第19話 アモリア宅にて
アモリアの邸宅。
アモリア・フォン・チオル。自信満々のアホ。
帝王学部に在籍し、現在王国ナンバーツーの人間兵器として評価されている人外。
ちなみに人外ナンバーワンは王子である。
さて、アホ製造器であるアモリアの両親は、オークションの用事で先日から王都へ来ていた。
そして、娘が心配なので今後しばらく王都に滞在する予定である。
その間、アモリアの友人達を自宅に招き、アモリアの学友としてふさわしい人物かチェックをしている。
今日のチェック対象はトモエルである。
トモエル・フォン・ペンドラゴン。融通の利かない努力家。
その後ろに控えるのは、ソーカ・フォン・ドラコニア。スクールカーストが気になるタイプ。
ふたりが屋敷の門をくぐると、そこにはアモリアが立っていた。
「トモエルちゃん、いっしゃーい!」
「アモリア、本日はお招きいただきありがとうですわ」
「来てくれてありがとー。あれ、ソーカちゃんも来てくれたのー?」
「えへへ。トモエル様のカバン持ちで来ました」
「うれしいよー。これで、王子とゾーゴ君がいたら、合同授業メンバー勢ぞろいなのにねー。あ、なかに入ってよ」
アモリアに案内されて、庭へ歩く。
庭にはテーブルが置かれ、アモリアパパとママがお茶をしていた。
「パパ、ママ、トモエルちゃんとソーカちゃんが来たよー」
「おっ、待っていたよ。さあ、こっちへどうぞ」
「お茶とケーキを用意させますわね」
テーブルの席次は、パパ、アモリア、ママ。その対面にトモエル、ソーカ。
和やかにアホ製造器による面接が始まる。
メイドがやってきた。
アモリアの前にケーキを置く。アモリアの顔を見たその時、急に固まる。
そして、つぶやく。
「て…天使っ!?」
アモリアを天使と見間違えたのだ。このメイドがよくやってしまう勘違いである。
アモリアが笑う。
「やだなー!天使じゃないよー。ボクはアモリアだよー」
「す、すいませんっ!間違えました」
「困ったなぁー。ふふふ」
アモリアパパが言う。
「アモリアちゃんと天使はそっくりだもんなぁ」
アモリアママが言う。
「私も天使とよく間違えますもの」
ソーカが言う。
「私はアモリア様を美の女神と間違えますよー」
「「なっ!?」」
アモリアパパとママは驚愕する。とっさの判断で、天使を美の女神までランクアップさせるとは。
優れた判断力と瞬発力。ソーカはなかなかの逸材のようだった。
「ニヤリ」
ソーカがニヤリと笑う。
ここからが腕の見せどころだ。
「チッ!」
メイドが舌打ちする。
強力なライバルの登場に怒りと恐怖を感じる。
「…な、なに?え?え?」
トモエルは何が起きているか理解できない。
アホ製造器達のバトルが理解できていない。
トモエルパパが言う。
「トモエルちゃんもソーカちゃんも合同授業に参加したんだよね。アモリアちゃんの様子はどうだった?」
気を取り直してトモエルが言う。
「見事としか言えませんわ。生まれついての才能をお持ちなのでしょう。あと、私はアモリアに鍛錬を怠らない努力をする心を感じました。才能はもちろん素晴らしくありますが、何よりも敬意を払うべきは才能よりも努力するその高潔な人格です。お見事ですわ」
「トモエルちゃん、ボクをそんなに褒めないでよー」
アモリアママがつぶやく。
「何か、違う…」
アモリアパパがつぶやく。
「なんていうか、そうじゃなくて…」、もっと、こう
それに気付いたソーカがニヤリと笑う。そして言う。
「アモリアさまは才能と努力の天才です!王国ナンバーワン!世界ナンバーワン!ヨッ、色男!」
アモリアママの顔がパッと輝く。
「これよ、これ!これが欲しかったの!」
アモリアパパが手を打つ。
「そうそう、そんな感じなんだよ!理屈は要らんのだよ!」
アモリアが苦笑する。
「ソーカちゃん、ボクをほめてくれてうれしいんだけどさー、ボクはナンバーツーだよ。王子には勝てないから…ナンバーワンはやめてくれたら嬉しいかなぁ」
「「「ゴクリ…」」」
アモリアパパとママとメイドがゴクリと唾を飲む。
ソーカは墓穴を掘った。
アモリア賛美は王子への不敬に繋がる発言に変質した。
王国最強権力を持つ王家の王子VS伯爵家の子女アモリアの図式である。
ソーカはどう答えるのか。
王子への不敬を犯してまでアモリアを褒めるのか?
