第17話 デートの予行練習
冒険者ギルド。
いつもの席にシャルロットとトモエルが座っている。ゾーゴに気付くと元気よく手を振る。
「アニキー、こっちやでー」
「アニキ、やっほー」
ゾーゴはテーブルに座る。
そしてモジモジする。
シャルロットが言う。
「アニキ、なんやモジモジして…どないしたん話きこか?」
「いや…実はな、セカンドに食事に誘われた」
シャルロットの目がカッ!と開く。
「セカンドか!おかたいセカンドがついにメス化やな!ええでええで、セカンドは愛人まっしぐらや。愛人にメタモルフォーゼ寸前や!」
イネコがキョトンとしている。
ゾーゴは照れながら言う。
「まあ、実際は愛人とかではなくて、食事を奢ってもらいたいだけかもしれん。それに、本妻にセカンドと食事に行くのをバレてしまったしな」
シャルロットが興奮する。
「なにぃ!?本妻にバレたんか!?ドロッドロやんけ。はぁはぁ。あ、ヨダレが出てもうたわ、ジュルリ。で、本妻は何ていうたんや」
「…避妊はきちんとしろ、と言われてしまった」
ゾーゴがテーブルに突っ伏す。
シャルロットが叫ぶ。
「ドロドロやー!ドロドロやー!楽しいー!あたし、めっちゃ楽しいー!」
しばらくして、立ち直ったゾーゴが言う。
「と、言うわけでな、次の食事をどこに連れていくかの相談をしたい」
「よっしゃあ、あたしに任せとき!本妻公認やからな!ムード満点のデートのあとにラブホに行こな!」
ゾーゴが顔を背けてニチャアとする。
「ニチャア」
「せやなぁ、デートと言えばウィンドーショッピングかな。セカンドが欲しがるもんを買ってやるんや。札束で頬をひっぱたくんや」
ゾーゴが慌てる。
「まじめな女性だ。そんな事は逆に嫌われる」
「そうか?じゃあ、なんか小物でも買ってやるんやな。安もんでも記念に残れば女は多少は喜ぶ」
素晴らしい回答にゾーゴは満足する。
「いいぞ、シャルロット。ウィンドウショッピングの意味が間違っているが、内容は素晴らしい。その調子で頼む」
シャルロットの表情が、突然曇った。
そして、重々しく言う。
「…いや、記念に残したらアカンわ」
「え?」
「所詮は遊びの、都合のいい女や。変に記念を残したら後々うっとうしい。アニキがポイする時にセカンドが記念品を片手にすがってくる。そんで慰謝料を請求される。そんなオモロイ光景が目に見えとる」
「はぁ?」
「ここは形に残らへんエサを与えるべきなんやが…何がええやろか。イネコ、意見だせ」
イネコは答える。
「うーん。串焼きかなぁ」
「それや!串焼きや!ウィンドウ串焼きや!」
ゾーゴが頭を抱える。
「ウィンドウ串焼きって、なんだよ。普通デートと言ったら、きれいな景色を見るとか」
「それや!街のはずれに小川があるやろ。小魚やサワガニやらがいて楽しいで。そこに行こ」
イネコが興奮する。
「サワガニ!すごい!楽しーい!」
「ほれほれ、アニキ。イネコちゃんもサワガニの魅力にメロメロや。どないや?」
「うむ。小川はナイスアイデアだ。採用。そして、食事なんだが…」
「ここはシャングリラやろ」
「前回も喜んでもらえたしな。シャングリラでいいか」
「スタミナ定食でも食べたらええ」
「なに?おいしいのか?」
「うん。おいしいでー。ニヤリ」
イネコが言う。
「スタミナ定食食べたーい!」
そこでシャルロットが思いつく。
「せやアニキ。イネコでデートの練習をしてみようや」
「練習?」
「イネコをセカンドに見立ててエスコートするんや。デートは場数や。やるに越した事はない」
「なるほど。よし、行くか。イネコ、今日は恋人役を頼む」
イネコがモジモジしだす。
ゾーゴが不審がる。
「どうしたイネコ?俺の恋人役をやりたくないなら、無理強いはしないが…」
「あの…アニキと私でラブホに行くの?」
「誰が行くかっ!」
そして3人は街に繰り出す。
串焼きを食べながら談笑して街を歩く。とても楽しい。
イネコがレストランから借りた小型の石臼を持っているのが不思議だったが、イネコの奇行には慣れている。ゾーゴもシャルロットも気にせずスルーする。
途中、アモリアとソーカが歩いているのを見かけた。
「トモエル様、アモリア様のご自宅に訪問するんですか!?」
「ええ、そうよ。合同授業のご縁ですわね。メリュジーヌの剣を見せていただけるそうですわ」
「コネの匂いがする!私も連れて行って下さい!」
「へ?いや、私がホストではありませんから、私が決める訳には…」
ソーカがボソボソ呟く。
「トモエル様の本家…」
「…はい?」
「いえいえ、ただの独り言です。ニヤリ」
ニヤリと笑うソーカ。
トモエルが怯えて言う。
「ソーカあなた…例の私の本家批判発言を使って、私を脅しているつもり?」
