル。自信満々なアホ。
玄関でアモリアが出迎えてくれる。
美しい顔を満面の笑顔で満たし、ゾーゴに手を振る。
「ゾーゴ君、やっほー」
屈託のなさに、ゾーゴは思わず笑ってしまう。
「アモリア、本日はお招き頂きありがとうございます」
「堅苦しいのはいいよー。皆、来てるから入って入ってー」
庭のテーブルへ。
ケーキとお茶を囲み、アモリアパパとママ、トモエル、ソーカが座っている。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
挨拶をして着席する。
アモリアも着席して、ゾーゴに言う。
「これで王子がいたら、課外授業メンバーがそろうんだけどね。でも王子は面倒くさがりだからなぁ、呼んでも来ないだろうなぁ」
「他国も恐れる武力を持つ、王国ナンバーワンの王子とナンバーツーのアモリアが同席するとなると、圧巻でしょうね」
その瞬間、テーブルに緊張が走る。
ゾーゴとしては褒め言葉のつもりだったのだが、地雷を踏んでしまった。ゾーゴは何が起きたか理解できずとも恐怖を感じ、固まってしまう。
アモリアが言う。
「王子にはもう勝てないのかなぁ。ナンバーワンにはなれそうにないや」
ゾーゴは慌ててフォローを入れる。
「ナンバーツーでも見事なものと思いますが。王国最高峰のひとりなのですから」
アモリアが頬に手を当てて言う。
「まあ、そうなんだけどねー。なんていうかねー。王子は努力しなくてもどんどん強くなってボクを置いてくでしょ。それって、王子もつまらないだろうと思うんだ。王子がつまらないと、ボクもつまらないんだよねー。つまり、ボクは王子とナンバーワンを競い合いたいんだ」
「なるほど?」
分かったような分からないようなゾーゴ。
一方、トモエルは感銘を受けて、うんうんと頷いている。
アモリアパパとママは会話の内容はどうでも良く、落ち込む娘にオロオロしている。
ソーカはヨイショの瞬間を虎視眈々と伺っている。
そこにメイドがやってくる。
ゾーゴの前にケーキを置く瞬間、視界に入ったアモリアに驚く。
「め、女神っ!?」
「ええ?やだなメイドちゃん、ボクは女神なんかじゃないよー」
「しっ、失礼しました!超美しくて、超女神すぎたので」
「超女神!?」
「申し訳ございません!」
慌ててメイドが謝罪する。
アモリアパパとママが食いつく。
「キター!」
「これよこれ!」
そしてメイドはソーカをチラリと見てニヤリと笑う。勝利を確信した表情である。
しかし、ソーカは動じない。そして、アモリアパパとママに悠然と言う。
「いえ、アモリア様は超悪魔です」
空気が一変した。
アホ製造器達が目の色を変えて席から立ち上がった。
「ガタッ!超悪魔!?悪魔だと!?」
「ガタッ!アモリアちゃんを悪魔呼ばわり!?なんてこと!」
ソーカがニヤリと笑う。
「ニヤリ。そうです。ここまで人の心を動かす美しさは、女神と言うには足りません。あえてこう言うべきです。アモリア様は超悪魔な超女神なのです!(キリッ)」
「「な、な、な、なんだって!?」」
アモリアパパとママが驚愕する。
ガクガクとしながら椅子に座り直す。
「否定的な悪魔という単語をあえてつけて女神を更に強調したのか…み、見事」
「しかし、だが、みたいな単語を使って、なんか文章を強調する的なアレね…す、素晴らしいわ」
メイドの顔に勝利の笑いが消えた。
ソーカがニヤリと笑う。
前回に引き続き、ソーカが格の違いを見せつける結果となった。
トモエルは遠い目をして、空の雲を眺めている。
ゾーゴがつぶやく。
「…なんだコレ?」
さて、オークション品の見せあいっこである。
アモリアがメリュジーヌの剣を持ちポーズを決める。アモリアパパママ、ソーカが興奮してそれを褒めちぎる。
次に、ゾーゴが変異体スライムの核をテーブルに置く。アモリアパパとママが興味なさそうにそれを見ている。
一方、ソーカはゾーゴとコネを作るチャンスだと張り切って褒める。
「ゾーゴ様、美しいですね。しかも、いずれMPを失い光を失うというのが、なおさら尊く感じます。やはり、これは将来の奥様にお贈りするのですか?」
「え?」
ゾーゴとしては、研究目的で買ったのだった。しかし、正直にそれを言って詳しく話をするのは憚られた。
ゾーゴはぼやかして答える。
「そうだな。そんなところだ」
アモリアが言う。
「ゾーゴ君、さわってみていい?」
「かまいませんよ。どうぞ」
アモリアが手に取り、透かして見る。
「へえ、きれいだなー。ちょっと私も欲しいかも」
アモリアパパがピクリと反応する。
そして言う。
「ゾーゴ君、良ければ買い取るよ。いくら欲しい?」
「え?いえ、これは売るわけには…」
アモリアパパが肩を落とす。
そして言う。
「まあ、仕方ないか。王子と競り合っても負けずに勝ち取った品だ。ムラタリア家としては不屈の証明でもある、金額以上の価値を持つ品だ」
「そういう訳ではないのですが…」
「うむうむ。そういえば、スライムの核と言えばデュラハンの墓場だな。アモリア、今度家族で旅行しよう。そこでスライムの核なり、宝石なりを買えばいい。そうかぁ、アモリアちゃんも宝石に興味を持つお年頃かぁ」
ゾーゴがアモリアパパに言う。
「デュラハンの墓場とは何ですか?スライムの核が有名なのですか?」
「うん?ああ、スライムの核の産地であり、観光地だよ。昔にデュラハンという首無し騎士が退治された場所だ。夜になるとデュラハンの首が宙を舞い胴体を探す怪談が有名で、若者に人気なんだ。なぜかスライムが多く発生することでも有名だね。冒険者の出入りも多く、宿泊施設やレストラン、土産物屋も充実している。スライムせんべいが有名だな。スライムの形に焼いたせんべいだ」
「スライムが多いのですか…」
アモリアが笑う。
「ゾーゴ君はスライムが好きなんだね」
「はい。なかなか面白い存在ですよ」