その覚悟があるのか?
トモエルを除く全員が固唾を飲んでソーカに注目する。
ソーカは毅然として言う。
「トモエル様はどう思いますか?」
「へ?」
トモエルは突然話を振られて面喰らう。
しかしすぐにいつもの通り、融通が利かない努力家として信念を持って回答する。
「そうですわねぇ…お二人とも立派な武の才をお持ちではありますが、私は何よりもアモリアの努力に敬意を感じますわ。才能に甘えない、素晴らしい人間性をお持ちですから。努力は何よりも尊ばれるべきです」
「やだなー。ボクはそんなに立派な人間じゃないよー」
ソーカがすかさず言う。
「ヨッ!アモリア様はナンバーワン!天才!女ったらし!ところで、本日は理力の剣を見せていただけるとか」
トモエルを利用して無傷で乗り越えたソーカ。そして話題は理力の剣へアクロバット飛行した。
アモリアママが言う。
「なかなかの人材ね…合格よ。メイドちゃん、理力の剣を持ってきて」
「…はい、かしこまりました」
メイドの背中は、敗北感に打ちのめされていた。
理力の剣。ボロボロの銅剣。
ペンドラゴン領内を荒らした竜人メリュジーヌの剣。
光をまとい多くの人間の血を吸ったと言われるが、どこまで本当かよく分からない、呪われた魔剣みたいな言われ方をしている剣。
だが確実に言えることがある。
それは、流動性が低いがインフレ耐性に優れ、「長期保有に向く、値崩れしにくい実物資産」として高評価を受けている事実である。
トモエルは理力の剣を見て、苦笑する。
先日までトモエル本家の家宝だった。それを、トモエル本家は現金欲しさに手放した。
本家の権威の失墜として、今この場にある。
しかし、これは所詮は値崩れしにくい実物資産である。
大切なのは心。物ではない。
アモリアパパが言う。
「アモリアちゃん、持ってみて!」
「うん!」
「ポーズを決めてみて!」
「こうかな?」
「うひょー!アモリアちゃん最高!」
しばし堪能して、アモリアパパは満足した。
アモリアがテーブルに戻り、言う。
「そうだ、ソーカちゃんはすごいんだよ」
「へ?」
突然に話題を振られて、ソーカが驚く。
アモリアは続ける。
「ソーカちゃんはなんと、滅多に生まれない召喚術士なんだ!しかもドラゴンのロンロンを召喚できるんだ!」
「ちょ!アモリア様、やめてください。私は能無し召喚士なんです。MP不足で、ドラゴンの尻尾しか…」
「すごいよねー!未来の大召喚士だよー。やって見せてよー」
言い訳も虚しく、アモリアに押し切られるソーカ。
諦めて、ドラゴンを召喚することになる。
「ナンタラカンタラ(詠唱)…いでよ、ロンロン!」
地面に異界の門扉が開き、ロンロンの尻尾が1 メートル程出てくる。
アホファミリーが興奮する。
「ソーカちゃん、すごいじゃないの!」
「見事なドラゴンの尻尾だ!」
「ね!すごいでしょ!」
トモエルはそれをにこやかに見ている。ソーカが自信を取り戻し、コネとか云々で騒ぐよりも、努力に邁進する事を夢見て。