「いーえいえいえ、脅してなんかいませんよ。私ごとき男爵家の娘が、伯爵家でおわせられるトモエル様を脅すわけがございません。私はただ、トモエル様の荷物持ちをしたいなぁと思っているだけです」
「だから、私はホストではないと…」
「本家批判…」
「くっ!わ、分かりました。何とかします」
「ニヤリ」
ゾーゴは気づかれないように下を向き、足早に歩き去る。
そして、小川へ。
イネコが楽しそうに川の石をひっくり返して遊んでいる。
ゾーゴとシャルロットは川辺りに座り、それを見ている。
シャルロットが真面目になって言う。
「なあアニキ、本妻に避妊しろって言われるのは正直つらいやろ」
「ああ。誤解だと言っても信じてもらえない」
シャルロットが天を仰いで言う。
「まあ、しばらく放置プレイでええやろ。本妻も話半分とちゃうかな。アニキは女遊びできるタイプとちゃう。本妻もそこら辺は分かっとるはずや。なあ真面目な話、アニキは愛人とか無理やろ」
ゾーゴが首をかしげる。
「なんだ、どういう意味だ?」
「アニキは真面目で優しいええ男やからな。つまり、ひとりの女を大切にするタイプやと思うねん。本妻とセカンド。アニキがどっちを選ぶんか知らんけど。誤解とか色々あるけど、まあ、グチャグチャにはならへんと思うで」
ゾーゴは苦笑する。
「…実は俺の父親も同じタイプでな」
「そうなん?」
「ああ。母はもう亡くなってしまったが、父は再婚をしていない。周囲からいくらは再婚しろと促されても、頑なに拒否している」
「ああ、アニキの親父さんって感じやなぁ。めっちゃ一途でええ男や。あたしもそんな男に愛されたい」
「そんな父を見て育ったから、俺はドロドロの恋愛なんかはご免だな」
そこに、パンパンの袋を持ったイネコがやってくる。
「なんやイネコ。そこに何が入っとるんや」
「サワガニだよー」
ゾーゴが笑う。
「すごいな、大漁じゃないか」
「へへへー。アニキー、そこの石臼を持ってきてー」
「うん?分かった、ほれ。で、何をするんだ?」
「へへへー。見ててね。あ、こら、逃げちゃダメ!」
サワガニを石臼に入れる。サワガニが逃げようとするのを石臼に戻す。
「イネコ…もしかして…」
「油で揚げたらおいしいんだよー。じゃあ行くねー。ゴリゴリ」
ゾーゴのあごがカクンと落ちる。
「あっ…あっ…」
「こらこら、逃げちゃダメだよぅ。大人しくしてよ。ふふふ。ゴリゴリ」
「…」
「ゴリゴリ」
「ヒィィィ!」
そして、日が暮れて3人はシャングリラへ。
持ってきたサワガニのすりつぶした物を厨房で揚げてもらい、皆でつまむ。
「これはうまいな。素材の味が生きている」
「ほんまうまいなぁ。イネコ、グッジョブやで」
「えへへー。私の大好物なんだー。たくさん食べてねー」
「あ、そうだ。今日はシャルロット汁を水筒2本で頼む」
「オッケーやでー」
やがてスタミナ定食が運ばれてきて、3人で食べる。
食べながらゾーゴが言う。
「今日は楽しかった。ふたりともありがとうな」
「ええんやで。あたしも楽しかった」
「ねえ、また3人で遊ぼうよー」
「うむ。遊ぼうな」
そして食べ終えて、店を出ようとする。
店員がニヤニヤ笑いながらゾーゴに紙を渡す。
見ると、ラブホの割引券だった。
シャルロットが言う。
「アニキ、スタミナ定食を食べたらラブホの割引券がもらえるシステムなんや」
「なるほど」
「いつか、本命と食べに来たらええ」
「…分かった」
イネコがモジモジとする。
「どうしたイネコ。トイレか?」
「あの…今からラブホに行くんですか?」
「誰がいくかっ!」
ゾーゴは自分の邸宅に帰宅する。
アズが出迎えてくれる。
アズがジト目で言う。
「ゾーゴ様、デートはいかがでしたか?」
「だから、アズ。そんなんじゃないってば」
「ムラタリア家の嫡男です。避妊は必ず…」
「アズ、だから…まあ、いいや。それよりも、これ。お土産」
水筒をひとつアズに手渡す。アズの喉がゴクリと鳴る。
「これは…シャルロット汁ですね」
「そうだよ。あとで2人で紅茶を飲もうよ」
「はい!」
アズとの幸せなお茶の時間を終え、ゾーゴは自宅に戻る。
机に、オークションで落札した変異体スライムの核を置く。
一見、大きなほのかに輝く美しい宝石。
しばらく眺めて楽しんだあと、ゾーゴは実験を始める。
シャルロット汁を入れた水筒を取り出す。
ペンの柄を水筒に突っ込む。
ペンの柄に汁を付けて、スライムの核の上に持ってくる。
水滴がぽたりと落ちた。
スライムの核の光がほのかに強まる。そして、シャルロット汁は核に吸い込まれて消えた。
「シャルロット汁は、MP吸収効率が100%に近いのだろう」
ゾーゴは満足して、変異体スライムの核を大切にしまう。




