第22話 デュラハンの墓場 1
王都からデュラハンの墓場まで、馬車で半日の距離である。
ゾーゴ一行は早朝に出発しているので、昼には到着する予定になっている。
草原の中の道路は整備され、沿線付近は冒険者の巡回によりはぐれモンスターも害獣も無く、ほぼ安全である。
無秩序にスポーンするスライムも足が遅く脅威とならない。
馬車の箱の中身は、ゾーゴ、アズ、シャルロット、イネコの4人。
ゾーゴとアズが並んで座り、対面にはシャルロットとイネコ。
雇われの冒険者にゾーゴが舐められまいと胸を張るアズ。アズは、ゾーゴ達とジャロット達が仲のよい関係だとは知らない。
シャルロットは一見大人しくしているが、本妻アズを値踏みしている。
好奇心に耐えかねて、チラチラとアズを見る。
「…チラチラ」
「…あれ?」
アズがやがてその視線に気付いた。
少しずつ落ち着かなくなる。
やがてキョドりだし、緊張に耐えかね足をモゾモゾする。
ゾーゴがそれに気付く。見かねて、外を指さしてアズに言う。
「アズ。あそこを見て。大きなバッタが跳んでる」
「あら、本当ですね。とても大きいです」
バッタに注意がいき、アズの緊張が解けた。
そこに、イネコが言う。
「バッタは食べられるよー」
「…はい?」
唖然とするアズをよそに、ゾーゴがその話題に食いつく。
「バッタはおいしいのか?」
「うん。カリカリしてる。炒めて塩をかけたら、ナッツみたいな味になるよ」
「ほう。うまそうだな」
「足は食べないほうがいいよ。とがってるから」
「なるほど。食べてみたいな」
「…」
アズがジト目でゾーゴを見る。それに気付いたゾーゴは口を閉じ外を見る。
アズがため息をつき、視線を馬車の中に戻した。
アズを凝視するシャルロットと目が合いビクッとなる。
「ビクっ!あの、私の顔に何か付いてますか?」
アズの言葉にシャルロットが頭をかきながら言う。
「あ、いや、すんません。本妻さんはべっぴんさんやなぁ、と思いまして。つい」
「ホンサイ?」
「あ、いや、ホントにべっぴんさん、言いましてん」
「は、はあ。ありがとうございます」
そこにイネコが興奮して声をあげる。
「あっ!アニキ、スライムがいるよー。みてみてー」
興奮してゾーゴの膝をバンバン叩く。
ゾーゴのあごがカクンと落ち、固まる。
アズが驚き、うろたえる。
「ア、アニキ!?え?え?」
シャルロットが慌ててフォローを入れる。
「いや、あの、その、この子は…ア、アホやねん」
「え!?」
「…アホやねん」
アズの表情が驚きから慈しむものに変わった。
そして言う。
「…アホなら仕方ありませんね」
イネコははしゃぎ続ける。
「ねえ、アニキ!スライムだよー。狩ろうよー」
「…」
「ねえ、アニキ!聞こえないのー?通り過ぎちゃうよー」
「…」
「ねえってばー。もう、アニキは仕方ないなぁ。スライムさーん、さよならー」
「…」
馬車は走る。
昼過ぎ、予定通り馬車はデュラハンの墓場に到着した。
「イネコ、どうしよう。ケツが真っ二つに割れてる気がするんや。触ってみて」
「あ!割れてる!どうしよう!」
「…まあ、最初から割れてるんやけどな」
「え!?…もうー、シャル、驚かせないでよー!」
「ワッハッハ!メンゴメンゴ」
痛む尻を各自もみほぐしながら、まずは宿へ。
アズがゾーゴに言う。
「では、ゾーゴ様には最高級ホテルを用意しておりますのでご案内いたします」
「アズ達は?」
「私とシャルロットさん達は普通のホテルに宿泊となります」
「分かった」
ゾーゴ達は最高級ホテル、デュラハンビュー・グランドホテルに入る。
アズが手続きをする間、ロビーのソファにゾーゴ、シャルロット、イネコが座る。
イネコが天井を見上げて、興奮して言う。
「シャル、天井がすごく高い。キラキラしてるのがぶら下がってるよー」
「あれはな、サンガリアってやつやな。確かろうそく置きやな。知らんけど」
「サンガリア、きれいー」
ゾーゴが言う。
「シャンデリアだ。ふたりともすまんな。ひとりだけ違う場所に泊まってしまって」
「ええんやで。それより、本妻さんはえらいべっぴんさんやなぁ。しかも甲斐甲斐しい。オカンみたいに面倒見てくれるやないか。アニキが惚れるのも分かるわ」
「そ、そうか?」
イネコがモジモジして言う。
「ねえ、アニキは本妻さんとラブホに行くの?」
「行かない。それでだな、スライム狩りはふたりでやってきてくれ。核は王都に戻ってから買い取るからな。くれぐれも安全第一で頼むぞ。あと、MP切れで観光を楽しめなくなったらだめだから、ほどほどでやめておけ。ほら、小遣いだ」
「へっへっへ。アニキ、ありがとうやで」
「アニキありがとー。スライムせんべい食べるよー」
アズが受付を終わらせこちらにやってきた。
「ではゾーゴ様、後程、ベルボーイがお部屋まで案内しますので、こちらで少々お待ちください。あと、我々の宿は受付に伝えてあります。ご用の際は、受付に申し付けてください」
「分かった」
「馬車でお疲れでしょう。後ほどお迎えに上がりますので、お部屋でひと休みなさっておいてください」
「うん、ありがとう」
アズがシャルロットとイネコに言う。
「さて、我々も行きましょうか」
「オッケーやでー」
「アネゴ、オッケーだよー」
「アネゴ!?」
アズ達を見送り、ゾーゴはソファに深く腰を沈める。
ふと周囲を見る。
人が少ない。
自分以外は4人くらいしか客がいない。
「観光シーズンじゃないのか?いや、外は人で賑わっていたし…」
そこに、新しい客がエントランスに入ってきた。
それを見て、ゾーゴが顔をしかめる。
「うわぁ…なんで王子がここに?」
王子レインハルト・ヴェンリスだった。
後ろに、一人の少女を連れている。
「とりあえず寝たふりをしておくか」
ゾーゴは下を向いて目をつむる。
闇の世界で、耳に意識を集中する。
足音がこちらに近付くのが聞こえてくる。足音の主が王子でないことを祈る。
やがて、足音が近くで止まり、向かいのソファに誰かが座った気配がした。
そして、王子の声。
「目を開けろ。ゾーゴ・フォン・ムラタリア」
ゾーゴは覚悟を決めて、目を開ける。
そして、ハッと驚いたふりをする。
「ハッ。お、王子!?これはこれは…」
席を立ち、慇懃に挨拶をする。
「挨拶はいい。座れ」
「はい、では失礼します」
ソファーに座ったゾーゴに、王子が言う。
「なぜここにいる」
「なぜって…観光ですけど」
「ひとりか?」
「いえ、連れが3人います」
「どこにいる」
「別の宿に泊まります」
「よし。マシェロ!来い!」
振り返り、受付で手続きをしている少女に声をかける。
マシェロ・フォン・ドルンベルク。
黒髪ロングの清楚系少女。
養殖の天然キャラ。
マシェロは王子の声に驚き、ピンと背筋を伸ばす。そして、慌ててこちらに走り出し、足がもつれてコケた。
慌てて起き上がりまた走り、王子のソファにたどり着く。
マシェロが言う。
「お、王子、なんでしょうか?」
「うむ。こちらのゾーゴ・フォン・ムラタリアの連れ3名をここに泊めるように、受付に伝えろ」
「はい!ゾーゴ様ですね!30名!」
「3名だ」
「3名!分かりました!」
マシェロが受付に走り出す。またコケた。
ゾーゴが唖然として言う。
「ええと、王子…何ですか?」
王子がため息をつき、答える。
「あのマシェロがな、予約を間違えたんだ。2部屋の予約を取るように言っていたんだが、20部屋を予約してしまった」
「なるほど…通りで人が少ないと思いました」
「まだまだ部屋は余っている。他に泊めたい人間がいれば泊めてやれ」
「恐れ入ります。では、お言葉に甘えます」
頭を下げるゾーゴ。
王子が言う。
「オークションの時の、詫びだ」
「え?」
「まだまだ額が足りんだろうがな」
王子は立ち上がり、受付へ歩く。
そして、ベルボーイとマシェロと共に、階段へ消えていった。
それを呆然と見送るゾーゴ。
やがてベルボーイがやってきてゾーゴに言う。
「お待たせ致しました。お部屋へご案内致します」
「…先程の客と近い部屋か?」
「え?いえ、階が違いますが…」
「うむ。俺の連れの3人も、違う階にしてやれ」
「かしこまりました」




